死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第12話「殲撃と怒り」

「さっきからニヤけてるけど、なんかええことでもあったんか?」

「ん、ちょっと嬉しくてな」

 

 ベンチでの休憩も終わり、第2ラウンドに入ってすぐにエレミアが話しかけてきた。

 正直嬉しくてたまらない。娯楽のために参加した大会でこんなすげえ奴に出会えたのだから。

 それにここからはアタシも手加減なしの本気でいく。……本気を出すのは闇拳以来だな。

 まあクラッシュエミュレートも回復したし、思いっきり暴れますか。

 

「せいぜい楽しませてくれよ? ここから先はアタシにとっても未知の領域だから」

「……へ? それってどーゆー意味や?」

 

 そのままの意味だ。

 

「いくぞ――」

「!?」

 

 ある程度あった間合いを一瞬で詰め、顔面に右拳を二発ほど叩き込む。もう一発ブチ込もうとするもさすがに見切ったのか片手で受け止められ、右のボディブローを打ち込まれた。

 続いて手刀を繰り出してきたが、アタシはそれよりも速く左のストレートを顔面に打ち込み、懐に前蹴りを入れてからハイキックで蹴り飛ばす。

 しかし、エレミアは両手で顔面をガードしていたので倒れることはなかった。

 それを見たアタシは自分でもわかるぐらいニヤけてしまい、思わず右手で口元を押さえる。

 間違いない、コイツは本物だ。変態でなければ素直に褒めていたぞ。

 

「…………飾りのわりには硬えな」

 

 左脚がちょっとズキズキする。感覚的には打撲だなこれ。

 それに攻防の対応が速すぎる。もう少しスピードを上げた方がいいかもしれない。

 

「鉄腕は飾りやないよ?」

 

 いつの間にか不満そうな表情をしたエレミアがアタシの懐へ潜り込んでいた。

 すぐにタックルの要領で受け止めようと構えた途端、それに気づいたのか一歩後退してから左拳を打ち込んできた。

 脇腹から骨の軋むような音が聞こえ、思わず顔を歪めてしまう。

 それでもアタシはその場で踏ん張って迫り来る右拳を左手で受け流し、右手で胸ぐらを掴んで引き寄せ、頭突きをお見舞いする。

 

「はい次ぃ!」

 

 さらに間髪入れず拳の連打を、それこそマシンガンの如くエレミアの顔面へ打ち込んでいく。

 エレミアはこれを両手でガードしていたが、力負けしたのか次第に押され始めた。

 しかし拳の痛みもどんどん増していき、額に嫌な汗が滲み出る。

 このままじゃ拉致が明かない。そう思ったアタシは拳の連打をやめ、がら空きの懐へ魔力の衝撃波をゼロ距離から撃ち込んだ。

 

「……シュペーア・ファウスト!」

「メテオブロー!」

 

 その場で踏ん張ったエレミアの左拳から渾身の一撃が放たれ、アタシもこれに対抗すべく即席で編み出した左の拳打をぶつける。

 通常の拳とは違い、魔力を拳に集中させているのが特徴だ。要は魔力付与打撃だな。

 その拳とエレミアの拳が激突し、そこから辺り一面を吹き飛ばすほどの衝撃波が発生した。

 アタシが拳を痛めているということもあってか、しばらく押し合っていたが――

 

「「っ!?」」

 

 互いに弾かれる結果となった。体勢を整えて左手を動かそうとするも、思ったように動かない。

 ヒリヒリするなんてレベルじゃないぞこれ。

 それはエレミアも同じだったらしく、右手で左手を押さえていた。

 

「――あはははははっ!」

 

 とうとう我慢できずに笑い声を上げてしまう。心踊るってのはこんな感じなのか。

 エレミアは再び周囲に弾幕陣を生成し、それを一斉に撃ち込んできた。

 アタシはそれをかわしつつ間合いを詰めていき、前方宙返りをして踵で顔面に蹴りを入れる。

 仰向けになる前に起き上がってエレミアが放った左の回し蹴りを受け止め、掌底を打ち込むと見せかけて胸ぐらを掴み、頭突きをかました。

 

「またか……っ!?」

 

 体勢を立て直したエレミアの右拳が顔面に突き刺さる。だけどアタシはこれを意に介さず、ジャンプすると同時にハイキックを放つ。

 続いてラリアットで叩きつけ、立ち上がろうと前屈みになったところをサッカーボールキックで蹴り飛ばした。

 やっとダウンが取れると思いきや、エレミアは何事もなかったかのように立っていた。

 ――寒気がするほど冷たく、機械のように澄み切った目で。

 

「……っ!」

 

 雰囲気が一気に変わったことを察し、脱力した自然体で構え、五感を研ぎ澄ませる。

 視野を広げろ。耳を澄ませ。肌で気流の流れを読み取れ。決して気を抜くな。

 そんなアタシの気を知らずにか、エレミアは無表情で構えている。すると……

 

「ガイスト・クヴァール――」

 

 ボソリと呟いた瞬間、目の前からわずかな音を立てて姿を消した。並みの選手ならどこに消えたんだ!? とか思うんだろうな。

 だけど今のアタシにははっきりと見えている。どこに消えたって逃がさねえよ。……いた。右斜め後ろ。加えてジャンプしてやがる。

 左手に魔力をまとってるな。後はエレミアのスピードに対応できるかどうかだ……!

