死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第三章「賑やかな日々と垣間見えるもの」
第61話「基準がおかしい件について」


 

「サッちゃ~ん! 起きてや~!」

「やだよ眠い……あと一週間……」

「どんだけ寝たいん!? ……はっ! てことはその間にサッちゃんの――」

「殺すぞ」

「ごめんや。お願いやから今日だけは見逃して」

「わかったから寝かせろ……ふあぁ……」

「あかんよ!? 起きてサッちゃん!」

「どっせい!」

「ぶふぉ!?」

「しつけえんだよお前は!」

「あ、アッパーはないやろアッパーは! あと少しで顎にクリーンヒットするところやったわ!」

「そこはヒットしろよ!」

「怒るで!? (ウチ)かて怒るときは怒るんよ!?」

「だから人ん家に無理やり居候してる分際で調子乗ってんじゃねえぞゴラ」

「う……」

「……はぁ、ビビるんだったら啖呵なんて切るんじゃねえよアホ。――そんじゃお休み」

「サッちゃん起きてぇ――っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 韓国冷麺を食べた次の日の夜。アタシはジークから誘われていたヴィヴィオとストラトスの試合をすっぽかし、さっきまで夢の中で暴れていた。

 すっぽかした理由は二つある。一つはアタシが部外者だということ、もう一つは単にめんどくさくて仕方がなかったということだ。

 そして今――

 

「は、早く引けよ……」

「そ、そんな急かさんといてや」

 

 ――アタシとジークはババ抜きの最終決戦の真っ最中である。クソッ、ツイてねえ……。

 

「…………まだ?」

 

 ちなみに一番抜けしたクロは早く終わってほしいと言わんばかりにジト目でこっちを見ている。

 このガキ、自分が一度もジョーカーを引かずに楽々と勝ち抜いたからって……!

 

「えーっとえーっと…………これやっ」

 

 アタシが持っている二枚のうちの一枚(右側)を引いて確認した瞬間、げっ!? というわかりやすい表情になった。

 そりゃジョーカーを引いたらポーカーフェイスが下手な奴はそういう表情になるよな。

 次はアタシの番だ。これ以上長引かせるわけにはいかない。さっさと終わらせる!

 

「は、早く引いてや?」

 

 何がしたいのお前。

 

「…………頭の良さアピール?」

「言ってやるなクロ……っ! どんなアピールをしても、コイツがアホミアであることに変わりはないから……っ!」

 

 今ジークはカードを持っている左手を前に突き出し、右手の人差し指で額を押すというまさにインテリ(笑)なポーズを取っている。

 それを見たクロは何がしたいの的な視線を送り、アタシはひたすら笑いを堪えていた。

 

「そ、それはええから早く引いてほしいんよっ」

 

 いつの間にか顔を赤くしていたジークにそう言われ、「仕方ないな」とため息をついてから左側のカードを引く。

 今残っているカードはスペードのキング二枚とジョーカーのみ。

 手応えはあった。今度こそアタシの――

 

 

 → さっきまで手札にあったジョーカー

 

 

「なんでやぁ――っ!」

 

 思わず関西弁で叫ぶと同時に二枚のカードを足下に投げ捨てた。

 バカなっ!? 感触は明らかにスペードのキングだったのに!

 

「……カードに何を求めてるの?」

 

 クロが地味に鋭いツッコミを入れてくる。

 やめろクロ! アタシとジークのライフはもう満身創痍だ!

 そんなアタシの心情を見抜いたのか、ジークは微妙な胸を張ってこう告げた。

 

「これで(ウチ)の勝ちやな!」

「ぐぅ……!」

 

 なんだ? 何か秘策でもあるってのか!?

 

「今サッちゃんが引いたカードをずっと見とけばええんよっ!」

「「…………」」

 

 墓穴を掘ったとはまさにこの事である。

 

「ほいっと」

「ああっ! 後ろに隠してシャッフルするなんて卑怯や!」

 

 そんなルールは存在しない。仮に存在したとしても意味ないけど。

 ある程度シャッフルし、二枚のカードをジークの目の前に差し出す。

 ジークはこれまたわかりやすい表情でどっちを引こうか迷っていた。

 

(「この場合、左は確実にフェイクや。)(けどそやからって右とは限らない……」)

 

 な、なんか小声で呟き出したぞ? ついに頭がおかしくなったか?

