「まさかまたお前と会うとはな」
「い、いや~……その……お、お久しぶりです」
ヴィヴィオに昔話をした翌日。暇なので街中をぶらついてから聖王教会に行こうと思っていたらシャンテ・アピニオンと遭遇した。
ていうかコイツ、今はシスターをやっているとかヴィヴィオから聞いたんだが。
ちなみに初めて出会ったとき、コイツは鉄パイプ持ちの不良だった。当然、そんなものでアタシを倒せるわけがなく逆にボコしてやったけどな。
「お前、シスターの仕事は?」
「なんでサツキさんがそれを知ってるかはおいといて、シスターにだって休暇はありますよ」
あれ? シスターって年中無休だったような……いや、さすがにそれはないか。
まあいい。ちょうどサンドバッグがほしかったところだ。半分は嘘だけど。
「つまりその休暇を使ってアタシにボコられに来たと?」
「それだけは絶対にないです!」
チッ。
「あれはトラウマものですから……」
「マウントを奪って殴り続けただけだぞ? トラウマというほどのものでもない」
そうそう、あのときのアタシは確かケーキを食い損ねてイライラしてたんだよ。
そんなときにたまたまケンカを売ってきたのがお前だったからストレスを発散させてもらったわけだ。
かなり殴ったことは認めるが、死ぬほど殴ってはいないはずだ。
「それをサツキさんがやったからトラウマなんですよ! 本気で死ぬかと思ったんですから!!」
「もういっぺん死んでみるか?」
「マジで勘弁してください!」
そこまで怖がられるとやる気がしないな。つーか以前と比べて弱気になってないかコイツ。
それにしても――
「――お前がシスターとかなんか似合わねえ……!」
「バカにしてませんか? してますよねっ!?」
いやいや、あれほどグレていた奴がよりによってシスターとかマジでおもしろいんだけど。
昔のアピニオンを知ってる身としては普通におもしろい。知らないなら仕方ないけどな。
なかなか根性あったからな、あのときのお前は。強くはなかったけど。もう一度言おう、だから完膚なきまでにボコボコにしてやった。
「それで、ホントは何をしてたんだ?」
「言ったじゃないですか~。休暇だって」
「で――本音は?」
「サボっちゃいました☆」
手のひら返すの早すぎだろ。
「いずれ不良シスターとか言われそうだな。もう言われてたりしねえのか?」
「確かに仕事はサボりますけど、まだそこには達していませんよ!」
「……え……?」
「待ってください。なんでそこまで驚くんですか?」
マジかよ。まだ呼ばれてないのか。てっきり呼ばれるどころかそれ以上になってるかと思ってたわ。
それはそれで残念だな。せっかくいいネタになるかと思ったんだが。
「冗談だよ。――3割は」
「残り7割は本気ってことですか……?」
別にそう捉えてくれて構わない。しかしちょうどいい。コイツも連れていくか。
今日はヴィヴィオも同行してくれるけど、アイツとは現地で合流予定だからな。
「よし、行くぞ」
「へ? ど、どこに?」
「教会」
「え、ちょ――」
安心しろ。お前の意見などハナから聞く気はねえから。
「よう! さっきぶりだな」
「待ってください。さっき陛下と一緒に向こうへ行ったはずじゃ……!?」
「残念だったな、トリックだよ」
数時間後。なんだかんだで聖王教会に訪れたのだが、その結果がアピニオンとの再会である。
おかしいな。アタシは確かにコイツをシャッハ・ヌエラに引き渡したはずなんだが。
それとアピニオンのシスター姿を見たのは今回が初めてだけど――
「――似合わねえな」
「放っといてください」
実を言うと見た目だけは様になってるような……そうでないような……どうでもいいか。
だがコイツの内面を考えると間違いなく不良シスターだろう。
「まあまあ、おもしれーじゃん」
「あたしはおもしろくありませんよ!?」
大丈夫だアピニオン。今のお前はあの頃よりほんの少しだけ輝いているから。
「そういえばサツキさんってインターミドルにも出てたような……?」
「だったらどうなんだ?」
「ケンカしちゃって大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、問題ない」
正直、インターミドルは二の次だからな。とはいえ、負けっぱなしじゃ終われねえけど。
アピニオンはアタシを見てやっぱりか……って感じの表情になっていた。
なんだ? 見ているとムカつくな。ケンカ売ってんのかコイツは。
「さすがはサツキさん! もはや凶悪でしかない……!」
マジでケンカを売られていた。
「今ここでやるか!?」
「ダメですよサツキさん! せめて用事を済ませてからにしてください!」
「陛下止めて! お願いだから止めて!」
ヴィヴィオもなんだかんだでズレてるんだよね。そこは普通なら止めるだろ。
とはいってもアタシからすれば好都合でしかないがな。
それと喚くなアピニオン。お前は育ち盛りの幼女かってんだ。
「安心しろ。半殺しで済ませてやるから」
「安心できる要素がないんですけど!?」
否定はしない。
「ま、そういうことだ。アタシは用を済ませてくる」
「いや何がですか……」
「こんなシャンテ初めて見たよ……」
そりゃそうだろ。大体はタメ口で話すあのアピニオンが逃げ腰で敬語を使っているんだから。
「なるほど。ってことはそんときはまだ意識があったわけだな?」
「はい、そうなんです」
数十分後。グラシアと少し会話をしてから例の冥王であるイクスヴェリアのお見舞いを済ませた。
ヌエラは相変わらず生真面目でした。めちゃくちゃ気に入らねえほどに。
「そんでもって、お前が聖王の
「そうです」
とんだ連中と知り合いになっちまったもんだぜ。
ヴィヴィオといいこないだの覇王といい今回のイクスヴェリアといい、ベルカ王族の末裔ばっかじゃねえか。しかもかなり有名な。
珍しく笑えねえよ。シリアスで笑えねえよ。あのしんみりとした空気は無理なんだよ。
「よお、アピニオン」
「っ! ……ま、まだいたんですか」
まさかのアピニオンと三度目の遭遇である。もしかしてコイツ、分身だったり?
