東方風天録   作:九郎

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久方ぶりの投稿なので、構成が悪い気がします。
訂正入れるかもしれません


鬼ごっこ

早朝、伊織は起床する。

 

ふぁ〜と欠伸をして、ボロボロの布団から這い出した。

 

早起きしたのはいいものの、特にすることが無い。

 

無くなってしまったのだ。

 

昔は、色々と仕事をさせられていたのだか、今は仕事も与えられない。

 

伊織の家族が世間体を気にして伊織への虐待を控えたからである。

 

それが良い方向へ転んだのか、それとも、逆効果なのか……

 

伊織は、屋敷で孤立していた。

 

誰からも怒られない。

 

目も耳も見えないから怒られている事さえ分からない

 

ただ、エサを与えられるように食事を出される。

 

鼻が効くので出された食事を手探りで掴んで食べる事ができる。

 

だからそれを食べて生きている。

 

そして、側にクロが居てくれる。

 

幸せだと思った。

 

けれど、クロの体温を感じない。

 

温もりを感じない……

 

伊織は不安になった。

 

本当にクロは、側に居てくれているのだろうか?

 

脳裏に疑問が浮かんだ瞬間……とても恐ろしくなった。

 

真っ暗で何も聞こえない空間に、ただ1人取り残されている気がした。

 

怖かった。

 

 

目が無いから涙も出ないけれど、泣きそうな程に心細い。

 

怖くて怖くて堪らない。

 

そんな時、フッと抱き抱えられた。

 

人の体温を感じた。

 

クロだ!!

 

きっとクロに違いない!!

 

伊織は嬉しかった。

 

一瞬、首の辺りがチクッとしたけど、全然平気だ。

 

クロが側に居てくれるから、何も怖くない。

 

数日前……

 

 

 

「頭痛い……」

 

青年の朝は遅かった。

 

いつも通り、仕事をこなしてはいるがつまらない。

 

いつも通り大剣を振っているけれど、何も振り払えない。

 

 

あれから、文とは会ってない。

 

何度も会おうと思ったけれど、文は何処かへ飛んでいってしまうからだ。

 

「今度は、オレが鬼かよ……勝ち目のない鬼ごっこだな……」

 

苦笑いして青年は、久方ぶりのタバコに火を付けた。

 

フゥーと吐いた白い煙が宙に浮いて消える。

 

そして、青年は歩き出した。

 

「天狗の身体能力は凄いな……また順応してきてる。」

 

動く事が難しい程に重みを増した大剣を背負い、青年は呟いた。

 

一体、この大剣の重みはどのくらいなのだろうか?

 

この前、襲い掛かってきた天狗達に峰打ちしたら、地平線の彼方まで飛んでいって、博麗の結界に叩きつけられていた。

 

「物凄い質量なんだな……手加減したのに」

 

はぁ、と青年は溜息を吐く。

 

そして、ふと空を見上げた。

 

「壊してみようか?」

 

空に向かって大剣を構える。

 

そして大きく振りかぶった。

 

「お願いだからやめて」

スキマから紫が現れる。

 

「チッ……やっぱり来た、ちょっとした嫌がらせですよ、この結界ぶっ壊したら色々と困りそうですし……でも、貴方を探す手間が省けた」

 

大剣を背にしまってニッと静かに青年は笑う

 

紫は、冷や汗をかいた。

 

青年から発せられる殺気に、本能的に恐怖した。

 

「殺したいでしょう?私のこと」

 

静かに紫は問うた。

 

「ハイ、凄く……貴方には恨みしか無いから、あと、博麗さんも嫌いです。」

 

青年は笑って答える。

一層、青年の殺気が強くなった。

 

「本当に……恐ろしい存在になったわね」

 

「危険ですよね?オレ……次はどうやってオレを陥れるんです?オレの存在がこの世界の脅威なんじゃないですか?この腐った世界の……」

 

「腐った世界ね……なんでそう思うの?」

 

「おかしいでしょう?本来なら捕食対象の人間と妖怪が余りにも身近過ぎる……それに、人間の癖に妖怪と深く関わってる博麗さんだって異常だ……あんなのが居るから……」

 

 

「違うでしょう?本当の事言ったら?」

 

 

「…………」

 

青年は暫く黙り込んだ。

 

そして、チッと舌打ちした後に話し始めた。

 

 

「あの子は、誰からも必要とされてなかった……あんなに無垢で、触れると壊れてしまいそうな程にか弱くて……捕食対象なのに……それなのにオレは、あの子が愛しい……心の底からあの子の幸せを願ってるんです……それなのに……今、あの子は幸せなじゃない、偽物の幸せを与えられて、屠殺される家畜のような扱いを受けてる……アンタらのクソみたいな秩序を守る為に……」

 

 

「本音を出したわね……」

 

「ねえ、紫さん、早いところ殺しといた方がいいですよ?オレの事……オレ、今、何するか分からないですよ?伊織が幸せになれない世界なんて、消えて無くなってしまえばいい、本気でそう思ってます。」

 

 

「そう……勝手になさい、全力で止めるわ……それに、貴方はそんな事できないわよ?だって……貴方は優しいもの」

 

 

「楽観的ですね……貴方は賢者じゃなくて愚者のようだ」

 

「なんとでも言いなさい……貴方がもしこの世界を壊そうとするのなら、私は貴方を全力で止める……だって、私はこの世界を愛してるもの、貴方が伊織を想うようにね」

 

 

 

そして、紫は消えた。

 

「……」

 

ダンッ!!!

 

と青年は背中の大剣を地面に打ち付けた。

 

四方に大きな地割れが広がる。

 

「本当に……嫌な人だな……」

 

青年は、虚空に手を伸ばす。

 

快晴だった。

 

何処までも澄んだ空で……青年の目と同じだった。

 

 


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