東方風天録   作:九郎

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やはり、戦闘描写は苦手です。
心理描写の方が好きだ。



巣の中の雛

痛てぇ……

 

オレ……まだ……生きてるな

 

凄まじい剣戟の中、まだオレは生きているようだ。

 

目にも止まらぬ速さの斬撃を、ほぼ無意識に大剣で捌いていた。

 

いや、目にも止まらぬというのは正しくないか……

 

見惚れてしまいそうな程に美しいと感じてしまっているから。

 

でも、無二斎さん……

 

アンタなんかに構ってる場合じゃないんだ。

 

呼んでるんだよ……喚んでるんだよ!!

 

伊織がオレのことを!!!

 

この感覚……オレが死んだあの時の感覚と一緒だ。

 

だから……早く行かなくちゃ……イカナクチャ……

 

 

「少しはマシになったな……」

 

無二斎は、剣戟を止めて言った。

 

「…………」

 

答える余裕なんてオレにはなかった。

 

「10点ってとこだ……正直話にならん、お前じゃオレは殺せん」

 

「どけよ……」

 

「あ?」

 

「邪魔すんな……」

 

「…………」

チッと無二斎は舌打ちする。

 

「行かなきゃいけな……」

 

ドスッ!!!

 

言葉を言い切る前に腹部に激痛が走る。

 

 

ああ……腹を貫かれた……

 

急所は……外れてるのかな?

 

ボトボトと血が出る。

 

止まらない……

 

「楽しませてもくれんのか?今ので千回だ……お前を殺れた回数、いい加減にせんと殺すぞ?」

 

ゴミを見るような目つきで無二斎は言った。

 

千回か……

なんだよ、戦いにすらなってないじゃないか。

 

このクソジジィ、散々嬲りやがって……

 

意識が飛びそうになってきた。

 

ザンッ!!

 

再び激痛が薄れかけていた意識を現実に留まらせる。

 

次は袈裟掛けに斬られた。

 

ブシャーと血が吹き出る。

 

シャワーみたいだ。

 

ザンッ!!

 

逆袈裟に斬られた。

 

へぇ……血って……こんなに……沢山……出る……んだ。

 

「下手に戦闘に特化した天狗じゃなけりゃ、もっと楽に死ねたのにな」

 

真っ赤に染まった刀を見つめて無二斎は言う。

 

「なぁ、そんなに弱くてどうする?守れんぞ誰一人として……あのブン屋の娘も……人間の童も!!」

 

「イカナクチャ……オレが……守……ル、ンダ」

 

「お前じゃ無理だ、守られるだけの巣の中の雛のようにか弱いぞ」

 

「オレ……ガ……」

 

「もういい、戯言はたくさんだ」

 

無二斎は刀を振りかぶり、そして振り下ろす。

 

そこから、先は覚えてない。

 

ただ、青空とオレを見下ろす無二斎の顔は覚えていた……

 

それと、オレを呼ぶ伊織の声がずっと頭の中を反響していたこと。

 

………………………………………………

…………………………

…………

 

「10000点やる」

ニヤッと笑いながら無二斎は、血だらけで倒れた青年を見つめる。

 

無二斎の右肩からはドクドクと血が出ていた。

 

「さっさと外せよその枷……それじゃオレは殺れんぞ……」

 

クククと無二斎は、笑いながらこの場を去った。

 


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