では、本編です!!
「クロ君、なんでクロ君はいつも翼出しっぱなしなんですか?」
早朝の新聞の配達時にふと少女が問うた言葉にオレはポカンと口を開けてしまった。
「いや、邪魔でしょ?収めてしまえばいいのに……」
「いや、無理だろ?」
一瞬、こいつは馬鹿なのかと思った。
しかし、よくよく思い出してみれば文が翼を仕舞っている時を何度か見た事があった。
「あやややや、知らなかったんですか。」
呆れた様にこちらを見つめる文に少しイラッとしたけれど、この邪魔な翼をどうにかできるのは耳寄りな情報だった。
何故なら、斬り合いの時にこの大きな翼は邪魔なのだ。
いつも、斬られないように神経を使ってしまっている。
「結構コツがいるんですよね〜そう、シュッって感じです。」
「分かり辛い……」
彼女なりに的確に伝えようとしているのだろうが、余りにも分かり辛い、きっと言葉にするのが難しい感覚なのだろう。
「う〜ん、説明するの難しいんですよね〜普段何気なくやってる事なんで……」
困った様に頭を掻きながら文は言った。
「ッ!!」
頑張って翼を収めようとするけれど、ピクッピクッと翼が動くだけで収納なんてとてもじゃないけど出来なかった。
「力まなくたって良いんです、力を抜いてシュッ、です!!」
「こう?」
シュッと音がした。
なるほど、確かに彼女の言う事は的を射ていると思った。
そして、オレの背中に大きな奇形の翼は収納された。
一体どんな体の構造なのだろうか?
こんな大きな翼が何も無かったかの様に収まったのだ。
「やればできるじゃないですか!!」
パチパチと手を叩いて笑う文をオレは無視した。
「少しは人間っぽいかな……」
ボソッと呟いた声が聞こえたのか、文の笑顔がサッと冷めていくのが分かった。
「嫌……なんですか?」
「違うさ、オレは妖怪なんだぜ、それも人喰いのな?もう二度と食わないけど、殺しはするさ」
遠い目をして言った。
すると文はオレの言葉に衝撃を受けた様に問う。
「食べ……たんですか?」
しまった……
「食ったよ?フフッ、どんな味がしたと思う?」
「嘘でしょ、クロ君がそんな……変な冗談やめて下さいよ!!」
ガシッと服を掴んで文は問いただしてきた。
何故そんな顔をするのだろう?
オレ達は妖怪なんだ、何も不思議な事なんて無いのに。
「糞みたいな味だった……あっ、なんか誤解してるみたいだから言っとくけどオレ、結構殺してるよ?」
「あ、貴方がそんな事……」
「何言ってんの?オレは妖怪なんだ、人間だって殺すさ……」
冷淡に答えた。
「噓つき……」
暗い表情で文は言う。
嘘だって?分かるんでしょう?
今、オレが嘘ついてる顔をしてるかしてないのか。
「嫌な仕事だよ」
苦笑いしてその場を去った。
ポツンと立ってこっちを見ている文が、やけに小さく見えた。