もう誰も見ちゃいないだろうけど
真っ白な空間にポツンとオレは立っていた。
「今の……結構良かったと思うよ。
ムッちゃんには負けるけど……でも、良かったと思う。」
遠くから女の人の声が聞こえてきた。
誰だろうか?
でも、聞き覚えのある声だった。
「ダメですよ、こんなじゃ誰も守れやしない」
ボ〜ッとする意識の中自嘲気味に答えた。
「いいや、完成されてたね……無敵だって断言してあげる。」
「でも、負けちゃあ意味がないでしょ?」
「うーむ、君はネガティブだなぁ……一瞬だけどさ、この世で何者も敵わない物になったってのにね〜」
「この世で何者も敵わないもの?そんな物は無いでしょう……」
「そうだよ、そんな物は無い!!それが答えだよ」
訳が分からない……
それにしても、この人……誰だっけな?
たしかに、一度話したことのある人なんだけど……
「ク〜ちゃん、これから大事な話をするよ、よく聴いててね」
女の人の声は、飄々とした声から、少し低い声になった。
だから、何を言っているか分からない相手だったけど
真面目に聞かなければならないと思った。
「あっ、ハイ……」
「これから、ク〜ちゃん……辛かったら、泣いてもいいんだよ?一度思い切り泣いてもいいし、思い切り癇癪起こして大暴れしたっていいさ、我慢し過ぎてる……君の側にいる人をもっと見てあげて………」
そう言い残して女の人の声はこれ以上聞こえなかった。
変な夢だ。
いや、夢なんだろうか?
もしかして……オレ、死んだのだろうか?
スゥ〜っと真っ白な空間が消えていく。
黒に変わってく。
真っ暗だ…………
そして…………
口の中一杯の血の味と、失血した事による寒気、そして身体を貫く激痛がオレを現実に戻した。
「ゴボッ……」
血を吐いた。
寒い……痛い……
斬られた傷口を見ると心臓の拍動に合わせてドクドクと血が出ている。
きっと内臓まで達してる。
この感覚、よく覚えてるから。
今度こそ死ぬかもな。
せっかくもう一度生きる事が出来たのに……
でも………
イカナクチャ……
立てなかった。
だからズリズリと這いずった。
虫ケラみたいに這いずった。
前へ前へと這いずった。
伊織……
大丈夫だよ……
安心して。
オレがお前を守るカラ……
覚えてるか?
言っただろ……
たとえ世界が終わっても、オレはお前を離さないって……
うん、やっと分かったよ。
オレは、お前を愛しているんだ。
どうしようもないくらいに……
オレ、お前に何かしてやれたかな?
ごめんな、オレ、そんなにお前を幸せにしてあげられなかったとおもうんだよ……
お前の気に入るおもちゃだって与えられなかった。
人間と関わらせてあげられなかった。
母親代わりの文とは喧嘩してばっかだったな……
もっともっと甘えさせて、もっともっと抱きしめてあげれば良かったね……
オレ、どうしようもない奴だけど、
オレ…………
お前の父親に……なれたかな?