東方風天録   作:九郎

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骨まで愛した

青年は虚ろな表情で飛び散った物を拾い集めていた。

 

一つ一つ、余さず、そして愛おしそうに……

 

どれもこれも黒焦げで原型さえ分からない。

 

しかし、青年には分かっていた。

 

「骨まで愛するって言葉の意味……今なら少し分かる気がする……」

 

ボソッと青年は呟いた。

 

そして、青年は尚も愛した者を拾い続けた。

 

「一つ一つ……拾ってるのにさ?拾う毎に、大切な何かを……落としてる気がするんだ……」

 

「おかしいね……伊織……」

 

困ったように青年は笑みを浮かべて空を仰ぐ

 

空は曇って今にも雨が降りそうだ。

 

風も段々と強くなり、木々がざわめき始めた。

 

暫く青年は、拾い続けた。

 

「お前……ちょっと背、伸びてた?大っきくなってたんだね……」

 

クスッと青年は笑う。

 

しかし、その笑みは続く事はなかった。

 

深い深い奈落の底を見ているような表情で、青年は爆心地の丁度ど真ん中に拾った物を埋めて棒切れを立てた。

 

「ごめんね、間に合わせだからさ……かなり不恰好だけど、直ぐにもっと立派なの作ってあげる……う〜ん、どうだろうか?作って……あげられるだろうか?作る場所……残ってるといいね」

 

青年は再び困り顔をして飛び立たとうとした。

 

直ぐに落ちた。

 

「翼……折れてる……」

 

折れた翼を見て青年は苦笑いする。

痛くなんかなかった。

もっともっと痛い思いをしてるから、だから……青年は折れた翼で羽ばたいた。

 

 

それから暫くして……

 

 

「ヒイィィィ!!!助けてくれ!!!」

青年は必死に命乞いする男の首を刎ねた。

 

ビシャッと顔に血が飛び散る。

 

そんな事は御構い無しに青年は氷のように冷たい表情で首の無い死体を見つめていた。

 

「あっ、そだ、もう1人いたっけ?若い方……」

 

ボソッと青年は呟く。

 

そして…………

 

「はぁ、はぁ、早く来いよ博麗の巫女!!早く……」

必死で里の外れを走る男が居た。

 

ふと前を見ると黒い何かがポツンと見えた。

 

「なんだ?」

 

男は走りながら疑問に思うも、直ぐに疑問は解消された。

 

「やあ」

 

目の前に居るのが今逃げていた相手だったからだ……

 

「化け物め!!いいのか!?オレを殺して!?お前、ただでさえ天狗社会で浮いてるらしいじゃないか!?里の人間であるオレを殺すとお前、天狗社会から抹殺されるんじゃないか!?」

 

「もう何度も抹殺されかけてる、今更変わりゃしないさ……」

青年は背中の大剣に手を掛ける。

 

「ヒィィ!!」

男は情けない声を上げ、後ずさりした。

頬か油汗がダラダラと流れている。

 

「小便は済ませたか?神様にお祈りは?ガタガタ震えながら首を刎ねられる準備はOK?」

 

「助けてくれー!!誰か、誰か助けて!!」

男は踵を返して走り出す、青年は、ボォ〜っとそれを見つめていた。

 

暫く男は走りながら自分の身体の異変に気がついた。

寒い。物凄く……寒い、凍えそうだ。

 

「忘れ物……」

ヒュッと音を立てて青年が目の前に現れた。

右手になにやら赤い塊を持っている。

どうやら、その塊はバクッバクッと脈を打っているようだった。

 

「なっ、なんだそれは……」

 

「あんたのだよ」

 

青年の返答を聞いて男は青ざめる、自分の胸に穴が空いているからだ

 

「返え……して」

 

「やだ」

グシャッと青年は右手に持った心臓を握りつぶし、それと同時に男は生き絶えた。

 

「穴開けずに取りたかったんだけど、上手くいかないもんだね……でも、アンタらがオレにしようとした事だよ、やられても文句言えないよね?」

 

氷のように冷たい表情で青年は歩き始める。

 

「終わってしまえばいいんだ……こんな世界……」


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