 

「――右やっ!」

 

 長々と呟いた末に自信満々な顔で右側にあったカードを引き、その場で膝をついたジーク。

 ……えーっとあれだ、深読み乙。

 

「ヴィ、ヴィクターの法則が破られた……!?」

 

 何その法則。ていうか何デタラメなもん生み出してんだよヴィクター。

 

「はっ、んなデタラメなもんに頼るから勝てねえんだよ」

 

 今度こそアタシの勝ちだ。ジークは起き上がると焦り気味にカードを後ろに隠しながらシャッフルし、アタシの目の前に差し出してきた。

 今度こそ終わらせてやる。そう決意し、再び左側のカードを引――

 

 

 → また会ったなジョーカー

 

 

「この(検閲削除)がぁ――っ!!」

 

 またもやカードを足下に投げ捨てるアタシ。

 なぜだ!? なぜジョーカーしか出てこねえんだ!?

 

「…………」

「ま、魔女っ子、今のはアウト? セーフ?」

「……………………チェンジ」

 

 そしてジークとクロはアタシが言った言葉の判定をしていた。どうやらアウト三つのようだ。

 

「チッ、さっさと引いてくれ」

「芸があらへんなぁサッちゃんは」

 

 何を求めてるんだお前は。

 

「まあええわ。最後に笑うのが(ウチ)であることに変わりはないんやし」

 

 その余裕がムカつく……!

 ジークはイラついているアタシを一瞥し、これでフィニッシュと言わんばかりの勢いで右側のカードを引いて――

 

「なんでやぁ――っ!」

 

 再びその場で膝をついた。哀れなり。

 

「なんでジョーカーしか引けんのや……!?」

 

 ジーク。それさっきアタシが思ってたことと全く同じだぞ。

 それでも降参する気はないのか、二枚のカードを右手に持つと再び差し出してきた。

 こうなったら――

 

「ジーク。一緒に寝てやるからスペードのキングを出してくれ」

「はいっ――あっ!?」

 

 チョロい。

 

「これだな(スッ)」

「ひ、卑怯や! 下劣やっ!」

 

 うるさいな。卑怯であろうとなんであろうとアタシの勝ちだ。

 さて、ババ抜きも終わったことだし寝る準備でもしますか。

 

「……待って」

「? どないしたん?」

「……まだ罰ゲームがある」

「クロ。それはなしだ」

「……大丈夫、受けるのはエレミアだから」

「大丈夫やないよ!?」

 

 ふむ……せっかくだし、ジークが罰ゲームを受ける姿を見てから寝よう。

 

「クロ。罰ゲームの内容は?」

「…………負けた人は二番目に抜けた人にキスされること」

「「は?」」

 

 今なんつったこのガキ。

 

「……だから、負けた人は二番目に――」

「聞こえねぇーっ!!」

 

 よりによってなんて罰ゲームを思いついてんだお前は!?

 ジークもかつてないほどの表情でアタシをチラチラと見てんじゃねえ!

 

「……ほら、早く」

「嫌じゃぁああーっ!!」

 

 ふざけんな! なんで勝ったアタシが罰ゲームを受けなきゃなんねえんだよ!

 ていうか巻き込むな! やるならお前らだけでやれってんだ!

 

「さ、サッちゃん。(ウチ)なら構わへんから……」

「アタシが構うんだよ!!」

 

 絶対にしねえぞアタシは!

 

「はよしてサッちゃん! 早く寝たいんやろ!?」

「それとこれとは話が別だ!」

「…………じれったい」

「待てクロ! 押すな! お前が押し始めたせいでジークが目を瞑っちまったじゃねえか! おいやめろ! 頼むからやめて――」

 

 この時ほど罰ゲームの基準がおかしいと思ったことはない。

 

 

 □

 

 

「はぁ、はぁ、なんとか唇は守ったぞ……!」

 

 あれから数十分後。なんとか接吻だけは免れたアタシはその場で仰向けになっていた。

 しかし、それでも完全に回避することはできず額にキスしてしまった。おうふ。

 元凶であるクロにはチョップを食らわせるだけで許してやった。アイツもアイツなりにストレスが溜まってたんだな……。

 

「♂♀△$×¥……」

 

 当のジークはこの通り、言語が人のものではない何かになってしまった。

 嬉しかったのか恥ずかしかったのか。あるいはその両方か。顔が真っ赤だ。

 

「…………痛い」

「その程度で済んだだけありがたく思え」

 

 ホントなら首をへし折っているところだ。例えクロであろうと。

 

「♂♀△$×¥……」

「……エレミアはどうするの?」

「ほっとけ」

 

 そのうち元に戻るはずだ。

 

「にしても、まさかお前にしてやられるとは思わなかったよ」

「…………私だって、やるときはやる」

 

 やるときが間違ってると思うのはアタシだけではないはず。

 このあと、言語がおかしくなったジークを布団でぐるぐる巻きにしてから眠りについた。

 これからは癒しの効力がなくならないようにしなくては……!

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 33

「…………痛い」
「その程度で済んだだけありがたく思え」
「……次からは優しくしてほしい」
「人の話聞いてたか?」

 何をどう優しくしろってんだ。


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