でも、見て下さってありがとうございます。
では、本編です。
青年はフラフラと歩く。
一度死んだ身で、これ以上、怖しいと思うような事なんて無いと青年は思っていた。
それは、間違いだ。
本能的にあの老人に恐怖した。
殺されると思った。
いや、それ以上に怖しい何かを感じた。
何度も殺されていた。
何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!!!!
まるで息をするかの様にオレを殺す事は奴に取って取るに足らない事なのだ。
そう思うと青年は嫌な気持ちになる。
ああいった奴らを相手にした時、オレは――守れるのだろうか?
ちょっと悔しい。
いや違う、とても悔しい。
無意識に歯がギリギリと鳴っていた。
「どう?貴方の前任者は……」
スキマから紫が現れた。
不敵に笑い、口を扇子で隠す仕草。
どうも気に入らないなと青年は思った。
「バケモノですね。あっ、そうだ、傘!!返しますね」
ちょっと気まずそうに青年は紫に傘を手渡す。
紫は、それを不機嫌そうに受け取って、フンッとソッポを向いた。
「本気で心配したのよ?」
「本気で殺そうと思ってた癖に……」
ヘッと青年は意地悪笑顔をして紫を見る。
「それもそうね」
静かに紫は呟いた。
殺そうと思えば直ぐに殺す事が出来たのになぁと青年は思っていた。
それでも、そうしなかったのは、この人が優しいからだと青年は理解している。
でも、やっぱり青年には紫に対して素直な反応なんて絶対にしたく無い理由がある。
恨んでいる事があるから。
本当はオレが悪いんだけどね……
青年は心の中で呟いて、紫を見つめる。
「なんの用です?」
あからさまに嫌そうな態度を取るに青年に腹を立てたのか、紫はソッポを向いたままで答えた。
「貴方のお仕事の話よ」
「…………」
青年はそれだけの言葉である程度理解した。
自分のする仕事の事を――
「できる?」
全てを説明し終えてから紫は、ニコッと笑った。
「オレはアンタのそういったところが嫌いなんですよ、えげつない話をしてるのに、なんで笑ってるんです?」
呆れ顔で青年は答えた。
「Yesと答えるのが分かってるから」
意地悪そうに紫は言った。
「ハイ、Yesですよ?オレがやらないといけない仕事ですしね」
「とうとうこっち側になったんだから当然でしょう?」
冷淡に紫は答えた。
それを見て、青年は舌打ちをする。
「悪になる覚悟は出来たかしら?」
鋭い目つきで紫は、青年に問うた。
青年は意地悪な顔して答える。
「オレはそれを悪だとは思いません、悪役だとは思いますけどね」
「ふふっ、貴方らしい答えね、じゃあ、その時になったら呼ぶわ」
青年の答えに紫は、満足そうに笑ってスキマへと消えた。
「爺さん、吹っ切れるってのはこういう事かよ……」
はぁと青年はため息を吐いて、呟いた。
これからする事になる仕事。
影に徹すること、消す事
そ し て
青年自身が恐怖となること。
「必要悪ってやつだな、嫌いじゃない」
青年は、煙草を吹かしてスタスタ歩く。