きて……きて……
まただ……伊織の声が聞こえる。
アイツに寂しい思いさせたくない。
だから、行かなくちゃ……
青年は、背中の大剣を抜いて見つめた。
前に取り殺されるぞって忠告されたけど、なるほど、こういう事か……
いいよ、このまま……全部ぶっ壊してくれ。
やるよ、みんなやる……ありったけくれてやる。
だから……
「クロ!!」
背後から声が聞こえた。
振り返ると博麗さんが居る。
「やっぱ来ますよね、流石に貴方を殺さないとこの世界をぶっ壊せないよな……」
フッと青年は、笑った。
「違うでしょ!?あんたただ……」
「違わないです、オレはあの子が幸せになれない世界を終わらせる。何回言えば分かるんです?邪魔するなら、貴方を殺す……今回はマジですから、博麗さんも気をつけないと死んじゃいますよ?ホラッ、どんどん竜巻が大きくなってる……この調子で全部飲み込んでしまえ……」
ドオォ!!
と音を立て、更に竜巻は勢いを増す。
竜巻の内部に侵入している少女目掛けて竜巻が飲み込んだ砂塵が弾丸の様に撃ち込まれてゆく。
反射的に少女は、結界を張って防御した。
それが間違いだった……
何千何万もの砂塵が撃ち込まれ、そして更に砂塵の後を追うように鎌鼬が少女を襲った。
結界は、まるで紙切れ同然のように切り刻まれ、少女も同様に切り刻まれながら竜巻の外へと弾き出される。
「…………」
青年は、遠い目をして弾き出されていった少女を見つめていた。
「もう使わないと……殺せませんよ?オレの事……」
ふと、青年は大剣を見つめる。
ああ……意識も薄れてきた。
無茶ばっかしたからなぁ、死にかけの状態で戦って、まぁ、この大剣のお陰なんだろうけど……
なぁ、お前、機会を伺ってたんだろ?
こうやってオレがお前に取り殺される絶好のタイミング……
今がそうだもんな。
だから、オレにずっと力を貸してくれてた訳だ。
蛇みたいだね……
狡猾だよ……
さて、オレがスッカラカンになって死ぬのが先か、それとも霊夢さんが夢想天生を使ってくれてオレが殺されるのが先か……
どちらにせよ、これだけの事をしたんだ、きっと里の人間も恐れてくれる筈だ……妖怪の事、それに、妖怪を怒らせたらどうなるかってのも……怒らせた理由については……みんな分かってるよね?
いや、分からなくたって……うん、他の天狗辺りが新聞で広めてくれるさ。
でも……広められるのなら……文の……新聞がいいな……
場面変わって
妖怪の山最奥……
「これだけ言ってもまだ貴方は……」
紫は、キッと老人を睨みつけて言った。
「何故儂が糞ガキの癇癪を止めないといけない?放っとけ、じきに収まる」
イライラした様子で面倒くさそうに無二斎は、紫を見た。
トントントンと足を揺すって、両の手の拳をギュッと握りしめていた。
「癇癪ですって?これのどこが癇癪というのです?このままでは幻想郷はあの竜巻に……」
「放っとけばいいさ……それで良い、他の天狗どもも浮き足立ってたもんだから、言っておいた……手を出すなとな」
「ッ!!貴方は!!」
あまりに無関心な無二斎の態度に紫は、無二斎の胸ぐらを掴もうとしたが、寸前で自身を抑えた。
右手と首を撥ね飛ばされる様な嫌な感覚を覚えたからだ。
「そろそろ出て行ってくれるか?目障りだ……」
「クッ……」
無二斎の圧力に気圧されて紫はスキマの中へと消える。
「若い頃の自分を見てる様で……気分が悪い……まぁ、今も若いのだが……嫌な事を思い出した、酒は何処だ?」
舌打ちしつつ無二斎は、酒を瓶ごと一升飲み干した。
そして同刻
妖怪の山から高速で飛立つ影があった。
「クロ……きっと今のクロ、あの時と同じ顔してるでしょうね、私と、貴方が初めて会ったあの時と……」
少女は、強い決意と共に竜巻目掛けて飛んで行った。