死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第65話「無銭飲食の危機(前編)」

 

「旨かったな」

「……………………おい」

「なんだよ」

 

 さっきからハリーがご機嫌斜めでござる。一体どうしたというのだろうか。女受けのいい顔が台無しだぞ。そんなんじゃ孤立するぞ。

 アタシが屋上にテリトリーを作った際にも鬼のような形相してたっけ。あの顔、ガキ共に見せたら絶対に泣くだろうな。

 

「お前、問題ないつったよな?」

「確かに言ったな」

「……じゃあもう一回聞くぞ。金持ってるって言ったよな?」

 

 一回で理解してもらいたいものだ。そうできるように説明したはずなのだが――

 

 

「――嘘だよ(笑)」

 

 

「それだよそれ!! マジで意味わかんねーよ! 目的なんだよ!?」

「おもしれーじゃん」

「おもしろくねえよ!?」

 

 ただいまハリーと一緒に最近できたファミレスに来ているんだが……お金がないので店内に閉じ込められている感じだ。つまり帰れない。とはいえ、食ってしまったことに変わりはないのでどうしようもない。

 しかしだなハリー。アタシは誘う際、お金があるとは一言も言っていない。ま、アタシとしてはコイツの財布をアテにしてたからちょっとガッカリしている。これで二回目だぞ全く。

 一回目のときはハリーとその取り巻きに期待したのだが、結果は今回と同じだった。あのあと三時間も店にいた記憶がある。

 

「なんで他の奴を呼ばなかったんだよ」

「それは生け贄を増やば良かったってことか?」

「そういう――いや、助っ人を増やせば良かったってことだよ」

 

 正直ハリーならいつもの三人組を呼ぶと思っていたんだが……仕方がない、コイツを置いて帰るか。さすがに財布は持ってくるべきだった。次からは金がなくとも財布は持ち歩くとしよう。

 ま、ジッとしてるだけじゃ何も始まらない。そうと決まればさっそく行動に移そうか。

 

「で、どうすんだ? お前のせいでこっから出られないんだぞ?」

「アタシ帰るわ」

「さらっと逃げようとすんな」

 

 どさくさに紛れて帰ろうとしたら見事に引き止められた。じゃあどうすんだよ。お前と心中なんて死んでもごめんだぞ。誘ったのアタシだけど。

 ちなみに今座っている席は喫煙席なのでタバコを吸っても問題はなかったりする。だからハリーに『タバコはやめろ』と何度も言われてるけど気にしない。……やっぱりオイルライターが一番だな。とりあえず、このままだとマジで帰れない。どうしたものか。

 

「ならタスミンでも呼ぶか?」

「エルスか……アイツ金持ってたっけ?」

「わかるかそんなこと。まあ、生け――助っ人が増えるに越したことはない」

「お前最低だな」

 

 何を今さら。

 

 

 ――数十分後――

 

 

「………………え? い、今なんと?」

「何度も言わせんな全く――持ってねえよ」

「どういうことですか!?」

 

 というわけでタスミンを呼んでみた。まさかこんな簡単に呼び出せるとは思わなかったがな。

 ちょっと通信で『ファミレスの飯旨いからお前も来いよ!』って言っただけで来たんだもの。アタシですら予想外だわ。内容を説明する手間が省けたのはいいけどさ、チョロすぎだよコイツ。せめて説明の素振りくらいはさせてくれってんだ。

 今ハリーが「止められなかったオレの失態だ」とか言って謝っているが、どういう意味だよそれ。ていうかお前、止める気なんて全然なかったじゃねえかおい。

 

「わ、私、お札二枚しかありませんよ?」

「オレは……小銭が少しあるだけだ」

 

 最近の女子高生の小遣い事情が知りたいと思った瞬間だった。

 

「で、サツキは?」

「財布もない」

「なんでそんなに余裕なんだ……?」

 

 はぁ……素直に持ってくるの忘れたと言った方がいいだろうか? いや、今言ったところでなんの解決にもならねえし……よし、現状を素直に言った方がいいな。むしろそうすべき。

 

「――言っとくけどな、お前らも食ったんだ。つまり共犯だぞ?」

「「う……」」

 

 そう、文句を言っているコイツらもなんだかんだで食ってる。もうアタシだけのせいじゃない。

 

「それにしても……私の前で喫煙とはいい度胸ですね」

「別にいいだろ」

「オレさっきやめろつったよな?」

 

 喫煙席でタバコはいけないなんて矛盾しているな。ここは一つ教えてやるか。

 

「いいかお前ら。喫煙席ってのはな――タバコを吸ってもいい場所なんだよ」

 

 今、アタシは物凄くドヤ顔になっているだろう。だが間違ったことは言ってないはずだ。対となる席に禁煙席ってのがあるぐらいだしな。

 

「いえ、場所以前の問題なんですけど……」

「その前にまずお前が未成年だってことを覚えとけ」

 

 あれ? そっち?

