東方風天録   作:九郎

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「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」

ニーチェさんが言った言葉です。

サブタイトルは、聖句です。

自分自身、書いていて読めたもんじゃねぇと思っていますが

まぁ、試行錯誤を繰り返していこうと思います。


「死よ、お前のとげは、どこにあるのか。 死よ、お前の勝利は、どこにあるのか」

生きたいのか……

 

君も不運だな……巻き込まれちゃってさ……

 

怖い……怖いよ……

 

終わっても良いやって思ってる癖に……

 

でも、生きようとしてるこの娘が終わってしまうのは……

 

もっと怖い、嫌だ……生きて欲しいな

 

たとえ、この身果てようとも……

 

君を守ろうと思う

 

終わらないでくれ……

 

ん〜、やっぱりクソだなオレは

 

何がこの身果てようとも君を守ろうと思うだよ?

 

心底ビビってる癖に、ガタガタ震えている癖に

 

弱い癖に

 

何が守るだ?

 

お前に何ができる?

 

傲慢だよ、実に傲慢だ

 

そんなかっこいい台詞は 、ヒーローが言う台詞だ、お前は何だ?

 

悪役にもヒーローにもなれない半端者だろう?

 

嗚呼、そんな男に誰かが守れるわけがないじゃあないか

 

笑わせんじゃねぇよ

 

 

そうだよなぁ、傲慢な男だなぁオレは……

 

 

でもね、でもね?

覚悟はある

 

半端者の意地だ。

 

 

青年は、背後の少女に言った。

「今すぐ、逃げろ」

 

「は?なんでですか?」

少女は、青年を蔑んだ目で見ながら言った。

 

馬鹿かこの女は……

 

「君に死んで欲しくないから」

目を合わせずに青年は言う

 

「いや、死にませんからご心配なく」

 

面倒くさそうな顔をして少女は即答した。

 

ウザい……

 

君が逃げてさえくれれば、逃げてさえくれれば後はオレが奴を足止めしてやるのに……何故分かってくれないのだろう。

 

 

「ねぇ、お願いだから逃げてくれないのだろうか?」

 

「うっさいなぁ、どこで何をしようが私の勝手です、貴方、私に声を掛けられて「放っておいてくれ」って思ったでしょ?ウザいって思ったでしょ?顔に書いてありましたよ。本当にムカつきました。だから私は、貴方にいじわるします。」

 

ニヤリと、不敵な笑みを浮かべて青年を見る少女

 

あ〜、面倒くせぇ女……

まぁ、側から見たらオレは自殺志願者に見たえろうな

 

間違いではないけれど……

 

どうすっかなぁ〜

 

困ったな、本当に困った。

 

 

考えるのも面倒になってきた。

 

やけくそだ……

 

 

ねぇ、大蛇さん……今、君がオレを殺そうとしてるって事は、逆にオレに殺されるかもしれないって覚悟もあるわけだよね?

 

 

万に一つも勝ち目がないけどな……

 

いや、違うな、万だろうが億だろうが京だろうが

 

ここで終わってしまっても良い、オレには十分過ぎるじゃないか

 

 

青年は、チロチロと舌をだしてこちらを見ている大蛇を睨んだ。

 

「今カラ オマエヲ 殺ソウト思ウ」

 

大蛇の表情が変わった。

 

蛇に睨まれたカエルのように動けなくなってしまったようだ

 

無表情のまま青年は、大蛇に歩み寄る

 

カタカタと小刻みに大蛇は震えだした。

 

気の所為だろうか、大蛇の血の気が引いていってる気がする。

 

「オイデヨ」

 

青年がそう言った瞬間、大蛇は、耐え切れなくなったのか、脱兎の如く逃げていった。

 

逃げてった……

 

怖かったな……

 

フッと体の力が抜けて地面にへたり込んでしまう

 

 

まぁ、悪くないね

 

 

目的は達した。

 

 

振り返って見ると

 

まだ、あの娘が蔑んだ目でこっちを見ていた。

 

 

まぁ、当然だわな、昔のオレならもっと酷い目で見てたろうし

 

どうしたものか……

 


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