死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第75話「とても嬉しい」

 

「……やっぱこの程度か」

 

 右脚に不安を残しながらもインターミドル地区予選の準決勝を迎えた日の午後。試合を1ラウンドKO(秒殺)で終わらせた今、アタシはクラナガンの路地裏へ出向き、そこを占拠していたならず者の集団をブチのめしている最中だ。

 天気は曇り。加えてにわか雨が降る可能性もあるという不安定な気象にある。もし雨が降ればずぶ濡れは免れないだろう。

 

 ――それでもアタシは暴れ続けた。もうすぐ自由になれることへの喜びを示すかのように。

 

 タバコを咥えながら最後の一人を落ちていたパイプ椅子でぶん殴り、使い終えたそれをゴミのように投げ捨てる。

 最近、自分でもわかるほど暴れる回数が増えた気がする。暇があれば休養のためゴロゴロするか、ケンカしに行くかの二択だもんな。

 

「さーて、買い物にでも行くかぁ~」

 

 いつものようにフードを被ってから路地裏を後にし、雲行きを気にしつつ街中を歩く。この近くにスーパーでもあればいいんだけど……ないな。

 ちなみに現金は久々に()()調()()した分が結構な額だったから問題ない。

 

「お、コンビニ見っけ」

 

 交差点へ出てみると、さっそく一軒のコンビニが見つかった。スーパーらしき店舗は見当たらなかったが、この際食料が買えるならどこでもいいので、そのコンビニへ小走りで向かっていく。

 そして無事に道路を渡り、コンビニの目の前まで来たところで膝をついた。

 

(なんで閉まってんだよ!?)

 

 コンビニはこれから建て替えますと言わんばかりに閉店していた。それらしき貼り紙はどこにもないのに。

 ……ショボくれても仕方がない、とりあえず動こう。何もしないのが一番ダメだ。

 そのコンビニを見なかったことにし、高層ビルが建っている方へと歩を進める。多分この都市の中心部だな。

 

 それからもアタシは夜になるまでスーパーやコンビニを探し続けたが、なぜか見つけた店舗は全て閉店していた。なんの嫌がらせだクソッタレ。

 

 

 □

 

 

「たでーまー」

 

 あれから地元のコンビニやスーパーにも行ってみたが、どの店舗も開店時間が過ぎていたせいで見事に閉まっていた。これはヤバイ。お金が手に入っても食料が買えなきゃなんの意味もねえ。

 冷蔵庫になんかあったかな? 覚えている限りではイカそうめんがあったはずだ。

 ――賞味期限切れの。

 

「あ、詰んだわ」

 

 食べ物どころか飲み物すらない。賞味期限切れのイカそうめんはジークに食わせるとして、飲み物は水道水で大丈夫だろう。

 頼みの綱であるクロは自室の扉と玄関を直して以降、態度が少しツンとしたものになってあまり口を聞いてくれない状態にある。しかもその態度に意外と萌えてしまったのが悔しかった。ていうか自分から作業しといてあの態度はないだろ。

 

「あ、お帰りや~」

 

 そんなことを考えながらもリビングに行ってみると、ジークがイカそうめんを勝手に食べていた。……もう罠に掛かっていたか。

 ズボンのポケットからタバコを取り出し、テーブルの上に置いてあったマッチで火をつける。そろそろこのタバコも飽きてきたな。今度街に出たら新しいやつでも買おう。ついでにライターも買い替えるとしよう。

 

「…………微妙な表情でタバコを吸ってるとこ悪いんやけど、大事な話があるから吸うのをやめてほしいんよ。ていうかタバコ吸うのやめーや」

 

 ジークにしては珍しく真剣な表情で喫煙を注意してきた。それと話したいことってなんだ?

 仕方なくタバコを灰皿に押しつけ、煙を吐きながらジークの顔を見つめる。

 

「実は連休を使ってルーフェンへ行くことになったんよ」

「は?」

 

 ルーフェン? そこって確か春光拳発祥の地だったか? 詳しくは知らんが。連休を使って行くってことは……その間はコイツが家からいなくなるってことか!?

