百花繚乱   作:moon

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謝罪や申し開きは必要ないと言葉を続けるクロムレア公は、先程とは打って変わって厳しい表情だ。

如何なる誤魔化しも言い訳も通用しない、すべてを射抜く両眼はそう告げている。

もとより言い訳などする気は全くないフィレスであったが、それでも張りつめる空気に中と自身の緊張から、こくり、細くて白い喉が動いた。

三人しかいない部屋の窓から静かに風が流れ、薄いカーテンがフィレスの心の様にゆらゆらと揺れる。

緩やかに時と風が三人を弄んで、そして無言で通り抜ける。

フィレスはきつく目を瞑り、小さく息を吐いた。

全てを話せば、叱咤はもとより、軽蔑されるかもしれない。或いは罵倒されて縁を切られるかもしれない。

でも、ディパン王族の誇りにかけて、嘘偽りなど決して口にはしないわ。

再び開いた水色の目は決意の光が宿っていた。視線はアレスをそしてクロムレア公を見る。

開いた口からは、表情と同じく硬いものであった、

 

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「私が戦場に向かう事で、ディパンが軍を動かすかもしれないと思いました。」

「確信していたのか?」

「いいえ、可能性に賭けたのです。」

「何故?」

「反ロゼッタ側に、この戦況が少しでも有利になる様に・・・」

フィレスは眉を寄せ、唇を噛んだ。

アレスとクロムレア公は黙っている。自分達はフィレスの言葉を補完しようとはせず、あくまでもフィレスにすべてを吐露させるつもりだ。

大切な家族から、一番厳しい詮索を受けている。いや、兄と祖父だからこそ追及の手を緩めないのかもしれない。

やけに乾いた喉を意識したフィレスは口を開いた。

「・・・ディパン軍を・・利用、・・・しようとしました。」

ディパンに危機を招き入れるという理由で反逆罪で投獄されても文句は言えない。そんな言葉を震える声で告白した。

荒く息を吐き涙を流すまいと、全身で感情を抑えるフィレス。アレスはそんな妹を落ち着けようと背中をゆっくりとさする。

「フィレス、何故そう思った?」

いつも通りの優しい口調の兄。いつも通りだからこそ、言葉を偽る事など出来ない。

兄と姉には、ありのままの自分の気持ちを伝えてきたのだから。

「国王陛下は、嫡子庶子の中で一番私に目を掛けてくださっています。」

これは万人が認める所である。だからこそ、ディパン国王はフィレスの気持ちを尊重してパルティアとの縁組を国王の一存で決めた。

「従って、国を後にした私を・・・救出するとの名目で、・・参戦するのではないかと・・・思いました。」

「・・・参戦の切欠は、セレスが作ってしまったね。」

言い終えると小さく息を吐いたアレスは、俯くフィレスの顔を覗き込んで、柔らかく微笑んだ。

「大切な妹にそんな事をさせる訳が無い。セレスは、フィレスの姉なのだから。」

「兄さん・・・」

はっと顔を上げたフィレス。アレスは衝撃的な言葉を続けた。

「王の御前会議で、問われたよ。『裏切り者を討つべきとの意見が多いが、お前はどう思うか』とね。」

アレスはフィレスの背中にまわした手で止め、拳を握る。一瞬苦しそうな表情をした後に、苦笑いを零した。

「ディパンを裏切った国賊は打つべきです、と。そう進言した。」

フィレスが息を飲む音が、非難するかのようにアレスの耳朶を叩く。

一番下の妹にこんな重荷を背負わせる訳にはいかない。今この場所に居ないもう一人の妹の気持ちが痛い程に理解できるからこその、アレスの進言。

ディパン国内とてこの戦争から無関係ではない。フィレスが出奔している間、国内は大いに揺れていたのだ。

 

 

部屋の空気の様にクロムレア公が重くて鋭い声を落とす。

「アレスがディパンに最後の一押しをした。」

中立を決め込むには、ロゼッタはあまりにも周辺諸国を巻き込んでいる。ではどちらにつくべきか。ディパン国内は割れていた。

最後に天秤を傾がせたのが、皮肉にも身内の裏切りとなる。

―――――逆賊討つべし―――――

ディパンにとって戦争介入の大義名分が出来た瞬間でもあった。

 

 

窓からは穏やかな風が舞い込みアレス、フィレス、クロムレア公の三人を取り巻く。

窓の外からは、鳥の囀りが時折聞こえた。

控えの間に居るのはフィレスの母方の出身である腹心の侍女だ。

他者の介入が無いようにと、目を光らせている。

穏やかな昼下がりに、あまりにも相応しくない会話が尚も続こうとしていた。

 

「戦争はじきに終わる。」

今にも泣きだしそうなフィレスに向かってクロムレア公が言った。

「戦争責任は当然とってもらう。」

ロゼッタの王統は全て根絶やしとなる、とクロムレア公の言葉は続く。

「だが、元凶の宮廷魔術師は無罪放免となるだろう。」

「なぜ!!」

クロムレア公の言を聞いた途端に、身を乗り出したフィレスが鋭く叫ぶ。

アレスはフィレスを支える手に力を込めた。

「ゼノンがロゼッタ国王を唆したのは公然たる事実だけどね、証拠が無いんだよ。」

アレスが続けた。

「それでも!!」

水色の双眸に憎悪の火を宿し、兄に食って掛かる妹。

「証拠無き者は罰せられない。」

ぎりぎりと奥歯を噛みしめ憤懣やるかたないといった表情のフィレスに、クロムレア公が冷徹に言い放つ。

「何故、奴に慈悲を与えなければならない?」

 

 

 

奇しくも数か月後、フィレスはゼノンに対して同じ言葉を言う事となる。

 

 

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