東方風天録   作:九郎

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二天一

何となく、耳を塞いでみた。

 

 

塞ぐだけじゃ不十分だ。

 

隙間から音が入ってくる。

けれど、外の音を遮断すると、ドクッドクッと自分の身体の声が聞こえてくる。

 

自分の身体と対話してるみたいだ。

 

「ああ……」

 

思わず声が出た。

 

これって、オレが剣を振ってる時の感覚と似てるな……

 

だから、どうしたって話だけれど。

 

「久しぶりだな!!バッテン前髪!!」

 

「あっ、チビだ」

 

バッタリと妖夢に出くわした。

 

「チビって言うな!!叩っ斬ってやる!!」

 

妖夢は怒って刀を抜く。

 

「おいおい、里のど真ん中で刃傷沙汰なんて洒落にならないよ?」

 

「だったらブッ叩く!!」

 

妖夢は、刀を収めて木刀を取り出した。

なるほど、道場からの帰りなのだろう、防具を入れる袋を持っている。

 

「うわ〜本当に危険人物だなぁ、不審者情報としてウチの新聞に書かなくちゃ、やったね妖夢ちゃん!!有名人になれるよ!!」

 

戯けて妖夢を見る。

 

「うるさい!!お前だって背中に大剣を背負ってるじゃないか!!お前なんか木刀で充分だ、さっさとその重たそうな大剣を抜けよ」

 

プンプン怒って妖夢は、言った。

 

そんなところが可愛いらしいなぁと少し思う。

 

「これは、使わないよフェアじゃないし、それにこいつは背負う物だから……ん?」

 

妖夢の持っている袋の中に、60センチくらいの木刀が二本はみ出ていた。

 

「また、訳の分からない事を!!」

 

「おれ、これ使うわ、貸してよ」

 

了承を得ずに妖夢の袋から木刀を二本取り出した。

 

「二刀?バカだな〜一刀もロクに扱えない癖に……カッコつけるなよ素人が」

 

ニヤリと妖夢は、笑う。

 

「いいじゃん、この前妖夢ちゃん、オレに二刀を教えてくれなかったんだからさ?自己流でちょっとだけやってみたくって……」

 

少し恥ずかしくなった。

 

そして、構える。

いつもの様にダランと普段どおりに立っているだけだ。

違うところは両手に二本の木刀を持っているという事だけ。

 

「ん?」

 

妖夢は何か違和感を感じた。

構え……なのだろうか?

全くもってなってない。

いや、形がない。

 

しかし、変な感覚をあいつから感じる。

妖夢は、少し困った。

 

そして、この感覚を妖夢は知っている。

包まれるような感覚……

初めてこいつと戦った時と同じだ。

と妖夢は思い、気を引き締めて嫌いな相手に木刀を振り下ろす。

 

数分後……

 

「やっぱりオレは下手くそなんだなぁ」

 

頭に大きなタンコブができた。

 

生兵法は怪我の元とはまさにこの事か……

 

帰ろう。

 

痛い頭をさすりながら家路につく。

 

 

そして、妖夢は……

 

「あいつ……やっぱり私の事ナメてる!!」

 

無傷で顰め面をしていた。

 

そしてスタスタと歩いて弾き飛ばされた木刀を拾う。

 

無傷だったのには理由がある。

 

青年が妖夢に木刀を当てる瞬間だけ手を抜いたからだ。

 

何本取られただろうか?

 

こっちも一本取ったけど。

 

あいつの二刀、バケモノだった。

 

無の構えって、やつか?

 

何も構えてないから何が来るか分からない。

 

きっと、真剣でやってたら殺されてたなぁ。

 

妖夢は、悔しくなり、少しだけ泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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