東方風天録   作:九郎

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久しぶりに書きました。
構想練るのが難しくてあまり自信が無いですが、ご容赦のほどよろしくお願いします。


執着

 

 

「…………」

 

あれから、どれくらい時間が経っただろう?

 

文は何処かへ飛んでった。

 

もうオレに何を言ったって無意味だと言うことを理解してくれたのだろうか?

 

文の顔……

 

怒ってもないし、悲しんでもいなかった。

 

ただ、小さく

 

「はぁ……」

 

とため息を吐いていたのを覚えている。

 

行くところがない。

 

だから、地面に降りてフラフラと歩いた。

 

ふと地面を見ると

 

ワラワラと黒い塊が蠢いているのが分かった。

 

よく見てみると、そこには緑色のイモムシが大量の蟻に食われていた。

 

イモムシは、バタバタと動く。

 

しかしながら、体にくっついて噛み付いている蟻達は離れるどころか更に数を増してゆく。

 

気色悪い……

 

イモムシは尚もバタバタと暴れる。

 

何故暴れるのだろうか?

 

絶対に助かる訳ないのに。

 

それに、イモムシって痛覚がないんだ。

 

さほど苦しくもないだろう?

 

なら、諦めて食われれば楽になるのに……

 

なのに、イモムシはずっともがいている。

 

ああ……なるほど、死にたくないんだ。

 

そうなんだろ?

 

死にたくないんだろ?

 

なんで……かな?

 

そこまで自分の生に執着する理由があまり分からない。

 

何故……

 

考えながら再び歩き出した。

 

きっとあのイモムシは死ぬだろう。

 

ずっと歩いた……ずっとずっと……

 

気づかないうちに里まで来てた。

 

反射的に翼を隠して人のフリをする。

 

無意味なのにな……

 

博麗さん達が嗅ぎつける前に、そして、里の人達にバレる前に……

早く離れなくちゃ。

 

 

そう思ったけれど、自然と足が伊織の家に向いていた。

 

物陰からこっそりと伊織の家を覗く。

 

すると、見かけない男が伊織の家の戸を叩く。

 

するとすぐに伊織の親が出て来た。

 

気になったので、更に近づいてバレない様に様子を見た。

 

男は伊織の親と暫く話した後に、懐からなにやら黒い塊を取り出し伊織の親に渡す。

 

すると、伊織の親は、懐から大量の金を出して男に渡す。

 

何かを取引している様だった。

 

そのあと、そそくさと男は帰ってゆく

 

伊織の親が先程の男から買った物……

 

あれ、心臓?

 

まだ、バクバクと動いてる所を見ると人間のそれではない様だ。

 

伊織の親も家の中へ戻ってしまったので、チッと舌打ちをして、そそくさと出て行った男を追うことにする。

 

男は、ニマニマと笑みを浮かべて歩いていたので直ぐに追いつく事ができた。

 

「ねぇ、あんた……さっきあそこの家で何かを売ってたでしょ?何売ってたの?」

 

 

「えっ、その……薬を……」

背後から声を掛けられビクッとして男は答えた。

 

「薬?へぇ……あんなバクバクと蠢く気色の悪い薬なんてあるのかねぇ……」

 

 

「なっ、なんであんた……そんな事まで」

 

「だって見てましたし……オレ……」

ニコッと笑って答えた。

 

「嘘じゃないんだ、薬になるものなんだよアレは……なんたって妖怪の心臓だからね」

冷や汗を垂らして男は言う。

 

別に怯える事もないだろうに……

ちょっとした世間話じゃないか。

 

それとも、何かやましいことでも隠しているのだろうか?

 

もう少し、フランクに接さなきゃな……文みたいに……

 

「へぇ、凄い!!妖怪の心臓なんてよく手に入りましたね!!貴方がその妖怪殺して手に入れたんですか?」

 

「まさか!!そんなことできるわけないでしょう?偶然手に入れた物です。」

 

「ふぅん……で、その妖怪の心臓……どんな効能があるんです?」

 

「ハイ、人間の寿命を延ばす効果があるそうで……」

 

「えっ、そうなんですか?」

 

「いやいや、鵜呑みにしないで下さいよ、そんなの迷信に決まってますって……でも、中にはあの屋敷の主人のように信じてる人も居て、私はそんな人相手に商売してる訳です。結構景気が良いんですよ?」

 

 

「馬鹿な人もいるもんですね〜」

ふむふむと首を傾げながら話を聞いた。

やってる事、話し方、ぜーんぶ文の真似だ。

相手の警戒心を解くってのは中々に難しくて、それを簡単にやってのけてしまう彼女を素直に尊敬する。

 

「まぁ、金持ち連中の考える事はよく分かりませんけど、寿命は金では買えませんからね〜」

 

ハハハと男は笑う。

 

「あっ、すいませんでした呼び止めちゃって……」

 

「いえいえ、それでは……」

軽く会釈をして男は背を向ける。

 

「あっ、忘れてた……もう一ついいです?」

 

「何でしょう?」

微笑みながら振り返った男の顔が真っ青になって引き攣るのがよく見えた。

 

「里の外であんまし妙なことしないで貰えます?命の保証は出来ませんよ?な〜んてね!!」

 

ケラケラと笑いながら男に言ったけれど、男は真っ青になって逃げるように去っていった。

 

ほんの少し脅かすだけのつもりだったのだけれど、やり過ぎたろうか?

 

博麗さんが来る前に退散しなきゃな……


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