東方風天録   作:九郎

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結構長くなってしまいました……

色々考えたんですけど、かなりクロが病的になってきましたね

そしてどんどん暗い話になってきた。

やっとこさ本領発揮できるんじゃないかとワクワクしてます。

では、本編です。


救われない話

重い……

 

背中の大剣が重い……

 

辛い……

寂しい……

苦しい……

誰か助けてくれ……

 

そんな言葉がオレに言えたなら、何か変わってたのかな?

 

楽に……なったのかな?

 

「そりゃねーわ」

 

ヘッと自嘲気味な笑みを浮かべていた。

 

大剣を振るのに飽きて、再びフラフラと出掛けた。

 

気づいたら里の上空へ居た。

 

不味いな、早く離れなくちゃ……

 

そう言えば、前に広報系の天狗達の過去の新聞を読み漁った時

 

伊織の家の事が書いてあった。

 

あの家、結構な富豪の家だ。

 

元々医者の一族らしく、里の人間達には無くてはならない存在らしい。

 

驚いた事に外科の手術ができる様で

 

天狗達の新聞によると、盲腸の手術や、癌の摘出、更には心臓の手術まで彼らはできるらしい。

 

しかし、彼らはかなりの守銭奴でそれらの手術を受けるには法外な値段の料金が掛かる様だ。

 

まぁ、命に比べたら安い物だが……

 

「ブラックジャックかよ……」

 

チイッと舌打ちして呟いた。

 

アイツらがオレの好きな漫画の主人公と同じ事をしている様なので少し気分が悪い。

 

 

それに、どうやって撮ったかは知らないが、手術風景を撮った写真にメスや、心音測定器の様な物が写っていて、元いた世界でも見覚えのある専門的な物がチラホラとある。

 

この世界に麻酔はあるのだろうか?

 

きっとあるのだろうけれど、天狗達の新聞によると伊織の家の長男が腕の立つ医者で何やら能力を使って手術をしたと書いてあった。

 

詳しくは分からない。

 

気になって調べることもできないし……

 

でも、一つ分かった事はアイツらは里の人間に必要とされているって事だ。

 

複雑な気持ちだ。

 

アイツら、今すぐにでも殺しに行きたい。

 

でも、殺したら里の人間達……困るんだろうな

 

色んな人を助ける仕事なのに……金だってたくさんあるのに……

 

何故伊織を愛してやらないのか……

 

伊織より金の方が大事らしい。

 

「はぁ……」

 

溜息が出た。

 

 

アイツらは金の亡者なのだ。

足りないらしい。

もっとお金が欲しいらしい。

稼いでも稼いでも足りないらしい。

満足できないらしい。

 

人間の欲は恐ろしいな

 

たしかにお金があれば幸せだとは思う。

 

でも、お金があってそれを使うのは手段であって目的じゃあないのに……

 

アイツらは、一体何が望みなんだろう?

 

死んだらお金なんて無くなるのに……

 

てか、アイツらお金を何に使ってるんだ?

 

何かを……買っている?

それも守銭奴になる程の高額な何かを?

 

いや、考え過ぎか……

 

「ん?」

 

ビュウと風が頬を撫でた。

 

あの子の気配がして、ふと目をやると目の前に文が現れる。

 

「…………」

 

キッと文は無言で睨む様にこちらを見てきた。

 

目を合わせられない。

 

「無様ですね……」

 

文が口を開いた。

 

「そうだね、ごめん全部上手くいかなかった」

 

目を合わせずに返した。

 

ギリッと歯を食いしばる音が聞こえた気がした。

 

いやな汗が手の平を濡らす。

 

「悪かったって思ってるよ、文だって伊織を守りたかったんでしょう?そりゃそうだ……文だって伊織の母親をしてくれてたんだからね」

 

「…………」

文はこちらを睨みつけて動かない。

 

「……」

 

オレは、これ以上も何も言えなかった。

 

「私達……家族だったんじゃないんですか?」

 

低い声で文が口を開いた。

 

「偽物だけどね……」

すぐに返した。

 

「偽物なんかじゃない!!!」

ビクッとする程大きな声で文は言った。

ギュッと拳を握り締めてキッとこちらを見ている。

 

 

「偽物だよ」

 

「違う!!!」

 

「偽物だってば、オレは父親になるには幼過ぎたんだ……未熟過ぎたんだよ……だからより一層伊織を不幸にした」

 

「黙りなさい!!」

 

「楽しかったよ?文とおままごとできてさ……」

 

「黙れ!!!!」

 

ガッと胸ぐらを掴まれた。

 

ギリギリと文が歯を食いしばる音が聞こえる。

 

なんでだろ?

めちゃくちゃ怒られてるのに、可笑しくて可笑しくてたまらない。

 

「ククク……フフッ、アハハハハ」

 

「何笑ってんのよ!!」

 

キッと文がオレを睨む。

 

「思い出し笑いだよ、ホラッ前にオレが哨戒の仕事から帰ってきた時にさ?文が、オレにおかえりなさいって言ってくれた事があったじゃん?それ聞いてオレ……家族やってる気になってた……家族の為に働いて、稼いで……家族サービスして、本当に……何処かの幸せな家庭を築いてる気になってて……何を引き換えにしても守り抜かなきゃって思ってたんだ……」

 

 

「………………」

 

 

「可笑しいよホント……」

 

「笑うフリはやめなさいよ!!本当は悲しくて悲しくて今にも泣き出しそうな癖に!!!強がるな!!貴方は本当は弱い人だ!!自分が誰かを支えてる気になってるんでしょうけど、貴方は誰かに支えられてないと立っていられない!!もう限界なんでしょう!?辛いって言ってよ!!ねぇ!!助けてって一言で良いから言って!!!」

 

 

ドスッと胸の辺りにナイフを突き刺された様な感覚を覚えた。

 

ああ……なるほど……

自分でさえ自分が弱い事に気付いてなかったんだな……

 

助けてって……言ったら……

文にオレを支えて欲しいって言ったら。

 

オレは救われるのかな?

 

この潰されそうな程の大剣の重さからも解放されるのだろうか?

 

文……助けて欲しい。

 

オレは君の事が好きだから……だからオレは救われると思う。

 

でも……

 

 

「無理だよ……」

 

だってオレは救われたいんじゃないから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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