死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第10話「初対面」

「お前がおっぱい師範か」

「今までいろんな子と出会ってきたが、初対面でそんなことを言われたのは君が初めてだよ。それと私の名前はミカヤ・シェベルだ」

 

 8月下旬。今年もインターミドルに参加することになったアタシは、ベテランのミカヤ・シェベルと記念すべき初対面を果たしている。

 去年の大会で都市本戦に出場したおかげか、今回は選考会が免除された。いわゆるシードだ。

 そんで……エリートクラスだっけか? そこからスタートすることになった。

 ちなみにシェベルは去年、試合でハリーを秒殺した張本人だったりする。……マジかよ。

 

「いいじゃねえか別に。おもしれーじゃん」

「私としては何一つおもしろくない」

「つーかこんなところで何してんだよ? ここはケーキ屋だぞ?」

「まるで場違いみたいな言い方だね。私だってケーキぐらい食べるさ」

 

 現在アタシは結構な行列ができているケーキ屋で並んでいたりする。

 なんせ今日は当日限定のアップルケーキが売り出されるからな。これは食べておきたい。

 そして並んでいる最中に前の客がシェベルだと気づき、一応挨拶したってわけだ。

 

「緒方サツキだ。よろしくなおっぱい」

「サツキ、とりあえずその呼び方はやめようか。見られてるからやめようか」

 

 誰に見られてるんだよ。

 

「じゃあおっ――」

「まずはおっぱいという単語を使わないことから頑張ろう。話はそれからだ」

「いや、使わないつってもよ……大体お前、なんの師範やってるんだよ?」

「抜刀術天瞳流だよ」

「抜刀術天眼流?」

「天瞳流だ」

 

 超人的な視力を持って相手の動きを見切り、最後に刀で切り捨てるスタイルって感じだから天眼流と思ったが違うみたいだな。

 それからもシェベルと適当な会話をしていると、非情とも言える一言が聞こえた。

 

 

『すいませーん! アップルケーキ完売しましたー!』

 

 

「「え?」」

 

 アタシとシェベルの声が綺麗にハモる。今のは完璧だったぞ。っと、そんなことより……

 

「う、売り切れ……?」

「そのようだね……」

 

 いや、嘘だろ? 嘘だよね? こっちは朝イチで並んでたんだぞ? なのに売り切れってどういうことだよ。冗談抜きで納得いかねえんだけど。

 そう思うとイライラしてきた。どうしよう。この怒りはどこにぶつけたらいいんだ……?

 うーん……やっぱりこのイライラは拳に乗せて放つべきだよな。うん、その方が手っ取り早い。

 

「シェベル!」

「な、何かな?」

「今すぐアタシにボコられろ!」

「どうしてそうなるんだい!?」

 

 何かを殴ってスッキリしたいから。

 

「な、いいだろ? 顔面に拳をめり込ませるだけだから」

「……ダメに決まってるだろう」

「なぜ!?」

「少しは自分の立場を考えたらどうだ!?」

 

 それはどの立場のことを言っているんだ? 不良としての立場なら問題ないぞ?

 このやり取りが数十分に渡って行われたが、結局シェベルから許可が下りることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ、このイライラはどこにぶつけたらいいんだよ」

〈どこにもぶつけないでください〉

 

 あれから数時間後。シェベルと別れたアタシはイライラしながら昼飯も食べずに人気のない街中を彷徨っていた。

 晴天の真っ昼間だというのに人が少ないのはちょっとおかしい。しかし、それも右側にある建物を見た瞬間に納得できた。

 視線の先にあったのは近寄りがたい雰囲気の廃墟と化したビル群だった。……どうりで通行人が避けて通るわけだ。

 いかにも不良もといゴロツキ辺りが利用してそうな感じはあるが、建物の周辺には誰もいない。

 

(せっかくだから入ってみるか)

 

 その場でボーッと立っていても仕方ないので、一番近くにあったサラリーマンが通いそうなビルへ歩み寄ろうと一歩踏み出して――

 

 

「おうっ!?」

 

 

 ――見事に躓いた。誰だ足下にマネキンを置きっぱなしにしたバカヤローは!? 思いっきり顔面から転びそうになったじゃねえか!

