死戦女神は退屈しない   作:勇忌煉

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第77話「見たかコノヤロー!」

 

「サツキちゃん、そろそろ時間だよ」

「…………ああ」

 

 試合当日。いつもより早めに着いたアタシは珍しくアップをしていた。とはいっても今は入場準備を終えてベンチにいるけど。

 今までは控え室に着くどころか試合そのものに間に合うこと自体がギリギリだった。そのためアップする時間はもちろん、対戦相手がどんな奴か確認する時間もなかった。

 仮に時間があったとしてもそんなことは絶対にしない。こういうのは初見だからこそ楽しみが増すもんだ。事前に知ったらおもしろくねえだろ。

 ……まあ、今回の対戦相手であるハリーは初見じゃないけど。

 

「それにしても、姉さんがアップするなんてマジで珍しいな。どういう風の吹き回しで?」

「別に。ただ……ずっと楽しみにしてただけさ」

 

 姉貴と共にアタシのセコンドとなった弟のイツキに微笑みながらそう答え、先にリング内へ入ろうとしていたハリーに視線を移す。

 彼女と出会ったのは3年前。中等科で同じクラスになったのがきっかけだった。その頃からお前は無駄に活発で社交的、一匹狼として振る舞っていた(らしい)アタシにもよく絡んできた。そういうのもあって腐れ縁のような関係に……いや、今じゃ腐れ縁そのものだな。だけど模擬戦じゃアタシは負けなし、ハリーも数えきれないほど挑んできたが結果は変わらなかった。加えてアタシとお前には絶対的な実力差があった。なのにお前は果敢に挑んでくる。その度胸には驚かされたよ。

 だからこそ、今まで一度も折れなかったハリーにはちょっとばかり悪いと思っている。確かにお前と公式戦でやるのは楽しみだ。その気持ちに嘘はない。けど――

 

「――勝つのはアタシだ」

 

 

 □

 

 

 会場が揺れるほど凄まじい歓声の中、オレは学ラン風のバリアジャケットを着用したサツキが、ゆっくりとリングに入ってくるのを見て感慨深いものを感じていた。まさかこうしてお前とインターミドルの舞台、しかも都市本戦で戦える日が来るなんてな。まだ年寄りじゃねーが、長生きはするもんってか?

 オレがそうこう考えているうちに、サツキはリングの中央に立っていた。その顔には見覚えのある表情が浮かんでおり、目は髪に隠れてよく見えない。ただ、前回とは異なり明らかに喜んでいる。一体何に対して……?

 まあいい。とりあえず言いたいことは言わせてもらおう。

 

「公式戦は今回が初めてだな。――負けねえぞ、サツキ」

「……今まで一度でも、アタシに勝ったことがあったか?」

「今日勝つんだよ。オレがな」

 

 胸を張ってそう宣言する。無限書庫じゃボコボコにされたが、試合なら話は別だ。ルールがある分、実力差があるオレでも対抗できる。サツキは動きを制限されるしな。

 ……これでもオレはサツキに劣等感ってやつを抱いている。初出場の際、都市本戦であいつとヘンテコお嬢様の試合を見たときから。

 あとこうも思っていた。自称不良のオレが、筋金入りのおめーに勝てるわけがないってな。

 

「相変わらず言ってくれるじゃねえか」

 

 サツキはどこか嬉しそうに笑みを浮かべ、準備運動のように首を鳴らし始めた。

 そんな彼女をよそに、オレは開始の合図であるゴングを待つように構える。するとサツキも、いわゆる『脱力した自然体の構え』を取った。一言で言うなら野生の獣のそれだ。

 ゴングが鳴った瞬間、オレは目の前で構えているサツキと殴り合うことになるのか……ははっ、未だに実感がねえや。

 

 ま、宣言したように勝つのはオレだがな。

 

 

《――それでは試合開始ですっ!》

 

 

 いつものアナウンスと同時に、聞き慣れたゴングの音が鳴り響く。ついに始まったか……!

