もうみんな見てないかな?
まぁ、それも仕方がないですけどね。
では、本編です。
あれから……
あの幼子の仕事をこっそり手伝ってやるのが日課になった。
文の機嫌は直ったようで、再び新聞作りの手伝いをやらされている。
まぁ、今日は外へ取材へ行くと嘯いて、サボってるんだけれど……
あの子は、オレに仕事を手伝って貰う度にとても困った顔をする。
そして、いつもニコッと笑う。
感情が欠落しているのだろうか?
いつも怒られ、怒鳴られ……
泣いたって無駄だし、怒ったって火に油を注ぐだけなのだ。
だからこの子は笑う事にしたのだろう。
だって、それが一番被害が少ないのだから……
あの子が笑うのはある種の防衛反応だろう。
そう考えると腸が煮え繰り返りそうになる。
あの男達への憎悪、殺意が止めどなく溢れる。
けれど、それでもこの子にとっては彼らは家族なのだ。
だから、オレが下手に介入する事はできない。
しかし、この子の身体にできた痣を見つめる度に、胸がキュッと締め付けられるような感覚を覚える。
もどかしい……
あの子は誰にも愛されてなどいないのだ……
それに比べてオレは、まだ愛されて生きてきたのだと思う。
少し自分が情けなくなり、オレはこの子を困らせまいと帰路へつく。
「ふぅん、少し答えへ近づいたわね?」
スキマから紫が現れた。
「近づいた?冗談でしょう、遠のいた気がしますよ、結局オレは、傍観者気取ってあの子を救おうとはしていない……」
「それは、あの子の幸せを願ってるからじゃない?あの子とあの子の家族を引き裂く訳にはいかない……そう考えているのでしょう?」
ニヤリと笑って紫は、こちらを見る。
「さぁ?どうなんでしょうか……オレにも分からなくなってきた。」
徐ろにタバコに火を付ける。
どこまで見てんだよ……記者に追っかけ回されるよりもタチが悪いな。
「貴方のしたいようにしなさいな……」
クスッと紫は、笑って消える。
「何がしたかったんだよあの人……」
チッと舌打ちをしてしまった。
あの人の考えてる事が一切分からない。
唐突に現れて意味深な事を言って消えて……いつだってそうだ。
イライラするのでタバコを一本吸ってから家へ帰る事にした。
スキマの中にて。
「天狗らしくなってきたわねクロ君……実に天狗らしいわ……
天狗っていうのは、常に人の上に立ち人を弄ぶ、それは貴方には当てはまらないけれど……でも、決して他者を心から信頼しない、何にも興味を示さず自己を高めるだけ……そこは貴方そのものじゃない。
ふふっ、でも、その反面何かの拍子に一つものに固執したとき、それしか見えなくなって深い深い愛情と母性、父性を注ぐでしょうね。
ねぇ、クロ……貴方が誰かを愛した時、その反動は限りなく大きく重い……貴方は、愛という言葉の意味を知ろうとしているけれど……知ってしまったら、きっと貴方は貴方でいられない……」
紫は、悲しそうな顔をして溜息を吐いた。