 

「こんなところにマネキンなんか捨てるなよ!」

〈マスターが躓いたのはマネキンではなく人です〉

「え?」

 

 ラトに指摘されて足下を見てみると、そこにあったのはマネキンではなく男性だった。

 しかもアタシがさっきまでいそうだと予想していたゴロツキの類いである。

 待てよ。ゴロツキは大抵、数人のグループで行動するはず。ということは……

 

「やっぱりか……」

 

 案の定、周りには四人ほどのゴロツキが倒れていた。全員男だ。

 何かが暴れたような痕跡はあまりなく、連中には外傷が見られない。少なくとも刃物でやられたわけじゃなさそうだな。

 倒れてる男たちに近づこうとした瞬間、人の気配を感じた。すぐに視野を広げて全体を見渡してみると、背後に一人の少女がいた。

 体格はアタシより一回りほど小柄で髪は橙色。右手には一本の鉄パイプが握られている。

 ソイツはアタシを敵と見なしているのか、その鉄パイプで殴りかかってきた。……え?

 

「ちょっと待て! アタシは――」

「くたばれぇっ!」

 

 急いで弁解しようと振り向くも、鉄パイプが頭に直撃した。

 ゴヅン! という鈍い音が響き、食らった衝撃で視界が揺れる。

 しかし、アタシは倒れることなくその場に立っていた。もちろん出血もしていない。

 

「……何すんだテメエ」

「あ、あれ――ッ!?」

 

 アタシが倒れないことに驚いていた少女の顔面を右手で鷲掴みにし、そのまま後頭部から地面に叩きつける。

 その衝撃で地面は少し陥没し、それなりの轟音が響き渡った。

 ケーキ屋の件といい今回といい、アタシが一体何をしたってんだよ……!

 

「人がイライラしてるときに不意討ちするとはいい度胸だなぁ?」

「あ、あんた本当に人間か……!?」

 

 そのうえ人外扱いである。初対面の相手に対してこれほど失礼なことはないだろう。

 とはいえ、ミッドチルダの人間でアタシへの不意討ちを成功させたのはお前が初めてだ。

 

「…………お前、名前は?」

「……シャンテ・アピニオン」

「一応覚えとく。そんじゃ……」

 

 アタシはアピニオンの顔面を掴んでいた手を放し、すぐにマウントを奪う。そして――

 

「一生寝てろ」

 

 微笑みながらアピニオンの顔面にひたすら拳を振り下ろし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「あースッキリしたー!」

〈アピニオンさん、死んでいなければいいのですが……〉

 

 溜まっていたもの全てを拳に乗っけてアピニオンにブチ撒けたアタシは、今朝とはうって変わって上機嫌になりながら帰路についている。

 アピニオンに拳を放ちすぎたせいか、両手が少しヒリヒリする。

 にしてもアイツ、なんで不意討ちなんか仕掛けてきたんだ? 誰かの陰謀か?

 そんなことを考えながらも、アタシは上着のポケットからタバコを取り出す。

 

「大丈夫だって。人はそんなに簡単に死なねえから」

 

 そう言いながら鉄パイプで殴られた頭を擦る。

 あの日――闇拳で戦ったとき以来、アタシは並みの打撃なら平然としていられるようになった。

 今では射撃魔法を食らっても平気である。さすがに砲撃魔法は厳しいけど。

 

「さて、今日の晩飯はなんにすっかなぁ~?」

 

 とりあえず今日の献立を考えよう。イライラしてたせいでなんも考えてなかったから。

 アタシはスーパーが閉店してないことを祈りつつ、久々の歩きタバコを堪能するのだった。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 8

「緒方サツキだ。よろしくなパイオツ」
「大して変わらないからやめようか」
「じゃあなんて呼べばいいんだよ!?」
「とりあえず胸にこだわるのはやめようか」


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