東方風天録   作:九郎

134 / 213
更新です。

もうみんな見てないかな?

まぁ、それも仕方がないですけどね。


では、本編です。


天狗のこと

あれから……

 

あの幼子の仕事をこっそり手伝ってやるのが日課になった。

 

文の機嫌は直ったようで、再び新聞作りの手伝いをやらされている。

 

まぁ、今日は外へ取材へ行くと嘯いて、サボってるんだけれど……

 

あの子は、オレに仕事を手伝って貰う度にとても困った顔をする。

 

そして、いつもニコッと笑う。

 

感情が欠落しているのだろうか?

 

いつも怒られ、怒鳴られ……

 

泣いたって無駄だし、怒ったって火に油を注ぐだけなのだ。

 

 

だからこの子は笑う事にしたのだろう。

 

だって、それが一番被害が少ないのだから……

 

あの子が笑うのはある種の防衛反応だろう。

 

そう考えると腸が煮え繰り返りそうになる。

 

あの男達への憎悪、殺意が止めどなく溢れる。

 

けれど、それでもこの子にとっては彼らは家族なのだ。

 

だから、オレが下手に介入する事はできない。

 

しかし、この子の身体にできた痣を見つめる度に、胸がキュッと締め付けられるような感覚を覚える。

 

もどかしい……

 

あの子は誰にも愛されてなどいないのだ……

 

それに比べてオレは、まだ愛されて生きてきたのだと思う。

 

少し自分が情けなくなり、オレはこの子を困らせまいと帰路へつく。

 

 

「ふぅん、少し答えへ近づいたわね?」

 

スキマから紫が現れた。

 

「近づいた?冗談でしょう、遠のいた気がしますよ、結局オレは、傍観者気取ってあの子を救おうとはしていない……」

 

 

「それは、あの子の幸せを願ってるからじゃない?あの子とあの子の家族を引き裂く訳にはいかない……そう考えているのでしょう?」

 

ニヤリと笑って紫は、こちらを見る。

 

「さぁ?どうなんでしょうか……オレにも分からなくなってきた。」

 

徐ろにタバコに火を付ける。

 

どこまで見てんだよ……記者に追っかけ回されるよりもタチが悪いな。

 

「貴方のしたいようにしなさいな……」

 

クスッと紫は、笑って消える。

 

「何がしたかったんだよあの人……」

 

チッと舌打ちをしてしまった。

あの人の考えてる事が一切分からない。

 

唐突に現れて意味深な事を言って消えて……いつだってそうだ。

 

イライラするのでタバコを一本吸ってから家へ帰る事にした。

 

スキマの中にて。

 

「天狗らしくなってきたわねクロ君……実に天狗らしいわ……

天狗っていうのは、常に人の上に立ち人を弄ぶ、それは貴方には当てはまらないけれど……でも、決して他者を心から信頼しない、何にも興味を示さず自己を高めるだけ……そこは貴方そのものじゃない。

ふふっ、でも、その反面何かの拍子に一つものに固執したとき、それしか見えなくなって深い深い愛情と母性、父性を注ぐでしょうね。

ねぇ、クロ……貴方が誰かを愛した時、その反動は限りなく大きく重い……貴方は、愛という言葉の意味を知ろうとしているけれど……知ってしまったら、きっと貴方は貴方でいられない……」

 

紫は、悲しそうな顔をして溜息を吐いた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。