死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第74話「言い訳は向こうで」

 

「あ~暇じゃの~」

「…………さすがにだらけ過ぎ」

 

 ジークが学院祭とやらへ出向いている日の朝。

 あれからヌエラとの殺し合い(ケ ン カ)によるダメージが響いてしまい、このままでは右脚の怪我が悪化するとみたアタシは休養のため、家でゴロゴロしている。ベッドがふかふかしてて気持ちいいな。

 そんなアタシを見たクロには心底呆れたような視線を向けられるも、それだけで済んでいるのだからまだマシである。

 もしもこれがジークやウェズリーの場合、間違いなくアタシの貞操は汚されてしまうだろう。

 

「今日ほど平和な日って、あると思うか?」

「……ないと思う。エレミアがいないから」

 

 意見どころか理由まで一緒とは思わなかった。

 ぶっちゃけジークがいなければほとんどの日々が平和に違いない。アタシにとっては。

 なんせ奴の存在そのものがアタシの……えっと……まあ、何かを狂わせているからな。何を狂わされているのかはわからんが。

 たまには昼寝(まだ朝だけど)をしようと仰向けになると、目の前に見慣れた画面が現れた。

 

「ん? メール?」

 

 仰向けになったまま誰だろうと思って見てみると、画面の端に【変態乞食】という四文字が表示されていた。どうやら送り主はジークのようだ。

 嫌な予感しかしないが、放っておくとろくなことがないのでメールの内容を確認する。

 えーっと何々……

 

 

【サッちゃんも学院祭に来てーやー!】

 

 

「………………」

 

 どうでもいい内容だった。それを理解したアタシは返信もせずに無言でメールを閉じた。

 

「…………誰からだったの?」

「迷惑メールだったよ」

 

 なぜかアタシが昼飯にしようとしていた焼きそばを勝手に食べているクロにそう聞かれ、適当にはぐらかす。ってかおめえ、人の焼きそば勝手に食うなよ。今それとイカそうめんとお茶碗一杯分のご飯しかないんだぞ食料。

 こればっかりはクロでも許すわけにはいかない。拳骨の刑だ。

 アタシはクロから焼きそばを取り上げ、その小さな頭に拳を振り下ろした。

 

「…………痛い」

「人の楽しみを奪った罰だ」

 

 無表情ながらも涙目になったクロに軽く訴えられる。そこは可愛いのなお前。

 撲殺しなかっただけマシだと思ってほしい。お前にはまだ癒しとしての利用価値があるから刑を緩めにしただけなんで。

 ……そろそろ癒しとしての効力がなくなってきてるのは間違いないけど。

 せっかくなのでもう一発やっておこうと思って拳を振り上げた瞬間、再び通信端末の画面が目の前に現れた。今度は誰だよ……。

 クロへの拳骨を渋々と取り止め、さっさとメールを開く。……またジークか。やっぱり返信しなかったのが間違いだったようだ。

 ちょっと後悔しながらメールの内容を確認する。えー何々……

 

 

【はよ来ないとこの写真をヴィヴィちゃん達に見せるで~】

 

 

「………………」

 

 そのメールには一糸纏わぬ姿でシャワーを浴びているアタシの姿が写真となって添付されていた。ていうかあの野郎、いつ撮ったんだよ。

 

「……さ、サツキ?」

 

 クロが珍しく動揺しながらアタシの顔を覗き込んでくる。

 ……これはレアなもんを見たな。あのクロが表情を変えるなんて。

 

「ん? どうかしたか?」

「…………どうして怒ってるの?」

「は? 怒ってる?」

「……うん。笑顔が怖い」

 

 はっはっは、心外だな。今のアタシは怒るどころかむしろ落ち着いているんだけど。ああそうとも、とりあえずジークをブチ殺そうと思ってるほどには落ち着いているとも。

 

 ――処刑じゃボケ。

 

「エレミアァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 頭は冷静に心は熱く。今のアタシ、ある意味こんな状態になってるわ。

 アタシはすぐさま行動に移っていた。いつものパーカーを着用し、時間をショートカットするために自室の扉と玄関を破壊。そして四階から飛び降り、無事に着地して学院祭の開催校であるなんとかヒルデ魔法学院へ向かうのであった。

 

『………………この壊れた扉は私が直すの?』

 

 玄関の方からそんなクロの呆れた声が聞こえたが、ジークをブチ殺すことしか頭にないアタシにとってはもはやどうでもいいことだった。

 だってそういう後始末はいつも手際がいいお前にやらせてたじゃん。気づけよ全く。

 

 

 □

 

 

「――っ!?」

「番長? どないしたん?」

 

 St.ヒルデ魔法学院で行われている学院祭へ招待され、チビ達の出し物である『魔法喫茶』を満喫していたオレは、一瞬だけ恐ろしいものが体中を走り抜けるのを感じていた。

 前にも感じたことがあるぞこれ。確か学校で授業をサボろうと逃げ出したサツキを屋上で見つけたときだ。

 あのときも一瞬だけ似たようなものを感じ、そのあとサツキにボコられたんだっけ。

 ……今思えばよく生きてるなオレ。あれは本気で死ぬかと思ったよ。

 

「あ、ああ、なんでもねえ」

 

 ジークはきょとんとした顔になっていたが、特に言及はしてこなかった。

 同席しているエルスとミカ姉には訝しげな視線を向けられていたが、うさぎの人形を模したゴーレム達と再び戯れることで上手くごまかした。

 なんだったんだ今の寒気は……今日はサツキがいないから平和だと思ってたのに。

 

「にしても、よくできてるな~」

「ええ、なかなかの完成度です」

 

