クロが無双したら天狗が弱いのか、クロのレベルが高過ぎるのかってなっちゃいますもんね。
正直なところ、クどちらも否と言いたいです。
でほ、本編です。
射命丸宅にて
「う〜……」
青年が居なくなって不安になったのか、幼子は、キョロキョロと辺りを見回した。
「クロ君が居ないとやっぱり不安ですか?君、名前は何ていうの?」
首を傾げて少女は幼子を見る。
すると、幼子は、ビクッとして側に置いてあった雑巾でゴシゴシと床を磨いた。
「あの〜名前は……」
幼子は、オドオドとしながら床を磨く。
「この子……耳が……」
少女は幼子が聾唖なのを理解した。
そして、遠い目をして思う。
さしずめ、捨てられてた人間の子どもを見捨てられなくて拾ってきたんだと思ってたけれど、なるほど、クロ君が放っておけない訳だ……
身体に無数の痣……虐待されてたんでしょう。
クロ君、貴方はまだ天狗になりきれてない。
全くもって天狗になれてない。
出来損ないの天狗だ……
けれど、出来損ないだから私は貴方を好きなんだろうな……
捨てなくたっていいですよ、無理して妖怪になりきろうとしなくたっていい……
少女はフゥと一息吐いて。
幼子をギュッと抱きしめた。
「私が、君にしてあげられる事は、そんなに無いと思います。天狗の私には人間の子どもなんてとてもじゃないけれど……でも、君の家族にはなってあげられるんじゃないかと思うんです。それが、例え偽物だったとしても……」
ポンポンと少女は幼子の背中を叩いた。
すると、幼子は先程までの緊張が一気に解け、目がトロンとしてきて、スヤスヤと眠ってしまった。
「馬鹿クロ……こんな重いもの1人で背負う気ですか?背負えっこない!!こんなに澄んだ目をして、こんなにもか弱い存在を……貴方1人には背負わせたりなんかしない……」
キッと目を見開き、少女は幼子を布団に寝かせた後に
大天狗の元まで飛んだ。
少女飛行中……
「馬鹿クロ……知らないでしょうけど貴方が天狗の里に入った時だって大騒ぎになったのよ!?たとえ子どもと言えどもあの子は、人間……騒ぎになる前に、大天狗様と話をつけなければ……さて、どうしたものか……」
爪を噛みながら飛行する少女の悩みは一瞬で消し飛ぶ事となった。
大天狗の屋敷にて……
「あの、問題児からの伝言じゃ『何にも心配いらないから』だそうだ……射命丸よ、お前が儂に言いたい事はわかっておる、案ずるな許可してやるさ」
溜息を吐きながら大天狗は言った。
「えっ!?えっ!?えええええええ!!!!なんでですか!?」
少女は驚愕して大天狗に詰め寄った。
「儂が奴との賭けに負けたのと、奴がそれなりの地位に着いたから周りを黙らせることができるようになったから……だな」
大きな溜息を吐きながら大天狗は言う。
未だに青年がやったことが信じられないからだ。
そして続けた。
「我が組織の武闘派層の『決闘』というものを知っておるか?知っておるだろうな……あやつ、自分よりもかなり位の上の天狗に決闘挑んで勝ちおったわ、それも何人もの相手にな……ちょうど射命丸よ……地位で言えばお前と同等くらいか」
「…………」
少女は放心状態だった。
「最悪……」
ボソッと少女は呟いた。
「だろうな、『あの男』が現れるまであって無いような古い古いルールだったのだから……クロのやつ、どこでそれを知ったかは知らんが愚か者だ、位を奪われた天狗達がおいそれと引き下がる訳が無いであろうに」
青年の愚行を思い出して、大天狗は呆れ果てたように頭を抱える。
これからの青年のやりそうな事を考えると胃が痛くなった。
「…………」
ギュッと少女は拳を握り締めて屋敷を後にしようとした。
そして、大天狗は、少女に向かって冷淡に言い放つ。
「無駄だぞ?武闘派ではないお前が決闘には介入できん、もう遅いのだ……奴は全てを敵に回した。」
「ごめんなさい、大天狗様……黙っててもらえます?」
低い声で少女は言う。
それを聞いて大天狗は、ゾッとする。
「久しぶりにキレましたよ……あの馬鹿、ブン殴らないと分からないみたいですね」
少女は風と共に消えた。
「やはり、女と言うものは恐ろしい物だ……」
額に汗を垂らしながら大天狗は、呟いた。