死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第16話「サッちゃん」

「あ゛~疲れた~」

 

 ほとんど右から左へ流したとはいえ、卒業式を無事に終えたアタシは帰宅途中に一暴れして、ようやく我が家であるマンションにたどり着いた。

 しかも夢中になりすぎたせいか、辺りは真っ暗になっていた。

 晩飯なんにしようかな? 最近は和食ばっか食ってたし……たまには洋食でも食ってみるか。

 

「しっかし卒業式ってのはどこでもああなんかね? 泣いてる奴もいれば写真を撮りまくる奴もいたし。危うく巻き込まれるかと思ったよ」

〈そこは人それぞれでしょう〉

 

 まるでお別れ会でもやってるかのような雰囲気だったぞ。大袈裟なんだよアイツら。

 ったく、一生会えなくなるわけじゃないんだからさ……まあ、場合にもよるけど。

 なんにせよ疲れた。正しい姿勢を保つのに体力使うなんて思いもしなかったよ。

 とりあえず帰ったらすぐに寝よう。そう思いながら階段を上がっている時だった。

 

 

(『へっくしょんっ!』)

 

 

 ふと、そんな音が聞こえてきた。

 

「ん……?」

 

 一旦その場で立ち止まり、耳を澄ましてみる。

 今の音……いや、くしゃみか?

 このマンションの壁は防音じゃない。だけどそう薄いわけでもない。

 

(『ぶぇっくしっ!』)

 

 もう一度聞こえてくるくしゃみ。やっぱり室内のものではないな……。

 止めていた足を動かし、階段を上がりきる。

 そして、我が家の玄関前を見て言葉を失った。

 

「アイツ……」

 

 そこに、あのジークリンデ・エレミアが身体を震わせながら座っていたのだから。

 

「エレミア……」

「あ、久しぶりや~……」

 

 エレミアはその場で踞るように体育座りしながら、その場でバッタリ出会ったかのような挨拶をかましてきた。

 いやいや、玄関前に座っときながら偶然出会ったような反応をされても困る。

 よく見ると顔は少し赤く、表情もボーッとした感じになっていた。……風邪だなこりゃ。

 

「今さら何しに来た? つーかどうやってここがわかった?」

「ん……どうしても、サツキと話したくて……」

 

 微笑みながら、絞り出すように声を出すエレミア。チッ、全く意図が読めない。

 アタシはお前を見てると苦虫を噛み潰したような表情にしかならねえんだよ。なのに、なんでお前は笑ってるんだ? なんでだよ?

 決して仲が良かったわけじゃない。気が合っていたわけでもないし、そんな笑みを見せるような関係でもなかった。

 そんな奴を、わざわざ体調を崩してまで訪ねる必要がどこにあるってんだよ――!

 

「はぁ……とりあえず退いてもらおうか」

「あ……」

 

 今さら怒鳴る気にもなれねえや。というかこのままじゃアタシまで風邪を引いてしまう。

 仕方なくエレミアを赤ん坊のようにおんぶし、そのまま家に入る。

 不本意だが、体調不良に陥ってる奴を放置すれば近所の連中に白い目で見られてしまうしな。

 これ以上の孤立は生活にも影響する。それだけはごめんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

「なんでアタシがこんなことを……」

 

 エレミアを自分のベッドに寝かせ、濡らしたタオルを額に乗せるという古典的な方法で看病したアタシは、片手で頭を抱えながらそう呟いた。

 だってそうだろう? 友人でもない奴を自分のベッドで看病したんだぜ? ……笑えねえよ。

 ホントなら風邪薬でパパーッと解決! だったけど……その薬が切れていた。

 

「ごめんな……看病まで、させてもうて……」

「いつからあそこにいたんだよ?」

「えーっと……朝からやと思う……」

 

 そりゃ風邪も引くわな。

 

「まあいい。治るまで待つ気はないからさっそく本題に入る。――何しに来た?」

「言うたやん。サツキと話したいって……」

「アタシは話すことなんてねえ」

「サツキにはなくても、(ウチ)にはあるんよ……」

 

 そう言うエレミアの目付きはアタシを睨みつけるほど真剣なものになっていた。

 どうやら真面目な話っぽいな。表情を見る限り、ジョークや逃げるの文字が見当たらない。

 話を聞くべきか考えていると、エレミアが何かを思い返すように口を開いた。

 

「――(ウチ)が触ると、みんな壊れてしまう」

「は?」

 

 いきなり何を言ってるんだお前は。

 

「昔はそうやったんよ。どんなものでも、触れただけで当たり前のように全部壊れる」

 

 なんかしんみりと語り出したかと思えば昔話が始まったんだけど。

 全部壊れる? 触るとみんな壊れる?

