東方風天録   作:九郎

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クロ君の過去話です。
めっちゃ長く書いてしまいました。
ごめんなさい。しかも、めっちゃ暗いです。ごめんなさい。

私の尊敬する小説家の書き振りを真似たのですがどうでしょう。

こればっかりは、感想欲しいですね。
批判だってかまいません。

では、本編です。


ある阿呆の断罪

ある日、遠くでデカい地震が起きたらしい。 それとデカい津波も

 

直ぐに向かいました。

人を助けたかったのです。

人を救いたかったのです。

人を守りたかったのです。

見たのは地獄絵図でした。

 

プカプカと人が浮いていました。

 

身体が腐ってガスが溜まり『鬼』になったやつも沢山です。

 

一つ一つオレは、引き揚げました。

 

なぜ一人一人って言わないかって?

 

だって、人は死んだら物扱いされるじゃないですか……

 

ほら、死体を捨てたら死体遺棄……法律上は、物として扱われるのです。

なんだか虚しい響きです。

 

何度も検死に立会いました。

それが仕事だからです。

オレは正義の味方ですから……

 

でも、誰も救えませんでした……

 

いえ、救えたのかもしれません。

でも、オレは心の底から恐怖していたのです。

 

また、地震が起こるんじゃないか?

また、津波が起こるんじゃないか?

 

正直、声を上げて逃げ出したかったです。

 

ある日、小さな子どもがオレにいいました。

「お母さんを助けて!!」

 

救えませんでした……

見つけたのは、ガスでブクブクに肥大した「お母さんだったもの」でした。

 

悔しかったです。罪悪感が重くオレにのしかかるのです。

「お母さんだったもの」にしがみ付いて啜り泣く子どもを見て、オレも泣きました。

 

でも、オレは正義の味方です。この信念だけは曲げたくありません。

だから、オレはこの子の心のケアをしてあげようと何度も何度もこの子とお話しする機会を作ったのです。

 

すると、たまにこの子はオレに笑顔を見せるようになりました。

 

この笑顔を、いつまでも守り続けよう……

そう思っていました。

 

なんなら、オレがこの子の面倒を見ても良い……

そんな事さえ思っていました。

 

 

ある日、オレはその子の家に行きました。

祖母と仮設の住宅に住んでいるそうです。

 

2つ、てるてる坊主がぶら下がっていました。

 

結局オレは誰も救えませんでした。

もっと、この子やこの子の祖母と話していたら……

何か変えられたのかも知れないのに……

 

他の仕事で忙しかったのです。

寝る暇もそんなにありませんでした。

 

オレは正義の味方なんかじゃなかったのです。

思い知らされました。

 

 

落ち込んでいるオレに、声を掛けてくれた女性の方がいました。

 

綺麗な人でした。

 

オレは、女性が苦手です……

どうやって接したら良いのか分かりません……

だから、あまり寄せ付けないようにしたのです。

 

それなのにその人は、オレに笑顔で「頑張って下さい」と言うのです。

 

オレが壊れないでいれたのはこの女性のおかげと言っても過言ではないでしょう。

 

被災地は、無秩序です。

だから、オレ達が一般市民を守らないといけません

 

オレは、この女性を守りたいと思いました。

もしかしたら、恋をしていたのかもしれません。

 

ある日、騒ぎが起こりました。

オレに声を掛けてくれた女性が襲われたそうです。

何度も何度も強姦されたそうです。

 

オレは彼女に話し掛けようとしました。

生きてくれていただけで良かったのです。

どんなに汚れてしまってもオレは、この女性の事が…………

 

好き……?だったのでしょうか?

やっぱり分かりません……

 

この女性は、おかしくなってしまいました……

オレが見ていないところで手首を切り続けるのです。

 

何度も止めました。何度も何度も何度も……

 

ある日、この女性の家に行きました。

また、手首を切ると大変です、死んでしまうかも知れないのです。

どんなになってしまっても……オレは彼女を守りたいと切に願いました。

 

てるてる坊主が一つぶら下がっていました。

 

また救えませんでした。

 

オレは誰一人として守る事ができないのです。

 

そんな男が正義の味方なんて……おかしくて笑っちゃいますね。

 

ひと段落して、オレは地元に帰りました。

 

オレもおかしくなってしまいました。

沢山沢山、仕事で解剖に立ち会うのです。

人間が肉の塊に見えるのです。

 

友達が合コンに連れて行ってくれました。

 

世間では尊敬される職だからでしょうか?

 

ぶっちゃけモテモテでした。

 

でも、どんなに綺麗な人でも……死んだら肉の塊になるのです。

オレはデートという物に何度も誘われたのですが、すべて断りました。

 

しつこい娘もいたので、何度も突き放しました。

酷い事も沢山言った記憶があります。

 

放っておいて欲しかったのです。

 

 

でも、おかしくなってしまったオレでも……

どうしても捨て去れない思いがありました。

 

人を助けたい。

人を救いたい。

人を守りたい。

 

オレには、そんな資格などありません。

 

だって、誰も助けられなかったし、救えなかったし、守れなかったのですから。

 

それでも……それでも……それでも幼少の頃からオレは正義の味方が夢です。

その為だけに生きてきました。

人を助け、救い、守る事のできる男になるために……

勉強だって、スポーツだって、ボランティアだって何だって人以上にやってきました。

悪い奴らとだって沢山戦いました。

沢山捕まえました。

 

夏目漱石のこころを読みました。

 

Kという登場人物の生き方に心惹かれました。

オレと同じ生き方をしているのです。

だから、自分は、Kなのだと思いました。

 

人を助け、救い、守る……その為の命で良いのです。

その為だけの人生で良かったのです。

 

例え正義の味方失格だとしても……

 

ある日、地元の山が崩れました。

土砂崩れです。

 

真っ先に人を助けに行きました。

今度こそ……今度こそ……今度こそ!!!!!!

 

そんな思いでした。

前の災害の時の自分なんてもうどこにも居ません。

もう、何も怖くありませんでした。

何にだって立ち向かってゆける……そんな思いがありました。

 

ゴゴゴゴゴ…………

山鳴りです。

山が怒っています。

 

でも、怖くありません。

 

どんな事があっても……オレは正義の味方でありたいのです。

 

 

ドザァ!!!

 

また山が崩れました。

 

オレの真上です。

あっ……と言う間も与えてくれませんでした。

 

真っ暗闇です。

オレは間違いなく死にました。

 

結局……誰も救えませんでした……

 

 

恥の多い人生を送ってきました。

自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。

 

全てが虚しく感じました。

オレは正義の味方になんてなれっこなかったのです。

 

オレの命に価値などありません。

そんな価値の無い男を沢山の人が支えてくれました。

愛してくれました。

 

でも、オレは何一つとして返せませんでした。

 

気が付いたら知らない山にいました。

変な女に天狗の里に連れて行かれたし……

訳が分かりませんでした。

 

でも、まだ生きている。

 

だから、オレは『断罪』しようと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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