死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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『命が掛かっていたとはいえやけくそでやった。今は心の底から後悔している。
                by死戦女神』



第64話「不良メイド降臨!」

 

「これはまた凄いお屋敷ですね……」

「たんまりもらえそうだな」

 

 ある微妙に曇った日。ハリーは職場体験で、タスミンとアタシはアルバイトでヴィクターの屋敷に訪れていた。なんでもタスミンは財布の中身がピンチになっているらしく、それを知ったハリーが丸め込んだってわけだ。……アタシも食費がヤバイからその気持ちはよくわかるぞ。最近なんかジーク達のコスプレ写真を売り飛ばして稼いだ分も入れてるのに足りなくなってきてるし。

 だけどこの二人、ここがヴィクターの屋敷だってことを知らないみてえだな。まあ、初めて来たわけだし無理もないけど。

 

「ちわーっす」

 

 ガチャッ

 

「職場体験とアルバイトの子ですわね。お待ちしておりま……!?」

「「!?」」

 

 屋敷の主人であるヴィクターが出てきた瞬間、アタシ以外の全員が驚いていた。ヴィクターもアタシたちが来るとは思っていなかったのだろう。しかしそんな空気もヴィクターが口を開いたことですぐに変わり、いつもの雰囲気になっていた。

 ちなみにアタシは声を殺して笑うのに必死である。だっておもしれーじゃん。ただ、もしもこれで両者の反応が予想に反するものだったら驚くのはアタシの方だったよ。

 

「じゃあ三人とも、これに着替えてちょうだい」

「こ、これは……サツキ。そろそろ笑うのやめろ」

「お、おう……」

 

 そう言ってヴィクターが持ってきたのはメイド服だった。まあ、人数分あるのはいいが問題はサイズだ。合わなかったらピチピチという名の罰ゲームを味わうはめになってしまう。

 前にサイズギリギリのTシャツを着たときはそれはもう胸元がキツくて大変だったよ。周りからは『猫ちゃんが大変なことに!?』って何度も言われたし。大変なのはこっちだっつの。

 とりあえず……着替えるか。サイズが合うかは着てみないとわかんないし。

 

 

 ――数分後――

 

 

「サツキー、後はお前だけだぞー」

「……言われんでもいくよ」

 

 ハリーとタスミンがメイド服を着るとすぐに出ていったのに対し、アタシは鏡の前でちゃんと着れてるかどうかを確認していた。

 まさかホントに着ることになるとはな。それにしても、マジでらしくねえや。

 

 

 肩まで伸びる赤みがかった黒髪。

 三白眼ほどではないものの鋭い目付き。

 どっちかというと端整な顔立ち。

 服の上からでもわかるバランスの良い体型。

 着用しているメイド服。

 

 

 アンバランス過ぎるだろ。特に顔立ち。目付きの悪さを入れると完全に不良メイドじゃねえか。そのせいでいろいろと台無しになっている。やはり容姿というのは一つの悪さで崩れるようだ。

 

「待たせたな……ん?」

「「「…………」」」

 

 な、なんだ? やっぱり似合わねえか?

 

「そ、その、なんというか……」

「え、ええ……」

「えーっとですね……」

 

「「「――どちらさま?」」」

 

「テメエらヤキ入れてやっからそこに並べ」

 

 

 ――しばらくお待ちください――

 

 

「で、仕事の内容は?」

「服装でわかるはずなのだけど……」

 

 あれからわりとマジでヤキを入れ、ようやく平常通りになってきた。ちゃんとアタシだって気づいてもらえたし。ていうか髪型一つや服装一つで認識が変わるとかどうなってんだよ。

 ……まあ、それはそれで使えそうだけど。言い換えれば同一人物だってことがわからないということだ。これは一つの長所だ。間違いなく。

 

「んー……掃除、炊事、洗濯……」

「夜のご奉仕……む、無理です!」

「あなたの知識どうなってますの……?」

 

 大方二次元寄りだろうよ。でなきゃそんな発想は出ない。アタシはそっちの知識もあるので一瞬思い浮かんだけど。

 駄弁るのもいいが、そろそろ仕事内容を言ってほしい。でないと仕事しようにもできない。

 

「あなたたちには屋敷の大掃除をしてもらいます」

「マジかよ……」

 

 さっそくハリーがげんなりとした表情になる。

 ま、こんだけ大きな屋敷なんだ。さすがにエドガーだけじゃ足りないのは当然である。むしろアイツ一人で今までよくやってこれたと褒めてもいいぐらいだ。ハイスペック過ぎるだろあの執事。

