東方風天録   作:九郎

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平穏な所が続きます。

ちょっとだけ休憩入れてあげたくてですね。



では、本編です。


平穏

「うろ〜!!」

 

ピョンピョンと飛び跳ねて伊織がオレを呼ぶ

 

「クロ君、速くしないと置いてきますよ〜」

 

文も手を振りながら呼んでいた。

 

「待ってくれよ〜」

 

ったく……怪我人に対して心遣いって物が全くと言って良いほどないぞ……

 

やはり、人間につけられた傷の治りは遅かった。

 

傷が痛むたびに自分の弱点を思い知らされる。

 

大切だから……それが仇になった。

 

オレ達は今、妖怪の山の頂上へと向かっている。

 

文が唐突に

 

「ピクニックに行きましょう!!」

 

と宣うたからだ。

 

正直、馬鹿なのかこいつは……と思った。

 

けれど、文が言うには

「肩肘張って、ギスギスするくらいなら少しくらい息抜きしたってバチは当たりません!!」

 

だそうだ……

 

確かにそうかも知れない。

 

色々と思い詰めすぎて頭が回らないんだ……

 

辛い……

 

でも、伊織の楽しそうな笑顔を見るとそんな事は吹っ飛んでしまう。

 

伊織の笑顔がオレを元気にしてくれる

 

だから……いいかな?って思ってる。

 

「とうちゃ〜く!!さぁ、良い景色でしょう?クロ君、お昼食べましょう?」

 

にっこりと文は笑う。

 

伊織は嬉しそうにこちらを見ていた。

 

因みに昼食は文が早起きして作ってくれた。

 

新聞の記事だって書かないといけないのに、それなのに早起きして作ってくれた……

 

ありがとう……

 

「こらこら〜伊織、ご飯粒がほっぺについてますよ〜」

 

「んう?」

 

おむすびを夢中になって食べる伊織

伊織のほっぺについているご飯粒を取ってあげる文

 

親子に見えた。

 

なんだか、幸せそうだった。

 

文は一丁前に母親をやっている。

 

オレは……父親を、やれてるのかな?

 

「こらっ!!クロ君、そんな顔しないの!!」

 

ペシッと頭を叩かれた。

 

きっと暗い顔をしていたからだろう。

 

「ごめん、そんな顔してた?オレ、今、すっごく幸せだぜ?」

 

ニッと笑った。

 

「…………」

 

文はそれをジッと見つめて

フゥとため息に近い息を吐く。

 

「伊織〜遊ぼ〜」

 

その場に居たくなかったので伊織と遊ぶことにした。

 

キャッキャと伊織は、笑っている。

 

幸せだ……

 

そう思った。

 

「ッ!?」

 

刺すような視線を感じた。

 

「伊織……ちょっと待っててな?」

伊織を巻き込まぬようにその場を離れる。

 

 

「クロ君……どこ行くんです?」

声を低くして文は問うた。

 

「ん?小便、なんだよ、連れションでもしたいわけ?」

 

ヘッと笑って言う。

 

「はっ、はぁ!?何言ってんですかこの変態!!さっさと済ましてきなさい!!」

文は真っ赤になって言う。

 

フフッと笑ってしまった。

 

そして……視線のした方向へ飛ぶ。

 

「来たか……今度こそ貴様を……」

 

前回の天狗達が刀を抜いて待ち構えていた。

 

「邪魔すんなよ……」

 

チッと舌打ちして大剣を抜く

そして、自分の周りに円を描く。

 

「オレからは仕掛けません、もう自分から闘うのは嫌だ……だから……この円の中に入った者を……」

 

数分後……

 

辺りには倒れてピクピクと動く天狗達がいた。

 

「速く戻らなきゃ……」

 

急いで伊織達の元へと飛び立った。

 

その一部始終を見ていた男が一人……

 

「ほぅ……自分から闘うのは嫌……か、義経……いや、クロよお、誘ってるように見えるぞ?お前は自分の本性からは逃れられんようじゃのう……」

 

クククと無二斎は、笑った。

 

そして……

 

「何してたんですか?」

ムッとした表情で文が睨んだ。

 

「大便もついでに……」

ヘラヘラと笑って答える。

 

「汚いなぁ!!ちゃんと手を洗ったんですか!?もぅ、クロ君のバカ!!」

 

文はまた真っ赤になって怒る。

 

そういえば、呼び捨てから君付けに戻ってる……

 

何故だろうか?

 

いや、思い当たる節はあるさ……

 

文がオレに紅葉を見せてくれた時、トージに邪魔された時にオレは文の事を考えずに強がった。

 

きっと傷付いたんだろうな……

 

青年は遠くを見つめてため息をついた。

 


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