東方風天録   作:九郎

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久しぶりに書きました。


結構考えたんですけど、中々良い案が思い浮かばなくて……


では、本編です。


な ま え

「あ〜い〜う〜え〜お〜」

青年は大きく口を開けて言う。

 

「キャッキッ」

 

幼子は青年の様子を見て腹を抱えて笑っている。

 

「何やってるんですか?」

 

呆れた様に少女は青年に問うた。

 

2、3秒ほど経って、青年は少女と目を合わせずに答える。

 

「聴こえなくとも、少しくらいは話せる様になったら素敵だなって……」

 

「まともに私とも話そうとしない癖に、そんな事思うんですね〜」

 

ヘッと少女は笑った。

 

「…………それでもだよ」

 

青年は、遠い目をして答える。

 

「まぁ、嫌いじゃないですけど……」

 

少女は言った。

 

嫌いじゃないという言葉が何に対してのものなのか、どういった趣旨の言葉なのか、それは少女本人にしか分からない。

 

「オレの、名前を言ってくれるかな?」

 

青年は、幼子に文字を見せた。

 

すると、幼子はニコ〜とわらって

 

「う……ろ……う〜お、うろ!!」

 

と答えた。

 

「惜しいな……クロだよ、まぁ、か行の発音は難しいらしいから及第点かな」

 

フフッと青年は笑って、ワシワシと幼子の頭を撫でる。

 

 

「じゃあ、私の名前はなんですか〜?」

 

ニコッと少女は笑って幼子を見る。

 

「あや!!」

 

幼子は即答した。

 

少女はニヤァと笑って青年は見る。

 

これがドヤ顔という奴か、ムカつく。

 

と、青年は思った。

 

そして、幼子はテテテと少女の方に駆け寄る。

 

「えらいえらい!!」

 

少女は膝を折ってニコニコしながら幼子の頭を撫でた。

 

思った以上に文に懐いてくれてるんだなぁ…… 良かった。

 

と青年は、思ってフフッと微笑んだ。

 

「私……立派な母親になれますかね?」

 

唐突に少女は青年に問うた。

 

遠い目をする少女に、青年はニッコリと笑って答える。

 

「なれるさ……」

 

少女なりに色々と考えている事を青年は悟った。

 

だから、青年は少し嬉しかった。

 

「クロは、立派な父親になるつもりなんでしょう?だから、この子の為に、そして、私の為に、決闘した……そう思ったら、クロの気持ちも、少しくらい分かる気がします。」

 

 

「オレは父親になんてなれないさ……お兄さんだ……」

 

自嘲気味に青年は笑った。

 

「クロは、いつもそんなネガティヴな発言をしますね、ちょっとだけ理由が分かった気がします、自信がないんでしょう?」

 

「……」

青年は、胸に尖ったものを突き付けられたような感覚を覚えた。

 

「どうだかね……」

 

「きっと失敗してばっかりだから、自信を失っちゃったんですね、でもクロ、貴方は1人じゃないんですよ?私達は『家族』をやっているんですその事を……」

 

「お前さぁ?」.

 

少女の言葉の途中で青年が口を開いた。

 

ん?と少女は首を傾げて青年を見る。

 

「オレの名前呼ぶとき君付けじゃなくなったの何で?」

 

 

「えっ?」

 

「いや、この前までオレのことクロ君クロ君って何度も呼んでた癖に……」

 

 

「べっ、別にどう呼んだって私の自由でしょうが!!貴方の名前付けたのだって私ですよ!?」

 

顔を真っ赤にして少女は青年に抗議した。

 

「別にど〜でも良いんだけどさ」

 

「じゃあ聞くな!!」

 

少女はムスッとしていた。

 

そして暫く無言の状態が続き、そして思い出した様に口を開いた。

 

「そういえば、この子の名前、私知らないですよ?」

 

「オレも知らんな」

 

「はぁ!?どんだけ他人に無関心なんですかクロは!?名前くらい呼んであげなさいよ!?」

 

青年の回答に驚いて少女は青年を睨む

 

それを青年は困り顔で見つめていた。

 

「この子は何も与えられちゃいないんだ、だから、オレも名前くらいは与えたいと思ってたんだけど……その……自信無くって……」

 

 

「ほぉ〜だからずっと名前で呼ばなかった訳だ……」

 

少女は呆れ返った様子で青年を見ていた。

 

 

「だからさ?文に……」

 

「ダメです、クロがこの子に与えるべきです」

少女は青年の言葉を切り捨てる様に言った。

 

 

「なんでさ?オレにそんな大層な事……」

 

 

「この子、クロが救い出したんでしょう?その責任もありますし、それに、名前ってのは産まれて初めてのプレゼントです、だから、この子の事をいつだって一番に考えてるクロが与えるべきだと思います」

 

真剣な表情で少女は青年を見る、青年は暫く困惑していたが、幼子を見てフッと真剣な表情になる。

 

「いおり……伊織だ……」

 

「伊織?」

少女は首を傾げる。

 

「うん、実はかなり前から考えてたんだよ、この名前……愛される人の名前らしいぜ?」

 

 

「良い名前ですね……」

 

クスッと少女は青年を見て微笑む

 

「お前の名前は い お り だよ、分かるかな?」

 

青年は、幼子を見る。

 

幼子はニッコリと笑って青年を見ていた。

 

そして、青年は、伊織と名付けられた幼子をギュッと抱き寄せる。

 

「伊織、オレはお前を 愛してるぞ 」

 

そうして、青年は、愛する者を得た。

 

いや、本当はもっと前から得ている。

 

 

得ている事にさえ全く気付かない。

 

大切な物ほど、見え辛いものなのだ。


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