死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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最終話「癒しとの出会い。そして今――」

「よっと」

「ぐはぁっ!?」

 

 1月半ばに入ったある日の夜。アタシはエルセア地方にあるスラム街を訪れ、ギャングのような連中をブチのめしていた。

 インターミドルを欠場して以来、今まで以上に暴れるようになった。目的は言わずもがな。

 しかし、最近はそれすら見失いつつある。勝っても何も感じなくなってきたのだ。

 なんかもう……冷めたって感じだよ。

 いや、こうして暴れてるってことはまだギリギリ冷めていないのかもしれない。

 

「ごふっ!」

「ふぃ~……」

 

 やっと最後の一人を叩きのめし、右手に持っていた()()()()()()()()()()()()()

 ガコン! という大きな音が響き渡るが、アタシにとってはどうでもいいことだった。

 いやー軽い気持ちで試した結果がこれですよ。

 雑草を抜くような感覚でやったら引っこ抜けちゃったんですよ。

 

「この調子だとビルを投げるなんてことも……」

 

 そう呟きながらタバコを取り出し、マッチで火をつけて一服する。

 実は近いうちに地球へ帰ろうと思っている。ここにはもう、何もないのだから。

 とはいえ、ジークに負けっぱなしってのもイヤだしなぁ。どないしよか……。

 

「とりあえず、帰ろうか……」

 

 もうすぐ夜も明けるしな。

 

 

 

 

 

 

 

「なんてこったい……」

 

 スラム街でケンカしてから二週間後。アタシは公園のベンチで項垂れていた。

 しくじった。まさか本日限定のショートケーキを買い損ねるなんて……!

 これからどうしようか。ケーキを買い損ねた以上、今日の予定は何もない。どうせなら暴れるか? いや、それは夜に実行する予定だし……。

 

「…………(トントン)」

「ん?」

 

 マジでどうしようか考えていると、いきなり後ろから肩を叩かれた。

 こんなときに誰だコノヤローと内心で苛立ちながら振り返る。

 

「…………」

 

 そこにいたのはおとぎ話に出てきそうな魔女のコスプレをした幼女だった。

 金色の瞳にテスタロッサと同じ金髪、それでいて無表情。友達いなさそうだな。

 右手には箒を、左手には何かが入ったビニール袋を持っている。……ケーキの匂い?

 

「おい――」

「これ」

「は?」

 

 ビニール袋に何が入ってるのか聞こうとした瞬間、幼――魔幼女はその袋を差し出してきた。

 

「何が入ってんだ?」

 

 差し出されたビニール袋の中を見てみると、アタシが買い損ねたショートケーキが入っていた。

 ――ショートケーキ、だと?

 

「……なんだこれは。嫌みか?」

 

 欲しかったのに買えなかったものを見せるとか完全な嫌みだろ。

 久々にムカついたので魔幼女を葬ろうと右手に力を込めると、魔幼女が唐突に口を開いた。

 

「……あげる」

 

 …………ふぇ?

 

「あ、あげる……?」

「うん」

 

 魔幼女の言ってることが信じられない。だってそうだろ? せっかく手に入れた限定品を赤の他人にあげるんだぜ?

 もしもアタシが同じ立場なら例え関係の深い友人だろうとあげはしない。

 

「…………いい、のか?」

「大丈夫。問題ない」

「そんじゃあ……」

 

 物凄いドヤ顔で大丈夫と言われたので、遠慮なく受け取ることにした。

 おおおっ……! まさかこんな形でケーキがゲットできるなんて思いもしなかったよ……!

 さっそくその場で箱を開け、袋に入っていたフォークを使って一口食べてみる。

 

「う……んめぇ!」

 

 口の中に広がる……えっと……まあ、あれだ。

 とにかく美味しい。今まで食ってきたどのケーキよりも美味しい。

 

「ありがとな。魔幼女」

「……魔幼女じゃない。私にはファビア・クロゼルグというちゃんとした名前がある」

「会って間もないのにそんな心外だ、ってみたいな顔で睨まれても困るんだけど」

 

 まだ出会って一時間も経ってないよね?