 これだけ聞けばアホかお前、としか言えないがコイツにはあのイレイザーがある。

 つまり……

 

「あの試合で使ったイレ――ガイストとやらが暴発したってことか?」

「そんなもん、やね……」

 

 なるほど。当時は何らかの理由でガイストをぶっ放しまくってたのか。

 だけどコイツが言いたいのはそんな昔話ではないはずだ。

 もしこれが目的なら窓から放り投げてやる。ついでに塩もまいてやる。

 

「で、何が言いたいんだ?」

「……使いたく、なかったんよ」

「ガイストをか?」

「うん。当たれば問答無用で、何もかも壊れてまうから……試合では使わへんって決めてたんよ」

 

 問答無用かどうかは置いとくとして、あれに加減が効かないというのは確かだ。

 現にアタシは左腕をモロにやられた。そのときは骨折で済んだが、クラッシュエミュレートがなければ今ごろ隻腕になっていた可能性もある。

 ……いや、クラッシュエミュレートの有無は関係ないか。

 それにアタシが言えた義理じゃないが、ガチの殺し合いならともかく、スポーツの試合で死人を出すのはマズイしな。

 

「…………なあエレミア」

「ん――あたっ!?」

 

 とりあえずエレミアに拳骨をかます。

 要は使いたくなかったガイストで大怪我を負わせてごめん、ってことだろ。

 結局は謝罪が目的じゃねえかコノヤロー。真面目に話を聞いたアタシがバカだったぜ。

 

「謝ろうってなら答えはノーだ。あれを許すつもりは毛頭ない」

 

 そう言うとエレミアは少し沈んだような表情になり、そのまま俯いた。

 仮に許す気があったとしても、その程度で許すほどアタシは優しくない。

 ケンカだろうと試合だろうと怪我は付き物。当たり前のことで謝られたくねえんだわ。

 

「…………そっか」

「それと一つ、お前に言っておくことがある」

 

 また同じ理由で謝られちゃあ敵わねえからな。

 俯きながらボーッとし出したエレミアの顔を見つめ、はっきりと告げる。

 

 

 

「アタシは逃げもしねえし隠れもズルもしねえ。だから心配せずに安心して掛かってこい」

 

 

 

 言いたいことをそれらしくまとめた一言。もちろん嘘偽りのない本心だ。

 これを聞いたエレミアは顔を上げ、目を見開いてソワソワし始めた。

 

「え? え? ど、どーゆー意味や……?」

「……言い方を変えよう。――次からはプレイで示せ」

「…………っ!?」

 

 アタシの言ってることを理解した瞬間、エレミアの顔が驚愕の色に染まった。

 無理もねえな。使いたくないガイストを遠慮なく使えって言われてるようなもんだ。

 

「で、でもそれやと……!」

「怪我は免れねえな」

 

 エレミアが心配してるのはガイストの使用で相手を壊してしまわないかってことだろう?

 ――それがどうした。

 コイツの考えなんてどうでもいいし、アタシも自分の考えを曲げるつもりはない。

 

「そもそも虫が良すぎるんだよお前は。魔法戦競技で思いっきりかましてるくせに誰かを傷つけるのはイヤだとか……ナメてんのか?」

「あぅ……言われてみれば返す言葉もあらへんわ……」

 

 むしろ返す言葉があるならぜひとも聞いてみたいところだ。

 競技でも負傷者は当然のように出る。なのに、傷つけるのはイヤとか……。

 

「…………少し、考えさせて」

 

 すぐには答えが出なかったらしく、エレミアは黙り込んでしまった。

 アタシもこれ以上話すことはないので、お粥を作るためにキッチンへ向かう。

 とりあえず明日には治ってもらわないと困る。主に生活リズム的な意味で。

 

「どこで寝ようかな?」

 

 あと寝床の確保も必要だな。

 

 

 ――数十分後――

 

 

「お、美味しい……!?」

「おいコラなんだそのあり得ない……! みたいな顔は」

 

 残っていた材料でお粥を作ったのはいいが、現在進行形で食べているエレミアからすればアタシが料理できるのはあり得なかったらしい。

 

「ご、ごめんや。サツキのことやからてっきりカップラーメンが出されると思ってたんよ」

「お前アタシをなんだと思ってんの?」

 

 病人にカップラーメンはねえだろカップラーメンは。せめてのど飴にしろよ。

 ……風邪引いてるときに食べていい料理なんてあったっけ?

 

「ところでサツキ」

「なんだ?」

「なんでマスクしてるん?」

「予防のためだ」

 

 どうもアタシは薬が効かない体質らしく、こないだ風邪を引いた際に薬を飲んでも全く効果がなかった。そのせいで一週間も鼻声だったわ。

 加えて病原体に強いわけじゃない。だからこその予防なんだよ。

 

「ほら、もう寝ろ」

「うん……」

 

 上半身だけ起こしていたエレミアを寝かせ、その上から掛け布団を被せる。

 明日は薬局に行こう。そう決意したアタシは、再び濡らしたタオルをエレミアの額に乗せた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん」

 

 カーテンの隙間から入り込んでくる日差しを顔に浴び、目を覚ます。

 ……いっけね、よりにもよって床に就く前に寝落ちしてしまったようだ。

 すぐに身体を起こし、目の前のベッドを視認する。どうやら看病の最中に寝てしまったらしい。

 ふと枕の方を見てみると、アタシよりも早く起きてたらしいエレミアが微笑んでいた。

 そして、アタシが風邪が治ったかどうかを聞こうとするよりも先に、笑顔で口を開いた。

 

 

「おはよう――()()()()()

 

 

 

 




《その後の二人》

「おいエレミア」
「んー?」
「そのサッちゃんって呼び方やめろ」
「えー? サッちゃんはサッちゃんやろ?」
「…………」

 どうしてこうなった。


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