 とはいえ、さすがに三人だけじゃ人手が足りない。あと五人くらいはいてもいいと思うのはアタシだけじゃないはず。

 

「他に誰かいないのか?」

「実はもう一人いるんだけど――」

「やあやあ、(ウチ)がメイド長や!」

 

 

 コッ(アホが躓く音)

 

 ビターンッ(アホが思いっきり顔から転ぶ音)

 

 

「な、なんで番長たちが……?」

「これは頼りねえ……」

「いや使えねえだろ」

 

 どう見ても役立たずじゃねえか。今いるメンバーの中でも一番の足手まといに違いない。それとうつ伏せになった顔を中心に血だまりができているのは気のせいだと心の底から願いたい。

 呆れつつ転んだジークを見ていると、ハリーがニヤニヤしながら「起こしてやれよ」とか言ってきたので蹴り飛ばしてやった。蹴られたハリーはなぜか仰向けではなく、うつ伏せでジークの隣に倒れた。なぜジークの隣に倒れたんだコイツは。

 

「じ、ジーク。大丈夫か……?」

「…………ば、番長……っ! 倒れてる場合じゃないんよ……っ!」

「……ジーク。確かに今のサツキはオレでも別人に見えるほどのもんだが――そのカメラじゃ無理だぞ」

 

 最初に倒れたジークはというと、カメラを鮮血に染めながらも必死にそれを構え、ハンカチで顔を拭きながらハリーにも予備であろうもう一台のカメラを差し出していた。どんなにシャッターを切っても二台ともレンズが血で覆われているから意味ないと思うぞ……。

 しかも今のジーク、試合のときとほとんど同じくらい、誰もが見惚れるぐらいカッコいい表情をしてやがる。――鼻血が出ていることを除けば。

 

「それじゃあよろしくね……?」

「うん……ま、任せて!」

 

 ダメだヴィクター。任せてはいけない。お前明らかに人材を間違ってるぞ。そんなアタシの願いは通じず、ヴィクターはそのまま部屋の方へと去っていった。その判断は五分後に後悔へと変わるぞ。絶対に。

 ま、これ以上考えても仕方ないか。決まったものは決まってしまったんだし。やっと落ち着いたらしいジークとハリーは手順をどうするか話し合っていた。

 

「どーするメイド長。手分けするか?」

「せやなあ……皆で協力して一部屋ずつかたしていこー!」

 

 元気よく指揮を執るジークにアタシたちは、

 

「うっすメイド長」→ハリー

「了解ですメイド長」→タスミン

「くたばれメイド長」→アタシ

 

 と、告げた。

 

「待って。今一人だけ酷いこと言わんかった?」

「気のせいだろ」

「そ、そやね。ほんならもう一度……皆で協力して一部屋ずつかたしていこー!」

 

 さっきと同じように元気よく指揮を執るジークにアタシたちは、

 

「あいよメイド長」→ハリー

「わかりましたメイド長」→タスミン

「惨めにくたばれメイド長」→アタシ

 

 と、告げた。

 

「待って。やっぱり(ウチ)、酷いこと言われてるんやけど!?」

「気のせいだろ」

「自分で言うといてそれはないやろ!?」

 

 チッ、バレたか。しかしまあ、ハリーとタスミンはよくなんも言わなかったな。

 ジークは『メイド長』と呼ばれるのが恥ずかしかったらしく、メイド長というあだ名はすぐに取り消されることとなった。

 

「よし、まずは客室からや!」

 

 

 

 

 

「ゲホッ! ゲホッ!」

「ジーク! テメエ掃きすぎだゴラァ!」

「ご、ごめんや」

「ブチ殺すぞ」

「抑えろサツキ」

「さすがにそれは不味いです」

 

 

 

 

 

「あっ!?」

「うおっ!? あぶねえ!」

「大丈夫ですか!?」

「ったく、付き合ってらんねえな」

「お前も手伝えよ!」

「めんどいしアホが移るからやだ」

「なんて理不尽な……」

 

 

 

 

 

「や、やっと終わった……」

「じゃあ次に移動しよー!」

 

 

 ゴンッ(ジークがバケツを蹴飛ばす音)

 

 バシャッ(バケツの水がぶちまけられる音)

 

 

「「「「………………」」」」

 

 あれこれ手間が掛かった末にようやく部屋の掃除が終わったかと思えばこれである。ぶっちゃけ言うと足を引っ張っているのはジークだけだったりする。これは酷い。

 

「……ジーク」

「は、はい……」

「お前に頼みたい仕事がある」

 

 

 ――数時間後――

 

 

「皆お疲れ様。少し休憩してちょうだい」

 

