死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第69話「ありがとな」

 

「おい。その情報、マジもんか?」

『マジもんだよ、残念ながら』

「なんで残念なんだよ。とても喜ばしいことじゃねえか」

『いやいや、実の姉が犯罪者になっていくと思うと……なぁ……』

「失礼な! まだその域には達してねえよ!」

『まだ!? まだつったなあんた! てことは近いうちにやらかすってことだろ! えぇ!?』

「……………………切るぞ」

『おい待て逃げんな! 最後まで話を――』

 

 

 

 

 

 

 

「あっはははっ!」

「ごっ!?」

 

 ヴィヴィオを軽くいなした日の夜。たまには集団相手にケンカしようと思ってイツキに歯応えのある奴がいないか調べさせた結果、管理局に目をつけられているらしい武装集団の情報を得たアタシは連中のアジトへ殴り込みに来ていた。なんでも噂じゃ腕のある連中の集まりだとか。

 実際に対面してみたらただの仮面を被った変人の集まりって印象しかなかったが、いざ勝負してみるとそれなりに骨のある連中だとわかった。今アタシが笑い声を上げたのは、それを知ったことでテンションが上がってきたからだ。

 三人目を膝蹴りで沈め、向かってきた四人目の顔に右ストレートを打ち込み、いつの間にか背後に回り込んでいた五人目に裏拳をブチかます。次に五人目の頭を掴み、近くにあった柱へ叩きつけるも、その隙にデバイスであろう杖で脇腹を殴られてしまう。が、アタシはこれを意に介さず殴った本人である六人目の顔を殴り飛ばす。その衝撃で仮面が破損し、男性らしき素顔が露になった。

 

「なるほど、大体が男か……」

 

 そう呟きながら倒れていた六人目の頭を右手で掴み、握り込んだ左の拳で殴りつける。五発ほど殴ったところで後頭部に強い衝撃が走り、感触から鈍器のようなもので頭を殴打されたのだと理解した。すぐさま六人目を盾にして追撃を防ぎ、左のストマックブローを鉄パイプを持っていた七人目に打ち込んだ。

 それからも向かってくる奴は全員ブチのめしていたが、頃合いと思ったアタシは一旦攻撃を止め、周りを見渡してみる。夢中になっていて気づかなかったが、アタシがぶっ倒した奴の大半が血を流していた。えっと……やり過ぎたか?

 

「随分と派手にやってくれるなぁ嬢ちゃん」

「ん――!?」

 

 そんな声が聞こえると同時にいきなり吹っ飛ばされ、かなりのスピードで壁に激突した。いってえなおい、昔のアタシだったら死んでたぞ。

 すぐに体勢を整え、さっきまでアタシがいたところに視線を移すとバスケ部のキャプテンみたく上着を羽織った一人の男が立っていた。

 茶髪に凶悪な面とハンサム顔を足したような顔付き、遠目でわかりにくいがアタシより一回り大柄な体格、そして雰囲気……へぇ。

 

「お前が親玉かぁ……」

「まあな。ていうか、廃墟でもここはビル内だぞ? 少しは控えたらどうだ」

「アホか。そんなことしたら袋叩きにされるだろうが」

 

 初対面で変なところを注意されるとは思わなかった。アタシはこれをいやいや、と手を振りながら適当に否定する。

 だってそうだろう? 敵の集団が相手なのに控える理由はどこにもない。むしろ暴れまくってナンボというやつだ。つまり肯定する必要がない。

 

「さっそくだが親玉」

「誰が親玉だ。俺にはリーフって名前があんだよ。……あんた、死戦女神だろ?」

「知ってんのか」

「当然。結構有名だからな」

「そいつは光栄だ」

 

 どうやら不良だけでなくその道の連中にも知られていたようだ。チッ、せっかく『名乗るほどの者じゃねえ』ってキメようと思ってたのに。

 

「なら話は早い。……やろうぜ、無駄話はこの辺にしてよ」

「おっ、気が合――」

 

 いつも通り一瞬で距離を詰め、リーフが何か言おうとしたところを右の拳で思いっきり殴り飛ばす。この不意討ちを食らったリーフは見事に吹っ飛ぶも、両手から魔力を噴射することで壁への激突を免れた。おいおい、そんなのありかよ。おもしろそうだから参考にさせてもらうわ。

