東方風天録   作:九郎

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そんなに話が進まないですねぇ。

構成が難しいし、何か伏線めいたこと書いたら説明求められるし

考察して欲しい所も沢山あるんですけどね〜
無理かなぁ〜

では、本編です。


存在と無

イライラする。

 

フォン……フォン……と剣を振る音。

 

耳障りだ。

 

たまに一拍子遅れて音がする時がある。

 

音を置き去りにしてしまったらしい。

 

置き去り……か……

 

色んなものを置き去りにして。

 

寂しいもんだな……

 

オレが望んだ事だけれども。

 

空を見上げると燦々と太陽が輝いた秋晴れだった。

 

「天狗の修行場は、本日も晴天なり……ってね」

 

ヘヘッと笑って1人で呟いた。

 

天狗の修行場は、あまり人が来ない。

 

使用には上役の許可が必要だからだ。

 

オレの場合は隊長(お飾りだけど……)だから簡単に使う事ができる。

 

やる事と言ったらただ剣を振るだけなのだが……

 

それだけなら、ここじゃなくてもできる。

 

けれど、ここを選んだ理由としては文に会う事が絶対にないから。

 

なぜなら、広報や諜報部系所属の天狗に修行場の使用許可は滅多に出ない。

 

だから、きっとオレはずっとここに閉篭もるだろう。

 

その方が楽だ。

 

「ッ!?」

 

誰かの声が聞こえてあたりを見回した。

 

されども姿は見えず……

 

こんな感覚、前にもあった。

 

たしか……こいしちゃん

 

だったかな?

 

でも、なんか違う。

 

「…………」

 

一呼吸置いてもう一度辺りを見渡した。

 

「ふぅん、気づけるんだ……」

 

目の前に黒髪の老婆が居た。

 

天狗の装束を身につけて居たので同族なのは分かったけれど、得体が知れない。

 

「あんた何者だ?」

 

キッと睨んで言った。

 

誰も居ない筈の修行場に、それも自分の目の前に人が現れたのだ、反射的に身構えてしまった。

 

「幽霊……かな……」

 

老婆は笑ってそう答えた。

 

老けた顔に似合わず、少女の様に若々しい声で。

「幽霊……か、オレにもそれに似た知り合いが居るんだけど、あんたはそれとは違うな」

 

 

「ん〜、じゃあ存在しないもの……かな?」

 

ニィと老婆は明るく笑う。

 

その笑みは太陽みたいに眩しく感じた。

 

 

 

「変なバァさんだなぁ……」

 

彼女の笑みのせいで警戒心が解けてしまい無意識に頰緩む。

なんか、明るくて気さくな人だなぁと思って、この人は敵じゃないと理解した。

 

「おねぇさんと呼ぼうか?」

笑って老婆はオレの喉元に木の小枝を突き付ける。

 

笑っているけど、少し声が低かった。

 

「ッ!?」

 

驚いた。

気付かなかった、反応できなかった……

あの人が剣を持ってたら死んでたかもな……

けれど、ゾッとしなかった。

 

殺気が無かったからだろうか?

それも要因の一つだと思う。

 

でも、この人と対面してると……

 

なんだか、優しく包まれているような感覚を覚える。

 

なんだろう?これ……

 

「ごめんなさい……」

 

「分かればよろしい」

ペコリと頭を下げて謝罪すると、ニカッとまた老婆は笑った。

 

「君、名前なんて言うの?」

 

「クロ……」

 

「なんだか猫みたいな名前だね」

クスッと老婆は笑う。

少しムッとした。

 

きっとこのやり取り、初対面の相手にずっとされ続けるんだろうなぁ

溜息が出そうになる。

 

「まぁ、猫や犬に名前を付けるようなノリで付けられた名前ですから」

 

自嘲気味に答えた。

 

「じゃあ、私が名前を付けてあげようか?」

 

「結構です」

 

即答した。

 

「ん?なんで?」

目をパチクリさせて老婆は頭に疑問符を浮かべる。

 

本当にこの人……老婆なのか?

老人と話してる感じが全くしないぞ……

 

怪訝に思いながらも、まぁ、そんな人も居るんだろうなと自分を納得させた。

 

「結構、良い名前思いついたんだけど?」

 

「存外に気に入ってるんです……この名前……」

 

残念そうにこちらを見る老婆に、微笑んで答えた。

 

それを見た老婆は、小さく。

 

「なるほどねぇ……大切な人に付けてもらった名前だからなんだね」

 

と呟いた。

 

「そうですね、大切な人です……あの娘は……本当に……」

 

「ふふっ、仲良くやりなよ……」

老婆は笑って言った。

さりげなく今のオレの状態を咎められているんじゃないかとドキッとしたけれど、この人の無垢な笑みを見ると気の所為だと言うことが分かった。

 

「そろそろここから去ろうかな……じゃあねク〜ちゃん」

 

ヒラヒラと手を振って老婆は背を向ける。

 

「ク〜ちゃん?」

 

「うん、クロだからク〜ちゃん……」

 

ニカッと老婆は振り返り、笑って答えた。

ニックネーム……か……

 

なんか変な感じ……

 

「また……会えますか?」

 

不意に口が動いていた。

 

「さぁ?私は何処にでも居るし何処にも居ないからね〜ただ、私はまた会いたいかな?君、私の事を認知できるみたいだし……それに、君はあの人に似てるから」

 

老婆は遠い目をして答えてフッと消えた。

 

何処を見渡しても老婆の姿が無いから、オレは幻でも見たんだろうかと思った。

 

試しに頬を抓ると痛みを感じたので、やはり幻では無いらしい。

 

それにしてもあの人……

 

本当に眩しい笑顔を見せるんだな……

 

今までのモヤモヤしたような気持ちが晴れて、少し気分が良い。

 

明日は何処かへ行こうかな……

 

 

 

 

 


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