 最初に見たときは一瞬ファンタジーな世界に迷い込んだのかと思ったぞ。今店内で行われているおもちゃのダンスパーティなんて永遠に続けばいいのに、と思ってしまうほど可愛らしい光景になっている。

 可愛いもの好きなヤツ(オレとか)にとっては完全に天国である。今戯れているうさぎだってお持ち帰りしたいぐらい可愛い。ていうかお持ち帰りさせてくれ、頼むから。

 

「まだ来ないんかな~?」

「どうかしましたか?」

 

 さっきから満喫しつつもキョロキョロしているジークを見かねたのか、オレの隣に座っているエルスが心配するように口を開いた。

 なぜだろう。嫌な予感しかしないうえにまた寒気がしてきたのだが。

 そんなオレの予想通り、ジークはとんでもないことを言い放った。

 

「実はさっき、メールでサッちゃんを呼んでみたんやけど……全然返信があらへんのよ」

「バカヤロォォォォッ!!」

「え!? な、なんで番長が怒鳴るんや!?」

 

 何やらかしてんだこいつは!? せっかく平和な一日になると思ってたのに! あいつが来たら悪い意味で賑やかになっちまうだろーが!!

 寒気の正体がわかった。理由はわからねーが、サツキがこっちに向かってきているんだ。いや、もう着いている可能性もある。

 来るなサツキ。こっちに来ればお前はゲロってしまう。あとオレのためにも来ないでくれ。

 本当にサツキが来るのかはわからないが、もし来たらと思うとシスターのように祈らずにはいられなかった。

 

「どど、どうしてサツキ選手を……?」

「ん、お婿さんだけ仲間外れはあかんやろ? そやから一緒に回ろうと思って呼んでみたんよ」

 

 オレにはジークの言っていることが何一つとしてわからない。

 

「さ、サツキが旦那だとすれば……君は奥さんかな?」

「ミカさん正解! サッちゃんは女の子やけどお婿さんで(ウチ)はお嫁さんなんよ!」

 

 ミカ姉の一言はジークをさらに興奮させる結果となった。それとジークが何を言っているのかますますわからない。

 これにはさすがのミカ姉も冷や汗を流しており、エルスも口を開かないだけで不安そうな顔になっている。みんな考えることは同じのようだ。

 

「なんで皆そんなに不安そうな顔してるん?」

 

 これから天災が訪れるというのに不安にならない方がおかしい。

 つーかよく考えたらサツキを呼んだのはジークだよな? ということは……この場から離脱すれば巻き込まれずに済むということか!

 そうと決まれば行動に移そう。でないとオレまで巻き込まれる。

 

「ちょ、ちょっとオレ、席を外――」

 

 

(『エレミアァァァァァァァァァァァァ!!』)

 

 

「っ!?」

 

 い、今のはサツキの声!? くそっ、もう来たのかあいつ……!

 

「な、なあエルス。今サツキの声がしなかったか?」

「いえ、何も聞こえませんでしたよ?」

「番長にも聞こえたんか……」

 

 どうやら今の叫び声を聞き取ったのはオレとジーク、二人だけのようだ。

 しかもあいつ、呼び方がジークからエレミアに戻ってたな……それだけ頭にくることがあったのか。一体何をしたんだジークは。

 今度こそ席を外そうと立ち上がった瞬間、メイド服を着て接客をしていたちびリオが叫んだ。

 

 

『あっ、サツキさんだ!』

 

 

「やっと来たんかサッちゃん……!」

「しかし姿が見えないぞ」

 

 ついにサツキが来てしまったようだ。だけどミカ姉の言う通り、周りを見渡してもそれらしき人影は全く見当たらない。

 ……さっきの声は幻聴だったのか? だとしたらもう心配する必要は――

 

「――見ーつけた」

「「「っ!?」」」

 

 ジークのいる方から聞き覚えのある声が聞こえ、急いで振り向くと彼女の後ろに私服姿のサツキが立っていた。

 多分ジークが送信したらしいメールを見てここへ来たのだろうが、当のサツキからは呼ばれて来ただけとは思えないほどの殺気が感じられる。

 ていうか幽霊みたいにいきなり現れるのはやめてくれ! 心臓に悪すぎるんだよ!

 

「サッちゃん! やっと来てくれたんか! ほなさっそくやけど一緒に――ん? なんで(ウチ)の頭を鷲掴みにするんや?」

「……なんだ、あのメールは」

「ああっ、あれは一週間ほど前にこっそりと撮った写真や。よく撮れてたやろ?」

 

 何を撮ったんだお前は。

 

「とりあえず、話を聞かせてもらおうか」

「待つんやサッちゃん。君は勘違いしてるんよ。あれはあくまでも脅しであって実行する気は」

「うん、言い訳は向こうで聞いてやる」

 

 サツキ&ジーク退場。

 

「ん?」

 

 その直後、見慣れた画面が目の前に現れた。どうやらメールのようだ。

 さっそくそのメールを開き、内容を確認する。

 

 

【んば長たすけて】

 

 

「っ……!?」

 

 内容を見た瞬間、一気に目頭が熱くなった。おそらく『番長』と打ちたかったのだろう。

 

「どうして泣いているんですか!?」

「何かあったのか?」

「あ、ああ。実は――」

 

 このあとオレが見たメールの内容を二人に見せると、ミカ姉は合掌し、エルスは涙目になった。

 結局、なんでサツキが怒っていたのかはわからなかったが、ジークという尊い犠牲と引き換えに平和な一日となったので結果オーライとしよう。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 3

「今日ほど平和な日って、あると思うか?」
「……ないと思う。サツキがデブ猫のように大人しいから」
「ちょっとそこに正座しろ」

 誰がデブ猫だコノヤロー。


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