あの樹海での戦いから次の日、教室で友奈はある話を聞いていた。
「隣町で昨日事故あったじゃない。私近くにいてびっくりしちゃった」
「えっあの2、3人怪我したってやつ?」
「そっちにメッセージ送ろうとしたら電池切れちゃって」
「あるある」
日直の仕事をしながら友奈は東郷の方を見つめた。東郷は昨日から何か思いつめた顔をしていた。そしてもう一人、神宮桔梗の事も気になっていた。今は昨日のことが無かったように本を読んでいた
(昨日のあの言葉は……)
昨日桔梗が言ったあの言葉……
『僕は誰にも戦ってほしくない。僕が一人で戦いたかったんだ』
「あれって一体どういうことなのかな?」
友奈は日直の仕事に戻り、黒板の隅に『欠席者なし……だといいね』と書くのであった。
友奈の日直の仕事が終わるのを待って、僕、友奈、東郷の三人で部室へ行くのであった。多分樹海での事を改めて説明するのだと思う。
「その子懐いてるんですね~」
「えへへ、名前は牛鬼って言うんだよ」
「可愛いですね~」
「ビーフジャーキーが好きなんだよね」
「牛なのに!?」
先輩と僕が黒板に説明するのに必要な絵を描いている間、友奈と樹の二人はそんな話をしていた。あんな戦いがあったとはいえのんきなものだな
「さてとまずは皆元気みたいね。早速だけど昨日のことを説明しておくわね」
「よろしくお願いします」
説明の方は先輩に任せようと思う。僕の場合は事情を知りすぎている。気をつけて話せるが、すべてを話すべきではないと思い、ある程度の事情を知る先輩に任せることにした。
「戦い方はアプリに説明テキストがあるから、今は何故戦うのかって話をしていくね。こいつ、バーテックス」
昨日の乙女型に似せて描いたバーテックスの他に五人の絵と白い生物の絵が描いた。
「人類の敵が、あっち側から壁を越えて、十二体攻めてくる事が神樹様のお告げで分かったわけで、バーテックスの目的は神樹様の破壊。以前にも襲ってきたらしいんだけど、その時は頑張って追い返すのが精一杯だったみたい。そこで大赦が作ったのが、神樹様の力を借りて勇者と呼ばれる姿に変身するシステム。人知を超えた力に対抗するには、こちらも人知を超えた力って訳ね」
「あの、昨日バーテックスの他に襲ってきた白い生物って一体、黒板にも描いてありますけど」
「ありゃ、私もあの生物のことは知らないわ。桔梗知ってるの?」
友奈の質問に先輩も戸惑っていた。僕は補足説明をした。
「あの白い生物は星屑。バーテックスでもありバーテックスでもない存在。言うなればバーテックスの成り損ないみたいなものだって聞いている」
「バーテックスのなりそこない……」
「話を戻すわ。注意事項として、樹海が何かしらの形でダメージを受けると、その分日常に戻ったときに何かの災いとなって現れるといわれているわ」
「あっ」
きっと友奈は教室でクラスメートの子が話していたことを思い出しているのであろう。アレがそのダメージの影響だということと気がついた。
「派手に破壊されて大惨事、なんてならないようにアタシたち勇者部が頑張らないと」
「……その勇者部も、先輩が意図的に集めた面子だったという訳ですよね?」
「…………うん、そうだよ。適正値が高い人は分かってたから」
「………」
「私たちは、神樹様をお奉りしている大赦から使命を受けてるの。この地域の担当として」
「知らなかった」
「黙っててごめんね」
先輩は改めてみんなに謝った。僕自身、何を言うべきか迷っていた。
「次は敵いつ来るんですか?」
「明日かもしれないし、一週間後かもしれない。そう遠くはないはずよ」
「……なんでもっと早く、勇者部の本当の意味を教えてくれなかったんですか。友奈ちゃんも樹ちゃんも、死ぬかもしれなかったんですよ」
「……ごめん。でも、勇者の適正が高くても、どのチームが神樹様に選ばれるか敵が来るまで分からないんだよ。むしろ、変身しないで済む確率の方がよっぽど高くて」
「そっか。各地で同じような勇者候補生が……いるんですね」
「うん。人類存亡の一大事だからね」
「……こんな大事な事、ずっと黙っていたんですか」
「東郷……」
「……あ、私行きます!」
東郷はそのまま部室を出て行った。友奈はそんな東郷を心配して後を追っていった。残った僕たちは……
「………お前が落ち込むことはない」
「……でも正直ちゃんと言わなかった私が悪かったし、それに桔梗、あんたのことも」
「桔梗さんの事?」
「昨日友奈たちにも言ったけど、僕はみんなに戦ってほしくない。僕は一人で戦いたかった」
僕の言葉を聞いてか樹は何故か怯えた。正直今の僕はどんな顔をしているのか分からない
「……それは一体……」
僕はそのまま部室を出て行った。正直話すべきことではないと思った。今はどんなに後悔をしてもしょうがない。皆と戦うしかない
僕が部室から出て行くと、友奈と東郷の二人を見つけた。
「ねえ、友奈ちゃんは大事な事を隠されていて、怒ってないの?」
二人の話を僕は影に隠れながら聞いていた。
「そりゃあ、驚きはしたけど……でも嬉しいよ。だって適正のお陰で風先輩や樹ちゃんと会えたんだから」
「……この適正の、お陰?」
「うん!」
友奈は迷いのない答えを出していた。本当に友奈は友奈だな。
「私は、中学に入る前に、事故で足が全く動かなくなって、記憶も少し飛んじゃって。学校生活送るのが怖かったけど、友奈ちゃんと桔梗くんがいたから不安が消えて、勇者部に誘われてから、学校生活がもっと楽しくなって。……そう考えると、適正に感謝だね」
「これからも楽しいよ。ちょっと大変なミッションが増えただけだし、」
「そっか、そうだよね。友奈ちゃんって前向きだね」
さっきまで暗かった東郷の表情が段々と柔らかくなってきた。それを見て友奈も笑顔になっていた。
(あの二人は大丈夫そうだな)
二人の話を聞いて、安心した瞬間、再び戦いが始まろうとしていた。