勇者の花と桔梗の花   作:水甲

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今回は樹SIDEから始まります


第19話 歌

小学生の頃、知らない大人たちが家にやってきたことがあった。私はお姉ちゃんの背中に隠れているだけで、後でお姉ちゃんがお父さんとお母さんが死んだことを教えてくれた。

 

それからはお姉ちゃんは私のお姉ちゃんで、お母さんでもあって……ずっとお姉ちゃんの背中が安心できる場所だった。

 

でも、私一人ではお姉ちゃんを支えることは出来なかった。

 

あの日勇者のことを話した時も、お姉ちゃんと桔梗さんは二人で秘密を抱え込んでいた。私が後ろに隠れている自分ではなく、隣を歩いていける自分だったら……

 

 

目を覚まし、お姉ちゃんが用意してくれた朝食を食べようとした時だった。

 

「ちょっと動かないで」

 

私の寝癖を直してくれた。寝癖を直し終わるとお姉ちゃんは笑顔で……

 

「よし、今日も可愛いぞ~ありゃ?元気ないね、どうした?」

 

「あのね……」

 

私はずっと言いたかったことを伝えようと思った。

 

「あのね、お姉ちゃん。ありがとう……」

 

「何、急に?」

 

「何となく言いたくなったの。この家の事とか、勇者部のこととか、お姉ちゃんにばっかり大変なことさせて……」

 

「そんな、私なりに理由があるからね」

 

「理由って?」

 

「まあ簡単に言えば、世界の平和を守るためかな?」

 

お姉ちゃんはそう言って笑顔をみせてくれた。

 

「だって、勇者だしね」

 

「でも……」

 

「何だっていいよ。どんな理由でも、それを頑張れるならさ」

 

「どんな……理由でも?」

 

でもただ後ろを付いていく私には理由なんてないよ……

 

 

 

 

 

「それで用事って?」

 

お昼休みに私は桔梗さんを呼び出し相談をした。頑張れる理由が無いことを……

 

「……樹はその理由に気がつけてないだけじゃないのか?」

 

「気がつけてない?」

 

「そうだ。まぁそれは自分で見つけることだな」

 

自分で見つける……そんなことできるかな?

 

 

 

 

 

 

放課後、勇者部の依頼で子猫を預けてくれている家に私とお姉ちゃんが来ていた。

 

「すいませーん。讃州中勇者部でーす。仔猫を引き取りに来ました」

 

 

インターホンを鳴らすと家の中から女の子の声が聞こえた。

 

「やだ、ぜったいやだ。この子をあげるなんてわたしが飼うからぁ」

 

「……でもね、家では飼えないのよ」

 

「もしかして子猫連れて行くのいやだったのかな?」

 

「あちゃーもっとちゃんと確認しとけばよかった」

 

「どうしよう」

 

「大丈夫。お姉ちゃんが何とかするわ」

 

お姉ちゃんは家に上がり込み、あの子の母親に説得をした。やっぱり私はお姉ちゃんのことを後ろからしか見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

帰り道、何とか説得に成功したことに対して喜んだ私。だけどお姉ちゃんの表情は暗かった。

 

「ごめんね、樹」

 

「何で謝るの?」

 

「樹を勇者なんて大変な事に巻き込んじゃったから」

 

お姉ちゃん、ずっとそんな事を思っていたの?

 

「さっきの家の子。お母さんに泣いて反対してたでしょ? それで思ったんだ。樹を勇者部に入れろって大赦に命令された時、私やめてっていえばよかった。さっきの子みたいに、泣いてでも、もしかしたら、樹は勇者にだってならずに普通に」

 

「何言ってるのお姉ちゃん! ……お姉ちゃんは、間違ってないよ」

 

そう、お姉ちゃんは間違ってはいない。私は言い続けた。

 

「それに私ね嬉しいんだ。守られるだけじゃなくて、お姉ちゃんとみんなと一緒に戦えることが」

 

「ありがと」

 

「どういたしまして!」

 

私達は互いに笑顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

そしてテスト本番、あんなに練習したのに、やっぱり緊張してしまう。もう無理かと思った瞬間、教科書から一枚の紙が落ちた。私は慌てて拾い上げると……

 

『テストが終わったら打ち上げでケーキ食べに行こう・友奈』

 

『周りの人はみんなカボチャ・東郷』

 

『気合いよ』

 

『歌声に思いを込めろ・桔梗』

 

『周りの目なんて気にしない! お姉ちゃんは樹の歌が上手だって知ってるから・風』

 

みんなからのメッセージを見て、私の緊張は和らいだ。そうだ、そうだよね。私は一人じゃない。みんながいるんだから、勇者だって、この歌だって

 

 

 

 

 

 

部室に行き私はみんなに合格したことを伝えた。そうしたらみんな自分のことのように喜んでくれた。

 

 

その日の帰り道に私はお姉ちゃんに夢ができたことを話した。お姉ちゃんは聞きたがっているけど、まだ秘密にしていたいんだ。まだ夢なんていえないけど、やってみたいことができた。ただそれだけ、でももしこれが夢の一歩だったら、頑張る理由にだってなる。そしてお姉ちゃんの隣を歩けるようになる。

 

わたしはカラオケである歌を録音して、オーディションを受けることにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は自宅で大赦の……園子のお世話係の人に連絡を入れた。

 

『はい』

 

「すみません、園子に伝えてもらいますか?奴に勝てる方法があると」

 

僕は勝つ方法を話すと電話越しで慌てている反応が聞こえていた。

 

『そ、それは確かに……で、ですがそんな可能性が低いことなんて……』

 

「とりあえず神頼みしてみますよ」

 

一方的に電話を切るとアラームが鳴り響いた。

 

「始まるか。最悪の事態とやらが……」

 

僕は神樹に祈った。どうかみんなが無事であるようにと……そして代償を……

 

 

 

 

 

 

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