さて……腹も膨れたし次の目的地は、本屋か……
オレは川沿いの道を煙草をふかしながら歩いている。
綺麗な水が流れてるなぁ……
初めて見たな。
対岸にもそれなりに家があるのでそっちに行ってみようか。
橋なら近くにあったし
「ん?」
遠いからよく見えなかったが、小さい子が橋から身を乗り出してジッと川の流れを見つめている。
…………クソ餓鬼が。
川に煙草を吐き捨てて急いで向かった。
近くに来てみると小学生ほどの歳の男の子だった。
目が赤い……泣いてたのか。
「お前死ぬの?」
「えっ……」
男の子は背後から声をかけられたので少し驚いた様子である。
「邪魔しないでよ……」
「いや、邪魔する気ねぇからオレの事気にせずどうぞ身投げして下さいな、オレ、見てるから」
頬杖ついてボケ〜っと男の子の顔を見て言った。
「えっ!!とっ止めないの?」
オレの返答が余程以外だったのか目を皿のようにして男の子はオレの顔を見ている。
「えっ、なんで止めないといけないの?勝手に死ねばいいじゃん………でも、どうしてお前が身投げしようとしてるのか興味が湧いたね」
「変な人……」
「よく言われる……」
フッと自嘲した。
「僕……妹がいるんだ……」
「で?」
「家族はみんな妹を構うものだから僕……寂しくて寂しくて仕方なかったんだよ」
「ほぅ」
「妹なんて居なくなれば良いのにって思ったから、何度も泣かしたよ……それで、今日も妹のこと叩いて泣かせたら、お母さんに引っ叩かれて出て行けって言われたんだ……ようやく分かったよ、僕いらない子なんだよ……だから、この川に身を投げて死んじゃおうかなって……」
よくある話だなぁ。
「辛いのによく話してくれたね……お礼にオレも一つお話しをしてあげよう」
「うん……」
「オレはよく水死体をみるんだよ……とんでもない臭いなんだ……んで、そいつらは人間の形をしてないんだよ……」
「うん」
「化け物みたいな形してんだぜ?俺達は、そいつらを『鬼』と呼ぶんだけどな……死んでそんなに時間が経ってないのが青鬼、少し経って全身が真っ赤に腫れ上がってガスで膨張した赤鬼、完全に腐りきってガスで膨張した身体が真っ黒になり、腹の中には虫がわんさか蠢いている黒鬼……オレも頑張ってそいつらを人間だと思って扱おうと努力したんだけど、どうしても無理だった。それくらいに人間の面影がなくなってんだよ……でもな、その『鬼』達を元の人間のように扱える奴がいる…………母親だよ……」
「………………」
「狂わんばかりに泣いて、『鬼』の名前を叫んで……腐りきった身体を抱きしめるんだ……近づいただけでも吐きそうになる臭いなのに……人間の面影なんて少しもないのに……きっとお前が身投げして、『鬼』になったらお前の母親もそうするだろうね……」
「そっ、そんなことしな……」
「するんだよ!!!!」
「ひっ!!」
オレの怒鳴り声を聞いて男の子は、ビクッとして恐る恐るオレの顔を見ている。
「何人見てきたと思ってやがんだよ……『鬼』を抱きしめる母親達を……ずっと見てきた。何人も何人も何人も何人もな!!自分が腹を痛めて命懸けで産んだ子をなぁ!!居なくなればいいなんて思う母親なんていねぇんだよ!!!」
「わっ、分かったよ僕が間違ってた……」
「分かったらさっさと、かぁちゃんと泣かせた妹に謝ってこい!!!」
「うっ、うん!!あっ、ありがとうお兄さん……」
男の子はタッと走っていった。
らしくねぇなぁ……久しぶりに熱くなってしまった……
ダッセェ……
ビュンと風が吹いた。
チッ……来たか……射命丸……
「滑稽ですね……」
言うと思ったよチクショウが……