 

「ふ、不意討ちはねえだろ不意討ちは。一瞬走馬灯が見えたぞ」

「防いどいてよく言うぜ」

 

 なんとかなった、みたいな顔を焦りながらやっとけばごまかせるとか思ってんなら無駄だぞ。

 アタシの拳が当たる寸前、コイツは咄嗟に両腕をクロスさせることで防御していた。すげえ動体視力だ。……ホントに楽しめそうだよ。

 お返しを終わらせたアタシは久々に脱力した自然体の構えを取り、リーフもボクシングのそれに近いスタンダートな構えを取った。

 そのまま三分ほど経ったところで――リーフが動いた。アピニオンの倍はあろうかと思われるスピードでジグザグに動きながら肉簿し、メリケンサックで強化された右拳が懐に叩き込まれる。

 予想以上の威力に思わず顔をしかめ、膝をつきそうになる。続いて左の拳が眼前に迫ってくるも、咄嗟に上体を後方に反らすことで回避し、そのまま両手を地面につけると同時に右脚でリーフの顎を蹴り上げ、すぐさま上体を起こす。

 

「いつつ……」

 

 未だに痛む懐を擦り、体勢を整えていたリーフのメリケンサックがはめられた両手を見つめる。

 いつ装着したんだ?

 あと正直、メリケンサックの威力をナメてた。

 雑魚がよく使うショボい武器も、強い奴が使うとここまで変わるのか。今後のために覚えておくとしよう。ところで……

 

「それ、デバイスか?」

「お、よくわかったな」

 

 やはりメリケンサックはリーフのデバイスだった。ていうか、あんな型もあるのかよ。ここまで来たら包丁型のデバイスがあっても驚かないぞ。

 アタシが構えると同時にリーフも右手に魔力をチャージし始めた。このパターンは……

 

「砲撃か」

 

 そうだ、ハリーが砲撃を撃つために魔力をチャージするときの状態とほぼ同じなんだ。

 今なら奴をサンドバッグにできる。そう思ったアタシは左手に力を込め、スタートダッシュの要領で突撃した。その衝撃で踏み込んだ位置が陥没してしまったが、そんなことはどうでもいい。

 あと一歩のところまで迫り、左の拳でぶん殴ろうとした瞬間、全身に鎖状のものが絡み付き、その場から動けなくなった。クソッ、この距離でチェーンバインドとか洒落になんねえぞ!

 そんなアタシの心情をよそに、チャージが完了したらしいリーフは右手をこっちに向けてきた。

 

「さすがの女神様も、これならダメージはあるだろ」

 

 してやったぜ! 的な表情のリーフにそう言われ、アタシはため息をつきそうになった。いや、まあ、確かにこれならダメージはあるよ。

 ……けどさ、ここまでするか普通? それと誰が女神様だおい。

 

「ほいっと」

 

 とりあえず全身に掛けられたバインドを力ずくで振りほどき、発射寸前だったリーフの右手に手刀をかましてから懐に蹴りを入れる。危ない危ない。もしも発射されてたらダメージを受けてたうえに、管理局の連中にも勘づかれてたぞ。そうなればアタシまで御用になってしまう。

 リーフは懐を押さえながら痛そうな顔をしているが、まだ余力を残しているのは明らかだ。

 

「やっぱりバインドは意味ねえか……!」

 

 今の反応を見る限り、どうやらアタシにバインドが効くかどうかを確かめたかったらしい。

 するとリーフは両手に魔力を纏い、再びスタンダートな構えを取る。

 

「そうこなくちゃ、おもしろくねえ!」

 

 アタシはすかさず右拳を振り上げ、リーフの右拳と激突させるも、すぐに裏拳の要領で弾かれたため押し合いにはならなかった。

 そこから先は力と力のぶつかり合いとなった。

 リーフがぶっ放した弾幕を絶花で弾き返したり、顔を柱へ叩きつけられたり、ひたすら殴り合ったりした。それでも互いに膝をつくことすらなく、傷だらけになりながらもぶつかり合う。

 しかし、どんな物事にも終わりがあるわけで……この勝負(ケンカ)にも、ついにそれが訪れた。

 