 すぐさま右の拳に魔力をチャージし、発射するタイミングを窺う。今発射しても確実にかわされる。それどころか背後を取られて大打撃を浴びてしまう。下手すればワンパンで終わる。魔法ならともかく、身体能力でサツキに勝つのは不可能だ。読み合いで彼女の先を行くしかない。

 当のサツキは構えたまま二、三歩ほど後退すると右手に力を込め、その手でリングの床を突き刺すように掴んだ。

 

 ――その瞬間、地震が起きたかのように足下がぐらついた。お、おい待て、なんか凄えデジャヴなんだけど!?

 

「よっこらせっ」

 

 軽い掛け声と共に、サツキはリングの床を割り砕いて持ち上げた。ええい、オレの知り合いには馬鹿力しかいねえのかっ!

 同じくリングの床を持ち上げたことがあるちびリオと違う点は、その巨大な岩塊を片手で軽々と持ち上げているところだ。加えて今回はバインドが掛けられていない。岩塊を投げてきたとしても難なくかわせる。だけどそうすれば先回りしたサツキに撃墜されるだろうな。あいつも多分、それを狙っているはず……。

 だったらオレのやることは一つだけだ。またあの岩塊を単射砲撃で粉砕してやろうじゃねーか。

 

「でぇやぁああーっ!!」

 

 オレが一旦魔力のチャージを中断して単射砲撃をいつでも撃てるように構え直すと、サツキもほぼ同時に今度は力のこもった掛け声を出し、右手だけで持ち上げていた巨大な岩塊をこちら目掛けてぶん投げてきた。

 くそっ、思ってたよりも岩塊のスピードが速え! 間に合うか……!?

 

「ブチ砕けぇ――ッ!!」

 

 急いで右の拳を岩塊に向かって突き出し、そこから固体プラズマ砲――パイルバンカーを撃ち出す。放たれたプラズマ砲によって迫りくる岩塊は粉砕される形で迎撃されたが、それを投げたサツキは視界から消えていた。

 オレが迷わずに後ろを振り向くと、案の定と言うべきか左の拳を振り下ろすサツキの姿があった。首を右へ傾けることでそれをかわし、がら空きの懐に左拳を打ち込む。油断していたのか、彼女は痛みに顔を歪めながら踏ん張っていた。まだだ、まだもう一押し必要だ……!

 すかさず生成した三つの魔力弾を投げるように放ち、サツキを足止めするように全身へ命中させる。次に蹴りを入れて突き放すようにサツキとの距離を広げ、その隙に魔力を右の拳へチャージさせていく。

 当然、それを見逃すサツキではなかった。いきなり目の前に現れ、容赦なく左拳を顔面へ打ち込んできた。オレは顔に広がる鈍い痛みを歯を食いしばることで耐え抜くも、今度は右拳の連打を打ち込まれ、続いて膝蹴りをこれまた顔面に叩き込まれる。あまりの威力に視界が霞んで顔の痛みも増したが、それでも魔力のチャージはやめない。

 

「ぐぅ……!」

「へぇ、いつもより粘るじゃん」

 

 痛みを堪えるオレとは対照的に、サツキは余裕があると言わんばかりに微笑を浮かべている。完全にこの試合を楽しんでるな。まあ、実を言うとオレもちょっと楽しんでいるが、それ以上に顔が痛くて表情に出せなかったりする。

 

「でもな――テメエの準備が整うまで待ってやるほど、アタシはお人好しじゃねえんだよ」

 

 サツキは低い声でそう言うと左のハイキックを繰り出し、オレがそれを右腕でガードした隙に握り込んだ右の拳を腹部へ打ち込んできた。モロに食らったこともあって思わず悶絶しそうになるも、出そうになった声を喉元で抑える。

 やっぱりオレが魔力をチャージしていたのは知られてたか……けどな、だからって今やめるわけにはいかねえんだよっ!

