果たしてクロはどうなんでしょうか?
では、本編です。
フォン……フォン……
大剣をひたすら振った。
「及第点かな……」
ケッ、と自分の剣筋に嫌気がさして呟いた。
折られた手足はもう何も問題ない程に回復したのだ。
だから、リハビリだ。
「好きなんですね、剣を振るのが」
気がつくと後ろに文が立っていた。
ゲッと声が出そうになる。
きっと怒られると思った。
「別に好きじゃないんだよ」
素っ気なく答えた。
「ふーん、闘うの好きなんだと思ってましたけど?」
眉を顰めて文は言う。
「好き……なんだろうか?変な高揚感は感じるよ、でも、それはきっと戦闘特化の本能みたいなもので、オレ自身は本当はそんなに好きじゃない」
「じゃあ、なんで貴方はそうやって剣を振り続けるんですか?」
「きっと、不安なんだと思う、オレ、そんなに強くないから……」
「そうですか……」
クスッと文は笑った。
何を考えてるのか分からなかったけれど、優しく微笑んでいたのでそんなに怖くなかった。
「何か用事?新聞作り、手伝えっての?」
大剣を下ろして文を見た。
すると文は、フルフルと首を横に振る。
「ちょっと私と来て下さい」
そう言うなり文はオレの手を取って飛び立った。
「だから、何の用事なの?」
怪訝な顔をして問うたが、文は
「あ〜も〜、うっさいなぁ、黙って付いてきて下さい!!剣ばっかり振って思い詰め過ぎなんですよ貴方は!!」
と言って答えてくれなかった。
そして文に手を取られるがままに文の目的地へ到着した。
そこには真っ赤に染まった紅葉が辺りを染めて、そして落葉した葉達が川を紅く染めていた。
あまりの美しさにポカンと口を開けてしまう。
「ふふっ、どうです?」
ニコッと文はこちらを振り返った。
「綺麗だ……」
自然と言葉が出ていた。
「良かった、長年この山に居ますけど、この景色だけは見飽きないんですよ」
「もう、秋だったんだな……」
気づかなかった、季節がこんなにも移り変わってる事なんて……
「季節が変わった事さえ気付かない程に、クロは根詰めてたって事ですよ」
「かも知れないな」
自嘲気味に答えた。
「1人で何も背負いこまなくて良いんです、何度も言ってるでしょ?私達は、家族なんですから……偽物でも……ね?」
ニッと文は笑う。
ああ、オレはこの子のこう言う所に惚れたんだと思う。
堪らなく愛しいと思った。
「クロってキスとかした事あります?」
ニヤッと文は笑ってこちらを見る。
「ハッ、ハァ!?行きなり何を言い出すんだよ!!」
文の爆弾発言にオレは困惑した。
「あははは、ホラッ、クロは何でも1人で背負い込むでしょう?そしてそれをズルズルと引き摺ってる……まるで呪いみたいです。」
「だから?」
「私のキスでその呪い、解けないかなぁ〜って思っただけですよ、乙女のキスって奴です!!」
「バッ、バカじゃないの?」
困惑して熱くなる頭をフル回転させてなんとか否定の言葉を紡ぎ出す。
頭から湯気が出そうだった。
「割と本気ですよ?」
ガシッと文はオレの肩を掴んだ。
振り解こうと思ったけれど想像以上に強く掴まれていて逃げる事ができない。
馬鹿力である。
そして、文は目を瞑りソッと唇を近づけた。
「ちょっ、おま……」
パニックだった。
何とか逃げられないかと考えたが、拒絶したくない自分もいた。
だから、そのまま受け入れてしまおうと思った。
そして、両者の唇が近づいたその時。
「よぉ、クソ鴉!!元気か!?」
黒狼のトージが現れる。
「ゲッ!!」
オレと文の声が重なった。
そして、バッとお互い離れる。
「ん?お前ら何かしてたのか?」
トージは、首を傾げて言う。
「別に、景色見てただけだよ……クソ犬公、こいつに無理矢理連れてこられたんだ」
あまりに恥ずかしかったので、意地を張って答えた。
「無理矢理って何よ……」
俯いてボソッと文は呟いた。
「犬じゃねぇ!!狼だ!!」
犬公と言ったのが癪に障ったのかトージのアホは、突っ掛かってくる。
何故だろうか?
凄くイライラして一発ぶん殴ろうかと思う自分がいた。
「私、用事あるんで帰ります」
機械の様に冷淡に文はこちらに背を向けて飛び立った。
ギュッと握りしめていた手が震えていて、やけに背中が小さく見えた。
だから、意地を張った事を後悔した。
「何の用だよ?」
刺す様な目付きでオレはトージを睨む。
「フッ、そんな顔できるんなら健在だな、腕と足を折ったって聞いたんでな、情け無い面を拝むために探してたワケよ」
不敵な笑みでトージは、こちらを見る。
ムカつく……いつも以上にムカついた。
「残念だったな何なら今から、そのムカつく面を吹っ飛ばしてやっても良いんだぞ?」
「やってみろよ……」
トージは、不敵な笑みを崩さずこちらを見る。
そして、辺りが張り詰めた空気に包まれた。
「ん?お前、手に何持ってんの?」
トージが後手で隠す様に持っている物が気になり言った。
暗器か?と思ったが、隠し切れていない点を見るとあまりに迂闊過ぎるので、それは無いと判断した。
「ああ、これか?牛乳と林檎だ」
ギクッとトージは、冷汗をかいた。
「あ?なんでそんなもん持ってんだよ?お見舞いでもすんの?」
「ああ……そんなところかな?」
ダラダラと冷汗をトージはかく。
「ふーん、林檎と牛乳ってそんなに合わないと思うんだけどなぁ……」
「いや、そいつ骨折したらしくてさ……牛乳って骨に良いらしいじゃねぇか、ホラッ、カドミウムってやつ?」
「いや、カドミウムじゃなくてカルシウムな?」
「そう、それ!!」
ビシッとトージは、人差し指をこちらに刺す。
本当にコイツは、アホだと思った。
「バカかよ、お前、オレなんかに構ってないで行けよ!!お前みたいなアホから貰うんであっても、お見舞いって相手からしたら凄く嬉しいもんなんだぜ?」
「あっ、ああ……んじゃ行くぜ」
顔を真っ赤にしてトージは、背中向けて止まった。
「早く行けよ?」
モタモタするトージに首を傾げて言う。
すると、トージはバッとこちらを振り返って
「忘れんなよ、お前をぶっ倒すのはオレなんだ、この0点やろうが!!つまらん所でくたばってんじゃねぇぞ!!」
と言い残し林檎と牛乳を置いて飛び立った。
「バカだろコイツ……忘れて行きやがった……とどけるか?ん?ああ、成る程……」
てっきり、オレはトージかわ忘れ物をしたんだと思った。
けれど、それがオレへ宛てた物だと気付いた。
クククとおかしくて笑ってしまったけれど、オレも笑える立場じゃない事に気づく。
「オレも、お前も……素直になれないもんだな……ありがと」
1人で静かに呟いた。