 なんにせよ、ありがたい話だ。これで少しはジークの圧力から解放される。

 

「…………なんか嬉しそうやな」

「ん? そりゃあな」

 

 数日とはいえ、お前という脅威がこの家からいなくなるのだからそりゃ嬉しいさ。

 ジークはちょっとばかり喜んでいるアタシを見てジト目になった。

 

「まさかとは思うけど、(ウチ)が出ていくことに喜んでるとか……?」

 

 なぜわかった。

 

「それはねえよ。少しの間とはいえ、お前がいなくなるなんてちょっと残念だなぁ」

「下手な嘘はつかんでええよ」

「おいおい、アタシがお前に嘘をついたことなんてあったか?」

「嘘しかついてへんような気がせんでもないんよ」

 

 これはおかしい。あのジークがこんなに鋭いなんて……一体どうなっているんだ。

 それと何が嘘しかついてないだコノヤロー。いくら隠し事の多いアタシでも嘘ばかりついてるわけじゃねえんだよ。

 

「正直に言って」

「とても嬉しい」

「サッちゃんのアンポンタン! バカタレ! アバズレ! 男女!」

 

 正直に言ったら思いっきり罵倒された。ていうか誰がアンポンタンでアバズレだゴラァ。そろそろアタシもブチギレるぞ。

 アタシを罵倒したジークはジト目から考え事をしている顔になり、さらにありがたいことを呟いていた。

 

「こっちに帰ってくる頃にはラブパワーも切れてるはずやし……婚姻届も……どないすれば……」

 

 どうやら限界突破には期限があるらしい。しかもルーフェンへ行ってる間に切れると。それが本当なら素晴らしいことだ。

 コイツが限界突破した原因は弁えていた一線を越えてしまったことにある。アブサンで酔ったときの勢いを一時的に保っていたのだろう。

 酒に弱いジークは基本的に少量のアルコールで酔っ払っていた。しかし、アブサンのアルコール度数はそこらの酒なんか比にならないほど凄まじい。あのときジークが素面に近い振る舞いをしていたのはおそらく、彼女の脳内で摂取した大量のアルコールが回りすぎてしまい、脳が麻痺しすぎて一周回った結果だとアタシは見ている。

 

 そしてここからが本題である。

 その翌日。ジークは酔いから覚め、二日酔いもなかったがどこか吹っ切れていた。あれは多分、酔いそのものは覚めたが脳の低位機能が表層化したままだったのだろう。でなきゃ記憶もないのに酔いが覚めたら吹っ切れていた、なんて普通はあり得ないからな。

 つまり限界突破を防ぐにはアルコールを摂取させ過ぎないことだ。少量なら経験上、限界突破に比べたらマシな程度で済むはずだし……。

 ま、どんなに考えても所詮は素人考えでしかないからな。推測に過ぎないけどそうであってほしいと心から願っている。

 ……ただ、なんで限界突破が切れるってジーク本人にわかるんだ?

 

「――人の話聞けやっ(ブスッ)」

「ぐああぁっ! なんだ!? 急に目の前が真っ暗になったぞ!?」

 

 今何が起きたの!? 目に割り箸で突かれたような痛みが走ったと同時に視界がシャットアウトされたんだけど!?

 クソッ、人が考え事をしているときに攻撃してくるなんて卑怯にもほどがあるぞっ!

 

「何しやがったテメエ……!」

「いつぞやの仕返しや。これで(ウチ)の痛みが少しはわかったやろ?」

 

 仕返しされるようなことをした覚えはない。

 

「うぅ……で、話とは?」

「ルーフェンに行くの、サッちゃんにもついてきてほしいんよ」

「当然だが断る」

 

 そもそも行く理由がない。あと行ったとしても得られるものがない。コイツのことだから目的は武術体験のはずだ。そんなもの、アタシがやってなんの得があるというのか。

 お前がいない間くらい、自分のペースでゆっくり過ごしたいんだよアタシは。いつもはなんだかんだでペースが乱れてるし。

 ……とりあえず、ホントに限界突破が切れかかっているのか確かめてみよう。

 

「なあジーク」

「んー?」

「『好き』って言ってみろ」

「へぅっ!?」

 

 一瞬でジークの顔が茹で蛸になった。どうやら限界突破が切れかかっているのは本当らしいな。

 ジークは顔を赤くしたまま、泳ぐようにあたふたしている。まるで恋する乙女だ。

 

「さ、サッちゃんは……」

「あ?」

「サッちゃんは好きって言うてくれへんの?」

「死ねならいくらでも言ってやる」

「サッちゃんのアホー!」

「………………」

「あっ! 痛っ! サッちゃ……っ! ビンタはお玉でするもんと……っ!」

 

 悪口だけどかなり懐かしい言葉を聞いた気がする。ビンタする感覚も懐かしいな。

 その後もアタシはルーフェンの件でジークにせがまれたが、さすがにしつこかったんで彼女の頬が腫れるまでビンタし続けたのだった。

 

 

 

 




 やっとリメイク前に追いつきました。

《今回のNG》TAKE 1

「――人の話聞けやっ(スカッ)」
「……………………ダセえ」
「サッちゃんも充分にダサあだぁああああああっ!!」

 アタシのどこがダサいってんだコノヤロー。


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