意外とあり得そうだな。それを悪用して仕事をサボっているコイツの姿は容易に想像できる。
「いちゃ悪いかコラァ」
「ここ、サツキさんがいるべき場所じゃないでしょ!?」
「その言葉、昔のお前にぴったりだな」
「……昔と今は違いますよ」
確かにな。よりによって教会とか、アタシにとっては場違いすぎる。練習場のときより居心地が悪いかもしれない。
ちなみにヴィヴィオは話についてこれなかったらしく、アタシの横で可愛らしく首を傾げていた。
「サツキさん、少し変わりました?」
「あァ?」
何を言っているんだ、このバカは。シスターになったせいで頭がおかしくなったか?
「アタシが変わるわけねえだろ」
「で、ですよねー。サツキさんにしては大人しかったからつい――」
「アピニオン、ミット打ちをしようぜ。アタシが打つからお前はサンドバッグな」
「待ってください。それだとあたしは大変なことになるんですが!?」
そんなことは気にしたら負けだ。気にしたらできねえじゃんか。
それにお前が大変なことになるなんて当たり前のことだろうが。
「仕方ねえな。そんじゃスパーリングしようぜ。だからサンドバッグになれ」
「イヤに決まってるじゃないですかっ! それらをサツキさんとやること自体が危険なんですよ!?」
これも否定はしない。まあ、もうここに用はないし帰るとしよう。
これ以上はマジで気分が悪い。まだ路地裏の方がマシに思えてくる。
ここまで平和かつ退屈そうな雰囲気は初めてかもしれない。
お前、次会ったら全殺しな。そう心に誓ったアタシは聖王教会を後にしたのだった。
「そういや練習はどうした?」
「あ、その辺は大丈夫です!」
帰宅中、アタシは思い出したかのようにヴィヴィオに質問してみた。
もうすぐ知り合いの先輩って奴と試合するんだろ? 練習は欠かせないはずだ。
まあ、一週間程度で埋められる実力差ならまだわかるけどな。
「たまには普通に帰るか」
「サツキさんがいつもどんな帰り方をしているのか気になるんですけど……」
「ヴィヴィオ、世の中には知らない方がいいこともあるんだぜ?」
まだ純粋なお前にあの世界は悪影響だ。
「知らない方がいい、ですか……」
「お前は今のままでいいんだよ」
ぶっちゃけるとお前みたいな奴がこっちの世界に来られても迷惑なだけだし。
それに来ちまったらお前の怖い怖い二人の母親が黙っちゃいねえだろう。
「じゃあな」
「え、そっちは違う道――」
「アタシ、これから買い物に行くから」
でないとご飯がない。しかも家にはジークがいるから食料のなくなるスピードが早いんだよ。
なんか後ろでヴィヴィオが叫んでるけど気にしない。うん、気にしない。
「よし、さっさと飯の材料を買っちまうか」
〈珍しくまともですね〉
「はっ、まさか」
タバコとビールも買うに決まってんだろ。
《今回のNG》TAKE 13
「…………今噛まなかったか?」
「…………いえ、気のせいかと」
「ラト。録音したか?」
〈はい。しっかりと〉
「……再生しろ」
「すみません噛みました! だから再生するのやめてください――っ!!」
こうしてアピニオンを弄るネタがまた一つ増えたのだった。