死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第70話「手負いでも平常運転」

 

「よしッ! 学年85位! 二桁順位キープだオラァ~!」

 

 武装集団のアジトへ殴り込みに行ってから二日後。今日は学期内試験の結果が発表される日だ。

 目の前のハリーみたくガッツポーズしてまで喜ぶ奴もいれば、へこみ過ぎて校内のガラスを割ろうとするバカ、嬉しさのあまりトリプルアクセルをカッコ悪く決めるバカ、好きな女子に特攻するバカ、自分の成績に合わせて感情を露にする普通のバカがそこら中に湧いてくる日でもある。

 ちなみに、ハリーの取り巻きであるルカとリンダは追試を免れたというのにグッタリしている。

 そこはもっと喜ぶべきだろ。さっき廊下ですれ違ったトリプルアクセルのバカみたいにさ。

 

「みんな、追試にならなくて良かったよ……」

 

 ハリーと愉快な仲間たちの一人であるミアは、親分のハリーと仲間の二人が追試にならなかったことにホッとしていた。さすが、学年9位の優等生は言うことが違うね~。

 

「なあサツキ」

「アタシはお前らの仲間じゃねえぞ」

「まだなんも言ってないだろ……怪我、大丈夫か?」

 

 ミアに心配そうな顔で訪ねられ、近くにあった鏡で今の自分の状態を確認してみる。頭には一昨年以来であろう懐かしの包帯が巻かれ、右脚も骨折とまではいかなかったものの負傷してしまったため、補助として松葉杖をついている。どうやらあの親玉とのケンカによるダメージが想定以上のものだったらしく、準決勝までに完治できるかどうかは運次第とのこと。

 ま、運良く怪我が治ったとしても関係ないんだよな……どのみち引退するし。

 ハリーとその他二名も、今はいつも通りにしているがついさっきまでめちゃくちゃうるさかったよ。『なんでこんな大事な時期に怪我してんだ!』とか、『脚を怪我してまでやることがあんのか!?』とか言われたし。当然だが、今年でインターミドルを引退することは話してない。

 

「サツキは何位だったんだよ?」

 

 やっと喜び終えたハリーが、なぜか自信満々な顔でそう問いかけてきた。え、何? もしかして勝ったとか思っちゃってる?

 

「ああ、上から5番目だ」

「「「え?」」」

 

 現実を突きつけた瞬間、ハリーの取り巻き三人の声が綺麗に重なり、教室も一気に静まり返った。クラスメイトのほとんどが信じられないという顔でアタシを見ている。ルカとリンダに至ってはさっきまでグッタリしていたのが嘘のようだ。

 

「な、なんだって……?」

「だから、学年5位だよ」

 

 ハリーが今度は震え声で問いかけてきたので、今度はわかりやすくはっきりと告げる。するとハリーは顔を俯かせ、ワナワナと震え始めた。

 ……あ、これはお怒りのパターンですね。なんとなくわかります。

 

「…………納得いかねぇ――っ!!」

 

 顔を上げたかと思えば、いきなり鬼の形相になって吠えやがった。

 しかし、この雄叫びでクラスメイトもハッと我に返り、静まり返っていた教室も一気にざわつきを取り戻した。相変わらず極端だなぁ。お前が納得してないのは今の叫びでよくわかった。でもな、アタシが納得してるからそれでいいんだよ。

 

「お前まったく勉強してなかっただろ! どうやったらそんな順位になるんだよ!?」

 

 お怒りの表情でアタシの胸ぐらを掴み、前後に揺さぶりながら叫ぶハリー。どうやったらって言われてもなぁ……とりあえず揺さぶるのやめろ。

 正直に登校二日目に全ての教科書を読んで覚えました、とか言っても信じてもらえないのは目に見えてる。ならカンニングと言えばいいのか? いや、コイツらのことだからその可能性はとっくに考えてるはずだ。アタシの口からそれを言えばすぐさまチクられるに違いない。これもあかん。

 こうなったら適当にはぐらかすしかない。そうと決めれば早くしよう。でないと吐く……!

 

「ま、前にも言ったろ。お前らとは、モノが違うって……!」

「今初めて聞いたぞ!?」

「ストップですリーダー! それ以上やるとサツキが吐いてしまいます!」

 

 アタシの顔が青ざめているのに気づいたリンダがすかさず止めてくれた。く、空気を吸うだけで幸福感が得られるとは思わなかったぞ……。

 あと一歩でも遅れていたらアタシはゲロヤンキーと呼ばれるはめになっていただろう。そう思うだけでゾッとする。

 

「と、ところでサツキ。チビ達の学院祭には行かないのか?」

 

 このままだとアタシが吐きながら暴れるとでも思ったのか、リンダと共に黙りしていたルカが別の話題を振ってきた。

 えーっとチビ達って……多分いや、間違いなくヴィヴィオ達のことだよな。うーむ……アタシとしてはそんなお祭りを楽しむより早く脚の怪我を治して暴れたいんだけど。

 ところで――

 

「学院祭ってなんぞ?」

 

 思ったことをハリーたちにそのままぶつけてみると、マジかコイツと言わんばかりに驚かれた。

 いやマジで知らないんだけど。驚かれても困るんだけど。今回初めて聞いた単語なのに知ってるわけねえだろうが。

 

「ヴィヴィたちの学校でやる文化祭と同じような行事だよ」

 

 なんとか落ち着いたハリーがわかりやすく一言で説明してくれた。なるほど、出店やミニゲームをやったりするあの文化祭と同じやつか。……練習場よりも居心地が悪そうだから絶対に行きたくねえな。家でゴロゴロする方がマシだ。