「はぁ……はぁ……身体強化なしでこの強さとか反則だろ」

「そう愚痴るな。――強いよ、お前も」

 

 互いに距離を取り、体勢を整えてからそう呟く。こんなに強い奴はアスカ以来かもしれない。

 そうリーフを評価すると同時に、ちょっとした虚しさも感じてしまう。このレベルでもアタシは満たされないのかと。

 

「さてと……よっ(コキンッ)」

 

 つい先ほど外された左腕の関節をはめ直し、息が乱れているリーフ目掛けて突撃する。

 アタシが関節をはめ直したのを見てギョッとしていた顔も、すぐに集中した際のそれへと切り替わった。割り切るの早いな。

 突撃の勢いを保ったまま左の拳を握りしめ、左腕を思いっきり後ろへ引く。それを見たリーフは一瞬で魔力をチャージした右手を突き出し、ハリーのガンフレイムに勝るとも劣らない砲撃を放ってきた。アタシは絶花を使わずにジャンプすることでこれを回避し、

 

「くたばれぇっ!」

 

 そのまま奴の顔面に豪快なサッカーボールキックをブチ込んだ。

 これを食らったリーフはその場で静かに倒れ、アタシも近くに着地した。

 

「…………げほっ」

「へぇ、まだ意識あんのか」

 

 マジで凄えよお前、と付け加える。最後の蹴り、結構本気でやったはずなんだけどな。

 

「……いてえわ、やっぱり」

「そんだけで、済むのか……」

 

 頭と右脚に激痛が走り、ようやく自分が大きなダメージを負ったことに気づいて顔を歪める。頭と右脚以外だと脇腹も痛い。というか、身体中が痛みでズキズキする。帰ったら応急処置をして安静にする必要があるわ。

 今にも倒れそうな身体を引きずるように動かし、仰向けに倒れているリーフの顔を覗き込む。

 

「ありがとな」

 

 口に溜まっていた血の混じった痰を吐いてから微笑み、ボーッとしていたリーフに礼を言う。

 これをきっかけに、インターミドルから身を退けそうだ。いずれそうするつもりだったが、そのきっかけが見つからなかったんだよ。

 

「そいつはこっちのセリフだぜ――()()()()()

「っ!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、痛みを忘れてしまうほど驚愕してしまった。コイツ……知ってたのか。

 

「あんたと勝負できて良かったよ。……負けちまったが」

「そうかい」

「…………はは」

「どした?」

「あはは…………もう、桁違いすぎて笑うしかねえって感じだよ…………」

 

 その言葉を最後に、リーフは意識を失った。

 ……さてと、アタシも帰りますか。あの砲撃で管理局の連中に気づかれた可能性があるし。

 このあと気合いで右脚を動かし、痛みを堪えながら路地裏から下水道を伝い、無事に帰宅したのだった。ジークに騒がれたのは言うまでもない。

 

 

 

 




《今回のNG》


※裏話により今回はお休みします。


《今日のジークちゃん》

「えっと、確かここにサッちゃんがお菓子を隠してたはずなんよ……」

 サッちゃんがヴィヴィちゃんと軽く試合するために出ていった二分後、(ウチ)はサッちゃんの部屋を物色していた。ぐふふ、お菓子そのものは隠せても匂いがプンプンするから丸わかりや~。
 ベッドからは缶コーヒーと灰皿が出てきたが、肝心のお菓子は匂いしかせーへん。けどこの匂いをたどっていくと……

「ビンゴやっ!」

 案の定、衣類(下着)が詰められたタンスの奥からジャンクフードと地球産のどら焼きってお菓子が出てきた。大博打が当たった気分や!

「ほなさっそく――」


 ガチャッ


「…………」
「……へ?」

 な、なんで魔女っ子が入ってくるんや? 念のために鍵は改造しておいたやつを含めて三重に閉めといたはずやのに。

「……管理局ですか? ここに下着泥棒が――」
「誤解や魔女っ子! (ウチ)はただサッちゃんのタンスを」
「……下着が散らばっている時点で言い訳しても無駄だから」
「そやから誤解って言うてるやろ! お願いやから通報するのだけはやめてー!!」



 二人は今日も平常運転だった。


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