 空いている左拳に炎熱を纏わせ、それをサツキの顔へ打ち込む。右拳に魔力をチャージしているため、今のオレにできることは限られている。それでもやれるだけやるしかない。主導権さえ握ればこっちのもんだからな。

 一方、拳を打ち込まれたサツキは少し下がっただけで全然堪えていなかった。ちっ、単発じゃ炎熱を纏わせてもダメか……!

 

「――ちゃんと集中しろよ、おい」

 

 そんなサツキの声が聞こえたかと思いきや、両手で胸ぐらを掴まれ背負うように投げ落とされた。背中に走る激痛で顔をしかめる暇もなく、オレは目の前に迫りくるサツキの右脚から転がるように逃れてすぐさま立ち上がる。そーいやこいつも投げ技が使えるんだったな……。

  次はどうしようかと考えているうちに、ようやく魔力のチャージが完了したことに気づく。後はタイミングよく撃つだけだ。

 そして、その機会はすぐにやってきた。オレがダメージによるふらつきを押さえてサツキの懐へ潜り込もうと一歩踏み出した瞬間、ありがたいことにサツキの方から突っ込んできたのだ。

 

「ん?」

「これならどうだ――!」

 

 オレはさらに一歩踏み出して魔力をチャージし終えた右拳を迫ってくるサツキの顔へ突き出し、十八番とも言うべきガンフレイムを撃ち出す。

 ゼロ距離からの砲撃魔法。いくら対処法を持ってるお前でも、これなら止められねーだろ!

 

「マジでやりやがったコイツ……っ!」

 

 オレの予想通り、さすがのサツキもゼロ距離からの砲撃は厳しかったようだ。右手で砲撃を受け止めてはいるが、完全に力負けして徐々に後ろへ押され始めた。

 それを好機と見たオレはフルバーストとまではいかないが、一気に砲撃の威力を強めた。このままリングの外へ押し出してやる!

 

「こ、んの……ぉ!?」

 

 押されていたサツキはリングの端で踏ん張っていたが、砲撃を弾こうと左の拳を振り上げた瞬間、踏ん張りすぎていたせいか足下が崩れたことでついにリングの外へ押し出され、そのまま思いっきり壁に叩きつけられた。

 疲れで少し息を荒くしながらも、叩きつけられた痛みで顔を歪めるサツキをはっきりと見たオレは、自分がサツキから初のダウンを奪ったのだと実感し――

 

 

「主導権もらったぁ――っ!!」

 

 

 ――嬉しさのあまり、右の人差し指をサツキに向かって突き出した。

 

 

 □

 

 

「う、嘘やろ……?」

 

 サッちゃん家のリビングにあるテレビでサッちゃんと番長の試合を観ていた(ウチ)は、驚きのあまりボソリと震え声で呟いた。

 驚いたのは番長がサッちゃんからダウンを奪ったというのもあるが、それよりもあのサッちゃんが初めてダウンを奪われたという事実の方が大きかったりする。実際、試合でサッちゃんに勝ったことのある(ウチ)でもダウンは一度も奪えてない。

 でも、番長は奪った。もしかしたら、番長ならサッちゃんに――!

 

「……田中。お願いだから主である私の言うことを聞いて」

「魔女っ子のアホぉ――っ!」

 

 今回ばかりはまったく空気の読めない魔女っ子が鉛筆を持って逃げ回る変な銅像(?)の田中をどたばたと追い回してるのを見た(ウチ)は、久々に怒りの叫び声を上げた。

 せっかくサッちゃんと番長の試合がええ展開になってるっちゅうのにあんたらは……!

 

「……エレミア。無駄に叫ぶ暇があるなら田中を捕まえて」

「こっちはあんたのせいで叫んでるんよっ!」

 

 まあええ。ちょうど第1ラウンドが終わったところやし、田中の捕獲を手伝うことにしよか。

 まったく、寝坊した(ウチ)がバカやった。しばらくはサッちゃんのこともバカにでけへんなぁ。

 

 

 ――試合は始まったばかりやけど、今回はほんまにどうなることやら。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 10

「……鈴木。お願いだから主である私の言うことを聞いて」
「魔女っ子のアホ――ん?」

 鈴木って誰や?


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