 

「そんじゃ、次の生け――生け贄は」

「待ってください。さすがにこれ以上はマズイかと」

「それに言い直したつもりだろうがまったく変わってないぞ」

 

 さあ、誰を呼ぼうかな? ヴィヴィオは……ダメだ。巻き込めばもれなくあの母親がついてくる可能性がある。ならティミルはどうだろうか? いや、呼んだところでカップリングのネタにされるのがオチだろうな。コイツもなしだ。ウェズリーは論外だから除外するとして、リナルディは……あかんな。イツキとストラトスも金は持ってなさそうだからアウト。残るはアピニオンだが……来ても役に立たなそうだからやめとこう。

 

 となると残るは一人――よし。

 

「シェベルにすっか」

「よりによってミカ姉かよ……」

 

 もう誰だろうと関係ねえ。

 

 

 ――数十分後――

 

 

「待ってほしい。今言ったことは本当かな?」

「紛れもない真実だ」

「もう食べてしまったぞ……」

 

 つーわけでシェベルを呼んでみたんだが……コイツもハズレか。しかしどいつもコイツも呼び出すのに手間が掛からなかったのはスゴいわ。

 ちょっと通信で『皆と飯食ってるんだけどこれが旨くてさ。お前もどうだ?』って言ったら笑顔で快諾してくれた。タスミンレベルでチョロすぎだよお前さん。どんだけ飢えてるんだよ。もう次から説明するのやめるよアタシ。

 それにしても、これまたおもしろい表情してんなぁお前。見事にしてやられたって感じの顔だよそれ。冷静を装ってるけど。

 

「この件が終わったら君には灸をすえる必要があるな」

「やれるもんならやってみやがれ」

 

 斬られるのが怖くてケンカができるか。

 

「あとタバコはやめないか」

 

 これで何度目だろう。喫煙で注意をされたのは。そろそろスルーしてくれてもいいのに。ていうかしてくださいお願いします。

 ……タバコで思い出したがあと何本残ってるかな? えーっと…………ヤバイ。タバコはあるけどライターのオイルが切れそうだ。マッチも残り五本しかない。さてピンチだ。どうしよう。

 

「こうなったらヴィクター呼ぶか?」

「これ以上犠牲者を増やさないでください」

「いや、アイツは金持ってるだろ」

「ならどうして呼ばないんだ?」

「オレはアイツに借りができるのがなぁ……」

「こういうこと」

「なるほど」

 

 そう、ホントならヴィクターを呼べばすぐに終わるのだがハリーが頑固なせいで呼べない。だからさっき呼ぶ相手候補には挙げなかったのだ。

 さっきもタスミンがスパゲティを食べてるときに呼んでみようかと提案したが、却下されたうえにいきなり頭を抱え出したので保留となってしまった。変なところで頑固なんだよなコイツ。

 

「君のお姉さんはどうなんだ?」

「ここ最近は音信不通だ。セコンドやるときにしか現れなくなってる」

 

 実はもう四年前に死んでるんじゃないかと思っていたりする。だとしたらすげえな、いつ死んだんだあの人。どうやって現世に居座っているのだろうか。そしてどうやって黄泉から戻ってきたのだろうか。今度会ったら聞いてみよう。

 

「……いや、まだ方法はあるぞ」

「聞こうか」

「それでも嫌な予感しかしないのですが……」

「その方法とは?」

「一回しか言わないからよく聞けよ」

 

 全員が聞いているかどうかを確認し、アタシははっきりと告げた。

 

「――ジークを呼ぶ」

「「「却下」」」

 

 一斉に却下されてしまった。なんでやねん。

 

「まあいい。とりあえず呼んでみる」

「聞いていましたか!?」

「私たちは却下したはずだが?」

 

 却下されたからといってそれに従うアタシではない。時間も限られてるしな。

 

 

(「二人とも。サツキが)(オレらの意見をまともに)(聞いたことなんてあったか?」)

 

(「ないね」)

 

(「……ありませんね」)

 

 

 なんか三人が小声で会話してるけど気にしない。早くジークを呼ぼう。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 35

「わかるかそんなこと。まあ、生け――助っ人が増えるに越したことはない」
「お前最低だな」
「んじゃ、ちょっとトイレに行ってくるわ」
「さっきもそんな感じで逃げようとしたよなお前。これで五回目だぞ」

 ちくしょう。


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