 

「行くわけねえだろ」

〈マスター。ウェズリーさんからメールが来てますよ〉

「ウェズリーから?」

 

 ていうかウェズリーって誰だっけ。

 

「多分、学院祭の招待状だと思うぞ」

 

 ハリーにそう言われ、とりあえずメールの内容を確認してみることにした。

 どれどれ……

 

 

【お久しぶりです! 今度殴って――じゃなかった。今度うちの学校で開催する学院祭に来てください! あと蹴り飛ば――間違えた。あたし達のクラスの出し物である『魔法喫茶』にも来てくれると嬉しいです! それと会わせたい人(?)がいるので投げ飛ば――違った。会わせたい人がいるので、お昼を一緒にいかがですか? あと、あと…………あたしを張っ倒し――】

 

 

 ピッ

 

「…………」

 

 すぐさまウェズリーを着拒に設定し、それのアドレスと履歴を跡形もなく削除する。よし、これで一週間は大丈夫なはずだ……め、メイビー。そしてたった今、思い出した。ウェズリーってあのや、八重歯? が特徴的なマゾガキの名前じゃねえか。なんで今に至るまで忘れていたんだ。さすがにこれは大失態だよ。ヴィヴィオを軽くいなした日にもいたじゃねえか。どうして忘れてたんだアタシのバカヤロー……!

 思わず読んでる途中でメールを閉じてしまったが、最後まで読みたいという気持ちより、最後まで読まなくてよかった、という気持ちの方が圧倒的に勝っているから問題ない。

 ま、まずはハリーに報告するとしよう。すげえ気になる的な視線をこっちに向けてるから。

 

「ただの迷惑メールだったよ(ガクガクガク)」

「何があった――いや、どんなメールを見たんだ!? なんか生まれたての子鹿みたいに足が震えてるぞお前!?」

 

 はっはっは、何を言ってるんだお前は。アタシの足がそう簡単に震えるわけがないだろう。多分これは武者震いだ。いや、そうに違いない。ていうかそうであってくれ、頼むから。

 しかしなぜだろう。さっきから身も凍るような物凄い寒気がするんだけど。アタシは何も悪くないのに。まだ何もしてないのに。

 

「と、とりあえずメールの内容を見せて――」

「メールなんて来なかった。いいね?」

「「「………………」」」

 

 今のアタシはお坊さんもびっくりなレベルの真顔をしているに違いない。

 

「で、でもよ――」

「メールなんて来なかった。いいね?」

「………………は、はい」

 

 この事はキレイさっぱり忘れるとしよう。もうすぐ昼飯の時間だし。

 

 

 □

 

 

「屋上で食べる飯は美味しいにゃ~」

「気持ち悪いから語尾に『にゃ~』って付けるのやめろ」

 

 昼休み。屋上に設置してある(忘れかけてたのは内緒)炬燵で、アタシはお手製弁当を、ハリーはコンビニ弁当を食べている。

 それにしてもさ――

 

「なんでお前がいるわけ? 結構前から思ってたけど」

「いいじゃねーか別に」

 

 全く、今朝テレビでやってた占いが当たってる気がするぞこれ。ジークが見ろ見ろうるさいから仕方なく見たけどさ……もう絶対に見ないぞあれは。何がハロー占いだよ。妙な名前のくせに当たりやすいとかムカつくんだよ。当たりやすいじゃねえよ、当たってんだよ悪い方向に。

 今朝の出来事を振り返っていると、ハリーが頬にご飯粒をつけながら口を開いた。

 

「サツキ」

「んだよ」

「お前さ――どうやって屋上までたどり着いたんだよ? その脚で」

 

 なんだ、そんなことか。

 

「両手でよじ登ったに決まってんだろ」

「さも当たり前のように言うな。両手だけで校舎の壁をよじ登れる人外はお前だけだ」

「誰が人外だテメエ」

 

 なんで最近の知り合いはアタシを人外として扱おうとするんだ。そりゃ前に大型バイクや電話ボックス(みたいな何か)を投げ飛ばしたことはあるけどさ、そういうのですぐに人外として扱うのはやめてもらいたいね。

 

「ごちそうさん」

「おい。なんでオレから逃げようとしてんだ」

 

 飯を食い終え、屋上の端ら辺にある配水管のようなパイプを伝って下へ降りようとしただけなのに逃亡者扱いである。どこまでも失礼な奴だ。

 それでも松葉杖を背負い、パイプを伝って降りようとした瞬間、ハリーが待ったを掛けてきた。

 

「待て待て待て待て! どっから降りようとしてんだお前!?」

「どっからって、パイプからだけど」

「普通に階段から下りればいいだろーが!」

「そっか。じゃあな」

「ちょ、おま――」

 

 ハリーがまた何か言おうとしていたが、アタシはそれを無視して屋上から離脱した。今からスーパーの特売があるからな。これを逃すわけにはいかない。逃せば今の清貧生活が悪化してしまう。

 今夜のご飯は何にしよう。そう考えつつも、アタシは急いでスーパーへ向かうのだった。

 屋上から降りる際、ハリーが胃薬を飲んでいたけど……きっと気のせいだろう。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 50

「両手でよじ登ったに決まってんだろ」
「さも当たり前のように言うな。両手だけで校舎の壁をよじ登れる人外はお前――ぶべらっ!?」
「誰が人外だテメエ」
「あぶねーなおい! 松葉杖をバットみてーに扱うな! あと一歩でオレが場外ホームランになってたぞ!?」
「チッ」

 なってればよかったものを。


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