「あ、あのっ」
「あ?」
死戦女神の正体が判明してから数日経った日の朝。珍しく早めに登校していると、後ろから金髪カラーコンタクトのクソガキに声をかけられた。
コイツの制服、確かなんとかヒルデ魔法学院ってとこのやつだな。それも初等科。
そんな奴と知り合いになった覚えはないはずだが……どっかですれ違ったとか?
「緒方サツキ選手ですよね!?」
「だからなんだよ」
クソガキはアタシがインターミドルの上位選手とやらであることを知ってたらしく、尊敬の眼差しでこっちを見つめていた。
やめろ、そんな目でアタシを見るな。アタシはお前に尊敬されるようなことはしてない。
つーかさっきからしつこいなコイツ。もしかして通学路同じだったりする?
「ていうか誰だよお前」
「あっ、はじめまして! St.ヒルデ魔法学院の初等科2年、高町ヴィヴィオです!」
「あっそ――ん?」
高町?
「おいクソガキ」
「クソガキじゃありません! 私は――」
「お前の母親って高町なのはか?」
「え? そ、そうですけど……」
うへぇ、アイツ子供いたのか。父親の顔を見てみたいものだ。
高町――いや、コイツと被るからなのはでいいか。アイツとは半年前に出会ったんだよな。姉貴が会わせたいとかなんとかで。
それにしても、まさかこんなにド派手な娘を持っていたとは驚きだ。全然似てねえぞ。
「で、その高町のクソガキがアタシになんの用だ? あと選手って呼ぶのやめろ」
「いえ、その……サツキ選――さんが私と同じ通学路を歩いていたから思わず……」
マジで通学路が同じだったらしい。もう少し時間をずらすべきだったな。いつもはギリギリだし、たまにすっぽかしたりしてるし。
もう少し家で寝とけば良かったと後悔していると、クソガキは目を輝かせつつこう言った。
「チャンピオンとの試合、凄かったです!」
「チャンピオン?」
「はいっ!」
チャンピオンって誰だ? そんな珍しい名前のやついたっけ?
とりあえず思い返してみよう。えーっとチャンピオンチャンピオン……うん、知らない。そんな名前の知り合いはいない。
というかチャンピオンって単語の方か? それともミドルネームってやつか? いや、もしかしたらファーストネームかもしれない。
どっちにしてもマジで珍しい名前だな。案外テレビに出たりしてそうだ。
「おい、チャンピオンって誰だ」
「…………えっ? じ、ジークリンデ・エレミア選手ですよ?」
聞くんじゃなかった。
「あ、アイツ優勝したのか……」
「知らなかったんですか?」
うん、あれから絶縁レベルで音沙汰なしだったからアイツに関する情報は何一つ知らない。
加えて負けたあとはインターミドルへの興味が薄まるしな。仕方ないのだよ。ついでに奴のフルネームも忘れてたわ。
って、こんなことしてる場合じゃねえ。これ以上遅刻するとヤバイんだった。
「じゃあなクソガキ。こっちは時間がないんだよ」
「え? それって……あと私はクソガキじゃありません! 高町ヴィヴィオですっ!」
ほざいてろ。
「卒業式かぁ……」
高町のクソガキと出会ってから一週間後。なんだかんだで無事に中等科の卒業式を迎えたアタシは、その卒業式をボイコットして学校の屋上で仰向けになっていた。
だってめんどいじゃん。料理が出るならまだしも、紙切れの入った黒い筒を受け取って合唱するだけの簡単な作業だろ?
んなもんやるくらいなら一人でカラオケに行った方がマシだっての。……ごめん、今の嘘。
「――見つけたぞサツキ!」
「んあ?」
扉のある方から声がしたので首だけ動かしてみると、胸にバッジのようなものを付けたハリーが走ってきていた。
へぇ、あれが卒業生が付けるバッジとやらか。初めて見たぞ。
「ほら、もうすぐ始まるからいくぞ」
「めんどいからやだ」
「なんでもそれ言えば許されると思うなよ!?」
あれ? ダメなの?
「ま、アタシはもう帰るから――」
「なに勝手に帰ろうとしてんだお前」
「離せハリー。期間限定のどら焼き(プレミア)がアタシを待ってるんだ。早く買わねば。そして食わねばならんのだ」
「そんな言い訳が通るとでも思ってんのか!?」
「これでもダメなのか!?」
「卒業式が終わるまでは絶対にダメだ!」
すぐさまその場から離脱しようとするも、テンポよく捕まってしまった。
なんてこったい。このままじゃどら焼き(プレミア)が売り切れてしまう。
あれもう今回限りのレア物なんだよ。ついでに今日はイカそうめんが安いから買いたい。あれはあれで美味しいんだよ。
「そういうお前はどうなんだよ? アタシを連れ戻すと見せかけてサボろうとしてんじゃねえのか?」
「お前と一緒にすんな。オレは先生に頼まれてお前を迎えに来たんだよ」
恨むぞ先公。
「とにかく、アタシは行かねえからな」
「なんでそんなに行きたくねーんだよ?」
呆れたような表情のハリーに問いかけられて少し考え込む。
確かにめんどいってことを除けば特に理由はないな……はっ!?
いかんいかん、危うく釣られそうになったぞ。コイツめ、考えおったな。
「そんじゃ、今度こそ帰る――」
「だからなに勝手に帰ろうとしてんだお前」
「いいだろ別に!? じゃあなんだ! アタシが帰っちゃいけない決まりでもあんのか!?」
「逆ギレしてんじゃねーよ! 卒業式くらい出ろってんだ!」
ええい、しつこい野郎だ! アタシ一人がいなくても卒業式やれるだろうが!
全く、一体どうなってやがるんだ。以前はこんなことなかったぞ。
「上等だてめー! そっちがその気ならこっちも手段は選ばねえ!」
ハリーはさりげなく物騒なことを言ったかと思えば、両手でアタシを担ぎやがった。
あらやだ、コイツ意外と力あるのね……って違う違う。これ魔法による身体強化だわ。
コノヤロー、アタシを連れていくためだけに魔法まで使いやがってぇ……!
「おいコラ離せ! アタシは帰りたいんだ!」
「離したら逃げるだろーが!」
「当たり前だ!」
一度きりのチャンスは掴むものだ。そう、宝くじのように!
「いいから離せ! アタシは」
「はいはい。言い訳は向こうで聞いてやる」
「ちくしょうめぇぇぇぇぇーっ!!」
こうなったら向こうでフルボッコにしてやる。覚えとけよ……!
結局アタシはそのままハリーに連れていかれ、
《今回のNG》TAKE 35
「とにかく、アタシは行かねえからな」
「なんでそんなに行きたくねーんだよ?」
「…………おい、あれ」
「ん?」
ダッ(アタシ、猛ダッシュ)
「なんもねーぞ――あれ? どこ行きやがった!?」
さあ、どこでしょうね。