東方風天録   作:九郎

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いまひとつですね。
もうすこし、構成練った方が良かったです。

もしかしたら、更新遅くなるかもしれません。よろしくです。


では、本編です。


仕事終わり

メラメラと湧き上がってくるもの

 

その正体を青年は知っていた。

 

怒りか?

 

違う。

 

憎しみ?

 

近い。

 

悲しみ?

 

論外。

 

もっと単純なもの。

 

憎悪だ。

 

ドス黒い憎悪である。

 

パチパチと青年の周りに火花が散る。

 

青年の妖気と対妖怪用の結界が鍔迫り合いのように拮抗していた。

 

男はそれに気づかない。

 

「さて、お前ともサヨナラだな!!」

 

男は、地面に落ちた短い刀を拾って勝ち誇った様に言った。

 

「うん、サヨナラ」

 

青年は身体に力を込めた。

すると

 

バチィ!!

 

と火花が散り周りの結界が崩れ落ちてゆく。

 

「なっ!?」

 

男は、持っていた対妖怪用の札が黒焦げになったのを見て驚愕する。

 

「案外簡単だったな、最初はビビったけど……」

 

スッと青年は立ち上がり、手足をプラプラと動かした。

暗い表情だった。

 

「ヒッ……」

後退りする男を青年は冷たい表情で見つめる。

 

(いつまでオレは人間にしがみ付いているのだろうか?女々しいったらないね。)

 

青年は、一瞬で後退りする男の首を掴んだ。

 

グエッと男は声を出したが、青年は万力のように首を締め付け続けた。

 

「返してあげなよ……」

 

青くなりつつある男の表情を確認して青年は手の力を緩める。

そして、男の目を見た。

 

男は怯えている。

 

ガタガタと足を震わせて、小便を垂らして青年を見ていた。

 

「返せよ……あの人達の命を、返せよ、あの人達の家庭を、返せよ!!あの人達の幸せを!!!!」

 

青年は男の首から手を離し、男の顔面を鷲掴みにした。

 

「ヒィイイ!!」

 

男はただ怯えるばかりである。

 

「今から3秒毎に少しずつアンタの頭部を握り込んでいく、良いだろ?直ぐに死ねるぜ?あの人達の苦しみに比べたらちっぽけさ、アンタがあの人達から奪った物に比べたらハナクソ以下だ!!良いだろう?」

 

ニッと青年は笑顔を見せる。

ドス黒い憎悪に満ちた笑顔だ。

 

青年は思った。

 

殺したくない。

 

けれど、生かしておいたらいけない。

 

だから、青年は殺す事にした。

 

少しずつ、男の顔面が歪んで変形してゆく。

 

青年は冷たい表情でそれを見ていた。

 

目を背けてはいけないと思ったのだ。

 

自分の所業を。

 

自分は、悪い事をするのだ。

やってはいけない事をする。

 

悪になる。

 

自分は、バケモノなのだから。

 

メキメキと男の頭蓋骨の軋む音が聞こえる。

 

耳触りな男の悲鳴も小さくなっていった。

 

青年は尚も万力のように男の頭部を握り締めてゆく。

 

そして――

 

 

ゴキッ、ブチブチィッ!!!

 

血と脳片が飛び散った――

 

 

 

 

青年は道を歩く。

 

返り血で服が真っ赤になっている。

 

「良い仕事したわね」

 

スキマから紫が拍手をしながら現れた。

 

「嫌味ですか?」

 

キッと刺すように青年は紫を睨みつけた。

 

「まぁ、本来ならそこら辺の妖怪が始末するのだけれど……アレが食べてもいい人類よ」

 

クスッと紫は、笑って言った。

 

「なんでオレにやらせた!!」

今にも紫に飛び掛かりそうな勢いで青年は紫に言う。

それを、紫は面白そうに見つめて、そして言った。

 

 

「いつまで人間にしがみ付いているの?だから甘ちゃんなのよ。貴方は『妖怪』でしょう?良い加減に受け入れなさいな。」

 

 

「くっ……」

冷淡に言う紫を青年は苦虫を噛み締めたような顔でみていた。

 

「やると言った癖に、冷徹に人を殺す覚悟が無かったから貴方を差し向けたのよ。甘ったれの貴方にはぴったりな仕事だったわね」

 

紫は、扇子で口を隠してクスクスと笑った。

見下す様な目で青年を見つめていた。

 

「…………」

 

青年は何も返せない。

悔しいけれど、青年は何も言い返せない。

 

はぁ、と紫は溜息を吐いた。

 

「良い加減に腹を括りなさい」

 

そう言い残して紫は消える。

 

青年はポツンと取り残され、顔についた血を手で拭った。

 

汚い、血生臭い。

 

気分が悪かった。

 

殺さないといけないから殺した。

 

ただそれだけの理由なのに。

それが青年に重くのしかかる。

 

悪者になるのは辛い事だと青年は理解した。

 

「例え世界が終わっても、オレはお前を離さないって言ってた癖に――」

 

辛そうに青年は空を見上げて呟いた。

涙は出なかった。

悲しい事には慣れたのかもしれない。

 

それとも、感覚が麻痺しているのだろう。

目の前には絶望的なまでに美しい空が広がる。

 

「こんな時でも綺麗なんだな」

 

フッと何かを諦めたような笑みを浮かべて、青年はポツンと立ちすくんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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