 

「そ、そうか。そいつは悪かったな。ちなみにアタシは緒方サツキだ」

 

 礼の一つとして名前ぐらいは名乗っておくか。

 コイツも勢いでフルネーム名乗ったし。それにジークと違ってストレスが溜まりにくい。

 ……ストレスが溜まりにくい、か。コイツはもしかしたらかなりの収穫かもしれないぞ。

 

「チッ、仕方ねえな」

「……??」

 

 もう少しだけこの世界にいてやるか。期限は高等科を卒業するまでだ。

 その間は未練が残らない程度に好き勝手してやる。やりたい放題してやる。

 

「……よろしく、サツキ」

「ああ、よろしくなファビア」

 

 これが()()()()、ファビア・クロゼルグとの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――とまあ、こんな感じだ」

 

 ようやく過去話を終えたアタシは、真剣に聞いていたクロといつの間にか夢の世界へ旅立ったジークを見てため息をついた。

 いつから眠りについたんだお前は……。

 よく見ればクロもクロで眠たそうに目を擦ってやがる。まあ、無理もねえか。

 

「…………長かった」

 

 実はこの話には続きがあったりする。

 カラコン――ヴィヴィオにしか話してないが、クロと出会ってから二日後の夜にノーヴェとケンカしているのだ。

 あれがなかったら今のアタシはケンカすらしなくなっていたに違いない。

 

「アタシの過去を知りたいと思った自分自身を恨むんだな」

 

 お前が質問さえしなければこっちが話す必要はなかったのだから。

 とはいえ、さすがに二時間も同じ姿勢で起きてるのはキツイな。めちゃくちゃ眠いや。

 

「……サツキ」

「なんだ?」

「………………今も地球に帰りたいって思う?」

「当たり前だ」

 

 はっきり言って地球で過ごした日々が一番楽しかった。この事実は変わらない。

 加えてアタシの原点だ。これだけはどうあがいても譲れないし、譲る気もない。

 

「……そう」

「ところでクロ。なんであのとき、見ず知らずのアタシに接触してきたんだ?」

 

 これは未だにわからない。なんでコイツがアタシに接触してきたのか。

 ケーキをあげるため? 同情? 弱味でも握って見返りを得ようとか?

 そんなアタシの考えを見抜いたのか、クロははっきりとこう告げた。

 

「…………友達に、なりたかったから」

「…………」

 

 それを聞いた瞬間、アタシは言葉を失った。

 物好きにもほどがあんだろコイツ。少しは相手を選べよ、相手を。

 クロには悪いが、アタシは()()になったつもりはない。まだお前は()()()()でしかねえんだよ。

 

「そんな物好きと一緒にいるアタシも、意外と物好きかもしんねえな」

「…………何を今さら」

 

 ひでえ。

 

「……エレミアはどうするの?」

「ベランダに捨てとけ」

 

 さっきから座ったままコクリコクリと眠っているジークを見て即答する。

 コイツを始末するためにクロをけしかけるのは辛いが、これも運命かもしれないな。

 しかし残念だ。またジークをあの世に送らなければならないなんて。

 

「そんじゃ、アタシは寝るから」

「…………お休み」

「サッちゃ~ん……」

 

 とにかく眠いのでジークの後始末をクロに任せて早く寝よう。

 このあと処分されたはずのジークがいつも通りアタシのベッドに潜り込んできたが、対処よりも眠気の方が勝ったので奴を抱き枕にしてやった。

 ……ここだけの話、意外と抱き心地は良かった。また機会があれば抱いてやろうと思う。

 

 

 

 




 過去編、これにて完結。次回から本編に、いつもの日常に戻ります。

《今回のNG》


※皆が眠ってしまったのでお休みします。


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