 

「この……ぉ!?」

 

 エレミアがいる方向へ振り向き、奴の左手と交差する形で左拳を打ち込む。

 交差した左手はアタシの左腕をリングごと削り取るも、エレミア本人は殴られた衝撃があったのか数メートルほど後ろへ下がった。

 幸いにも左腕は残っていたが、感覚はない。痛覚もなければ自力で動かすこともできない。

 激痛は何度も経験しているが、感覚そのものがなくなるのは擬似的とはいえ初めてだ。

 

(クソッ、これがイレイザーか)

 

 イレイザー。対象を消し飛ばす魔法であり、その性質ゆえに加減が効かないとされる。

 知識でしかその存在を知らなかったが、まさかこんな大会でお目にかかれるとはな。

 痛みすら感じないのですぐに意識をエレミアの方へと向け、突っ走る形でエレミアと交差する。

 放った右拳は奴の肩に命中したが、当然と言うべきか今度は右腕の感覚がなくなった。

 

(ははっ、残ってるだけマシかな?)

 

 なんかクラッシュエミュレートに助けられた感じだ。というか助けられた。

 もちろんここで引き下がりはしない。まだ両脚が生きている。

 一旦リングの端まで下がり、そこから一気に駆け出し……、

 

「オラァッ!!」

 

 ある程度間合いを詰めたところで左の飛び蹴りを繰り出した。

 ほぼ同時にエレミアの左拳が迫るも、アタシは首を左へ傾けることで回避し、エレミアは右手で蹴りをガードしていた。

 体勢を整えようとするも両手が動かないせいで上手くいかず、未だ機械のような状態にあるエレミアの拳が両脚に打ち込まれた。

 それにより感覚が麻痺したのか、自然と膝をついてしまう。

 

「……ッ!」

 

 視線を戻してみると、エレミアがトドメと言わんばかりに左腕を思いっきり後ろへ引いていた。

 さすがにあれを食らうのはマズイ。とはいっても四肢が動かない。首は動くが届かない。

 全てを消し飛ばすであろうエレミアの左手が振り下ろされようとした瞬間、身体の所々が赤紫色に点滅し始めた。そして――

 

「ん……!?」

 

 全身から魔力が衝撃波のように放たれた。

 エレミアはこれを避けることすらできずにリング外まで吹っ飛び、後頭部から壁に激突した。

 この技を見るのは3年ぶりだな。何度か試しても使えなかった技だ。そんな技が、なんで今になって発動したんだ?

 とにかく最大の危機は去ったが、次はもう避けられない。こうなったら……

 

 

 

「――動け」

 

 

 

 アタシは五体を外から完全操作することで立ち上がった。

 地球で習得した身体自動操作魔法。今使わなきゃいつ使うって話だよ。

 バリアジャケットを確認してみると、イレイザーを食らった部分を中心にボロボロになっていた。もはや面影すらない。

 リングに入ってきたエレミアはそんなアタシを見て驚愕していた。……正気に戻ったのね。

 

「そこまでして勝ちたいんか……!?」

「うるせえな……」

 

 いきなり怒鳴るなよ。こっちだって今にも倒れそうなんだぞ。

 かく言うエレミアもさっきの攻撃によるダメージがようやく響いてきたのか、顔を歪ませながらふらついている。

 まあ、そんなことはもうどうでもいい。意識が翔ぶ前に決着をつけるだけだ。

 

「くく……!」

 

 思わず笑いかけるもギリギリで堪え、エレミアを右拳でぶん殴る。奴は両手でガードしていたが、そんなのお構い無く振り切った。続いて胸ぐらを掴み、頭突きを三発ほどブチかました。

 エレミアはよろめきながらも体勢を整え、仕方ないといった表情で左のハイキックを放つ。

 アタシはこれを受け止め、エレミアの身体を持ち上げて地面に叩きつけた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 あーヤバイ。身体中が悲鳴を上げてやがる。この操作を解いたらすぐにくたばっちまうな。

 だけどこの勝負はまだ続けたい。でも時間は限られている。

 

「あはは……次で終わらせるしかないや」

 

 立ち上がるエレミアをよそに右の拳を握り込み、そこに力を集中させる。

 エレミアもアタシの意図に気づいたのか、ふらつきを押さえて構えた。

 もう待つ時間すらもったいない。腹をくくったアタシは一歩踏み出し、

 

「ブチ抜けぇ!!」

 

 顔面に渾身の一撃を打ち込んだ。それと同時にエレミアの拳もアタシの顔面に直撃した。

 その衝撃が頭に響き渡り、二、三歩ほどふらついてから倒れてしまった。

 クラッシュエミュレートによる脳震盪で意識が朦朧とする中、視界に入ってきたのは……

 

 

 

「――ごめんな」

 

 

 

 寂しそうな表情で謝罪の言葉を呟くエレミアだった。

 アタシはそんなエレミアにかつてないほどの怒りを覚え、そのまま意識を手放した。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 1

「さっきからニヤケてるけど、なんかええことでもあったんか?」
「…………」
「待って。なんで(ウチ)を軽蔑の眼差しで見る必要があるん?」
「じゃあ言ってやるよ。話しかけるなこの変態」
「シバいたろか!?」


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