東方風天録   作:九郎

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衝突

いつも通りオレは起きて大剣を振る。

 

毎日の日課だ。

 

振り払う事なんてできやしないのに……

自分の中のモヤモヤした物を必死に振り払おうとしてるんだ。

 

「笑えよ……」

 

誰に言うわけでもなく呟いた。

 

ふふっと自嘲した。

 

虚しくなった。

 

けれど、やめるつもりは毛頭ない。

 

理由なんてないけど。

 

ゾォッと背筋が凍る様な嫌な感覚が全身に走る。

虫の知らせというやつか……

 

何度か体験した事のある感覚だ。

 

知ってる……知ってるさ……

 

『行かなくちゃ……』

 

能力を使って飛ぼうとしたその瞬間……

 

「待てよ……」

 

呼び止められた。

 

無視して飛んでおけば良かったんだろうか……

 

 

いや、そんな事したら間違いなく首を刎ねられてたな。

 

だって、この人……

シャレにならない程速く間合いの中にオレを入れてたんだから。

 

やっぱ、化け物だ……

 

「邪魔しないで下さい、用があるのなら後で……」

 

ピッと前髪が宙に舞う。

 

問答無用かよ……

 

「釣れない事言うなよ、少しの間くらい生い先短い老人の相手したってバチは当たらんぞ」

 

ニコ〜と老人は笑った。

 

「無二斎さん、要件は?」

 

目の前の糞爺いに問うた。

 

すると、無二斎は、笑って答えた。

 

「この組織の危険因子を排除しに来たってところかな?お前、暴れ過ぎだし……」

 

「ふぅん、建前でしょ?それ……貴方が誰かの指示で素直に動く様には思えない。」

 

「ああ、そうだ……ただ単純にお前と殺し合いがしたいんだ。」

 

「お断りします。」

 

チッと舌打ちをした。

 

早く行かなきゃ……

 

こんな奴と戦ってる暇なんてない。

 

焦っていた。

 

これ以上ない程にオレは焦っていた。

 

ズリズリと音が聞こえる。

 

目をやると、無二斎が木の枝を拾ってオレを囲う様に大きく円を描いていた。

 

大きな円を描いてニッコリ笑う。

 

「これがオレの刃圏……入った奴は〜斬〜る」

 

ザンッ!!

 

反射的に大剣で無二斎の刀を受け止める。

 

ギリギリと鍔迫り合いになった。

 

「ッ!!」

死ぬかと思った。

 

少しでも反応が鈍れば串刺しになっていただろう。

 

本当に……この人、強いな……

 

「妬けるな……他の事に気を取られてるからこんな事になるんだ。

死にたくなかったら……オレだけを見てろ、そして反抗して見せろ!!そのクソ重い大剣でオレを真っ二つに切り裂いて見せろ!!」

 

ガキィン!!

 

一体自分が何をされているのか分からない程に、無二斎の攻撃は早かった。

反射的に受け止めているだけで……自分が今、生きているのかさえ曖昧に感じる。

 

ただ、身を切り裂かれる痛みと剣の重みがオレ自身がまだ、生きている事の証明になっていた。

 


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