東方風天録   作:九郎

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異変か危機か?

「痛いな……」

胸に手を当てながらボソッと青年は呟いた。

それが、傷の痛みからなのか、はたまた別の痛みなのかは青年しか分からない。

 

しばらく歩いたあと

 

「止まれ!!」

 

背後から声を掛けられる。

 

ピタッと青年は歩を止めて振り返る。

 

「邪魔しないでくれる?」

氷の様に冷たい視線を向けながら、青年は背の大剣を抜いた。

相手はよく知る人物だった。

 

トンガリ帽子に箒を持った。

霧雨魔理沙という少女……

 

「お前、これから異変起こす気だろ?それもとんでもない異変」

低い声で魔理沙は言った。

 

「異変?……異変だって?ククク……ハハハ、呑気なもんだね」

 

「異変だよ、異変さ……アンタのやろうとしてること……だってアンタは……」

 

「そんな事言ってるからホラッ死んだよ?」

ヒュッと音を立てて青年は魔理沙の喉元に大剣の切っ先を突き立てる

 

「クッ……」

魔理沙は、反応できずに頬に冷たい汗をかきながら青年を睨んだ。

 

「ほんと、舐めてるだろ?オレの事……手始めにアンタから殺そうか……」

 

青年はそのまま魔理沙の喉を大剣で斬り裂こうとした瞬間、何かに反応して咄嗟に身を捩った。

 

青年の頬を白刃が掠めたが青年は動揺の一つもせず、さも当たり前の様に自分に向けられた白刃の主を見た。

 

「バッテン前髪……なにしてるんだよ」

 

「八雲さんの式の……えーと、誰だっけ?藍さん……だっけ?そろそろここいらで来ると思ってたけど、ちびっ子の妖夢ちゃんが先だったか……意外だわ」

 

困ったような笑みを浮かべて青年は妖夢を見る。

 

異様な雰囲気を漂わせる青年の不気味さに背筋が凍るような嫌な感覚を妖夢は覚えた。

 

「助かったぜ……」

妖夢を見て魔理沙は、ホッと一息ついた。

 

「助かった?助かったか……ホント、アホなの?助かりゃしないよどのみちこの世界ごとアンタら終わらせてやるんだ、遅かれ早かれ変わりゃしないさ」

 

魔理沙の発言に苛立ちを覚えた青年は魔理沙を見た。

しかし、妖夢はその隙を見逃さなかった。

 

キィン……

 

金属と金属とがぶつかる音が辺りに響く

 

「チッ……」

妖夢は、舌打ちして青年を見る。

 

「安直過ぎるよ……」

呆れたように青年は魔理沙に向けた視線を変えずに大剣で妖夢の白刃を受け止める。

 

「バッテン前髪……いや、クロ!!私はお前を止めに来たんだ!!お前がどれだけこの世界に絶望したかみんな知ってるよ……だから……」

 

「へぇ、知ってるんだ?じゃあなんでこうならないように手を尽くさないかな?なんであの子を守ってやらなかったのさ?人間とか、妖怪とか、そんな括りや決まりとかどうだっていいんだよ……その糞みたいな括りやルールのせいで不幸な幼子が死んだんだ……見ろよこの黒いシミ……」

 

青年は、自身の右手にこびり付いた黒色のシミを魔理沙と妖夢に見せる

 

「なんだと思う?」

低い声で青年は言った。

 

妖夢と魔理沙は、何も答えられなかった。

 

しばらくの沈黙の後に青年は口を開く。

 

「焼け焦げたあの子の皮膚だよ……爆散した時にくっついちゃったんだろうね?最期の最期まで……あの子の事、抱きしめてたから……たとえ世界が終わったって離さないって言ったのに……別にアンタらが憎い訳じゃないんだよ、ただ、終わらせてやりたいんだ……全部……」

 

青年は暗い表情で言った。

 

魔理沙も妖夢も、もう何も言うことができなかった。

しかし、闘うことをやめる気は無かった。

 

この異変を解決するため、幻想郷を守るために……少女2人は闘った。

 

 

そして………………

 

倒れた2人の少女を見下ろして青年は呟く。

 

「弾幕ごっことか……そう言った遊びじゃないんだよ……」

 

そして青年は再び歩き始めた。

 

「文がチクって回ったのか?いや、違うか……あの子なら直接オレを止めに来るだろうし……」

 

フッと青年はため息交じりに笑って空を仰ぐ

 

「ごめんね……」

 

 


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