 パンパン、と手を鳴らしながらヴィクターが告げる。そうか、やっと休憩か。ハリーやタスミンも「待ってました」と言っている中、アタシはジークの方を見ていた。

 あれからハリーの提案により、ジークには特別任務を与えることになった。それは……

 

「……ジークは何をしているの?」

「…………三人を遠くから見守る仕事」

「それとその首からぶら下げているものは何?」

「サッちゃんがこれ掛けとけって……」

 

 今、隅っこでボーッと体育座りをしているジークの首には『私は皆の足を引っ張ったことを反省しています』と書かれたプラカードがぶら下げられている。なんておもしろい図なんだ。

 

「さすがのお前もフォローできねえだろ」

 

 そう言うと少し気まずそうに目を逸らすヴィクター。あれでフォローができる奴はそういないはず。できる奴がいたら称賛ものだぞ。

 

 

 □

 

 

「あら、ありがとう」

 

 食堂にて。休憩かと思えばその前に食事を運ぶ作業があった。やっぱりこういうのもやるんだなぁ、メイドである以上は。

 近くでタスミンが『萌え萌えきゅーん』を披露していたが、そっちの感性には疎いヴィクターは何を言っているんだこの人は、みたいな表情になっていた。

 

「そんなに期待の眼差しを向けるな、ジーク」

「サッちゃんはせーへんの!?」

 

 誰がするかバカ。あんなのをアタシがしたら一気にシラケるわ。そして生理的に無理。

 そんなことは置いといて、さっき運んだチキンソテーを食うとしますか。どう見ても賄い料理の範疇を越えてるけど気にしないでおこう。

 

「ジークもどう? 美味しい?」

「…………はにゃあ?」

 

 マズイ。コイツ酔ってやがる。確かにこのチキンソテー、赤ワイン仕立てだけど……この程度で酔うとかどんだけお酒に弱いんだよ。

 これはヴィクターも予想外だったらしく、ハリーたちも意外そうな顔になっていた。ちなみに「サッちゃんふわふわ」と呟かれた際、今すぐブチのめしてやろうかと思ったのは内緒である。

 

「そうじー……きれいに――」

「ジーク。こっちだ」

「…………?」

 

 今少しでも遅れていたらこのアホはド派手なのをぶっ放していたに違いない。アタシに向けて。こっちに気を引きつけたのはいいが、ここからどうすればいいのか全く考えてなかった。

 

「えーっと――」

 

 ええい、こうなりゃ自棄だ! こっちは命が掛かってんだから!

 

 

「――萌え萌えキューン!(※サツキ)」

「「「!?」」」

 

 

 ああ……死にたい。これで止まらなかったら皆殺しにしてやる。

 

「…………ま」

「「「ま?」」」

 

 ジークからふわふわな感じがなくなり、やらかしたアタシを見て固まっていた。そして――

 

「――マーベラァース!!(ブシャァァッ)」

 

 意味不明な言葉を叫ぶと同時に、噴水のような鼻血を出しながら倒れた。

 

「じ、ジーク!?」

「うぉい! この出血量はヤバくねえか!?」

「……か、構わへんよっ。本望、やから……!」

「そういう問題じゃありません!」

「サツキ! 声を殺してさめざめと泣いてるところ悪いがいろいろと手伝ってくれ!」

「………………やだ」

 

 今はそんな気分じゃねえ。

 

「さ……サッちゃんの泣き顔……!?」

「お前は安静にしてろ!」

「後でまた見れますから!」

「さらっと酷いこと言いますわね!?」

 

 絶対に見せるもんか。見せるぐらいならお前との縁を切ってやる。

 このあとアタシが見えないように泣いている間にジークは一命を取り留めたらしく、アタシが泣き止むと同時にカメラを持ちながら顔を覗き込んできたからびっくりしたよ。

 また、別料金とはいえジークが汚した床の掃除もやることになった。この一件から学んだことがあるとすれば、次からはもう少し身の丈にあった仕事を選んだ方がいいということぐらいだ。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 122

「えーっと――」

 ええい、こうなりゃ自棄だ! こっちは命が掛かってんだから!

「――言えるかボケェ!!」

「ぐほぉ!?」
「え、エルス!」
「サツキ、そろそろ覚悟を決めなさいな!」
「ふざけんなドアホ! こんなもん一生掛かっても無理じゃゴラァ!!」
「サッちゃ……っ! なんで(ウチ)ばっか……っ!」
「やめろサツキ! それ以上はジークがマジでヤバイ!」
「知るかこんちくしょうがぁ!!」


※このあと言えました。


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