東方風天録   作:九郎

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かなり考えて書きました。
なかなか難しいですね。

いや〜それにしても、ニコニコ動画のクロの絵がそのまんま過ぎて嬉しくてほぼ毎週眺めてます。

描いてくれた人にお礼を言いたいです。
ほんとにありがとうございます。


弱さを知って

今……オレ……立ってるのかな?

生きて……るのかな?

 

耳鳴りが止まない……

 

文の声が聞こえた気がした。

 

何言ってるか分かんないけど……確かに……聞こえたんだ……

 

視界が白く霞んで見える。

 

ああ、なんだか綺麗だな……

この霞んで白色に見える世界……

 

悪くない。

 

「死ぬわよ?」

ビュウ!!と突風と共にオレの竜巻に何かが突っ込んで来た。

博麗さんかと思って身構えたが、この風、よく知ってる……

 

「うん、死ぬね」

 

背後から聴こえてきた声に即答した。

 

振り向いて見るとそこには六角烏帽子を被った少女が立っている。

 

「死にたいの?」

少女は、青年に問う

 

「死ぬにはいい日和だよね?このやり取り、前にもしたような気がすんだよね……とすると、こりゃとんだ茶番劇だ」

 

困り顔で青年は答えた。

 

「死ぬにはいい日和なんて……そんなの死ぬまでないですよ?それに、あのやり取り……私は死んだって忘れない……」

困り顔の青年に少女は言う。

青年は、それを見て小さくため息を吐き、目を逸らす。

 

「しょうもないやり取りだよ?オレはさっきまで忘れかけてた……」

 

 

「私にとっては大切な思い出ですから……」

ムスッとして少女は、答えた。

そんな様子でさえ青年にとっては愛しく感じられた。

そして、青年は心底安堵していた。

 

最後に、文に会えて良かった。

そう思った。

 

「そっか……文もオレを止めに来たの?」

フッと笑って青年は、少女に問うた。

青年は、少女が自分と戦いに来た訳でない事を重々承知の上だった。

 

少し意地悪な笑みを浮かべて、青年は少女を見る。

 

すると、少女はムッとした表情で青年を見つめていた。

 

「そんなところです、自分を犠牲にして、自分が悪者になって、この世界をほんのちょっぴり変えてやろうって考えてるんでしょ?」

 

ピクッと青年の肩が動く

 

「馬鹿じゃないの?変える?違うよ、終わらせてやるんだ」

冷淡に青年は、答えた。

 

 

「終わらせる……伊織が幸せになれない世界を終わらせるって言うんでしょう?私相手に悪役ぶるのやめてほしいです、分かってるんですから!!」

 

「ふーん、知ったような事言うなよ、何なら博麗さんを殺す前に文から殺したって良いんだよ?」

キッと青年は、少女を睨んだ。

少女は、眉ひとつ動かす事なく青年を見つめていた。

真っ直ぐな瞳で。

 

「貴方はそんな事しない……絶対に……」

 

「甘いんじゃない?」

ヒュッと音を立て、青年は一瞬で少女との距離を眼と鼻の先程まで詰め、氷のような冷たい目で少女を見つめた。

 

「殺すぞ」

低い声で青年は言う。

 

「貴方がそれを望むなら、仕方ないですね……どうぞ?」

パッと両手を広げ少女は、青年に微笑みかけた 。

それを見た青年の頬から冷汗が伝う。

 

「…………」

しばらく沈黙が続いた。

そして、ハァ〜と大きなため息をついて降参するかのように青年は喋り始めた。

 

「オレ……お前の事嫌いだわ……ホントやり辛い……オレ、伊織のこと……守れなかった……幸せにしてやれなかった……せめてもの償いのつもりなんだ……オレが大暴れして死ねば、妖怪を怒らせるとどうなるか人間達は思い知る、そして、その原因を知れば、きっと伊織みたいな子がこの先出てくる事も無いと思うんだ……」

 

「ウソつき……ほんと馬鹿ですね、不器用すぎるんですよ……貴方……」

 

「何とでも言えよ……」

不貞腐れた青年は、そっぽを向いて少女から背を向ける。

 

「貴方が死んで伊織は喜ぶんですか?あの子はそんな子じゃないですよ?」

 

「そうだね、伊織はそんな子じゃないよ、でも、来て……来てって言ってるんだ……聴こえんだよ……ずっとずっと頭の中で!!きっと寂しがってるんだ!!文にあの子の何が分かるっての?」

 

 

「分かりますよ!!だって私はあの子の母親ですもん!!そして貴方はあの子の父親だ!!」

 

「偽物だよ……そんなの……短い時間しか過ごしてない癖に、母親気取りかよ、笑っちゃうよね……」

 

青年には、返ってくる言葉は分かっていた何故なら、少女は、伊織にとっての母親になれたのだと確信していたからだ。

 

文が……一番、伊織と向き合ってたのかも知れないな……

と青年は、思った。

それと同時に自身の情けなさを感じて悔しくなった。

 

「偽物なんかじゃない!!何故分からないんですか!?私と、貴方と伊織で過ごした日々、伊織の幸せそうな顔……あの日々が偽物だったなんて私は認めない!!」

 

「…………」

 

再び沈黙が続き、そして、消え入りそうな声で青年は話し始めた。

 

「そんなに幸せそうな顔……してたかな?あまり記憶にないんだ……多分、オレはあの子の目を……無垢で何一つ曇りのない目を……直視できなかったからなんだろうな……怖かったし不安だったんだ……あの子の事を幸せにしてあげられるかどうか……それを悟られたくなかったし、あの子を不安にさせたくなかったんだ……なんだか見透かされてるような気がしてさ……オレの弱さを……オレは弱かったらダメなんだよ……だって父親だもん、オレが弱くちゃダメなんだよ……オレがあの子を守るんだから…………結局、守れなかったんだけどね……」

 

「完璧な存在になろうとして無理してたんでしょ?ずっと余裕無さそうでしたもん……ずっともがいて苦しんでたでしょ?クロ……貴方は弱いです。でも、その弱さと必死に戦ってた……もう無理しなくていいんです……貴方は貴方で良いんです……」

 

フッと少女は、微笑んで青年を抱きしめる。

 

抱きしめられた瞬間、青年は驚いた様にビクッと肩を震わせた。

そして、ビシッ……と青年の大剣に亀裂が入る。

 

「…………」

 

「生きて下さい……」

青年の耳元で少女は囁く

バクバクと青年の生きているのを証明する音を感じた。

 

「やっぱ辛えわ……辛いし、怖い……」

 

「全部背負いこまなくていい……もう背負わなくたっていいの、どうしても重いっていうのなら、私も一緒に背負うから……生きて下さい……私と一緒に……」

 

 

 

「なんでそんな事言うかな……狡い……ズルイよ、そういうとこ、ほんと烏なんだなって思う。」

 

ビシビシ……バキッと音を立て、青年の大剣の亀裂が広がってゆく

 

「目的の為なら手段を選びませんから私……」

ニッと少女は笑った。

 

青年は目を逸らした。

眩しかったから。

少女の笑顔が物凄く輝いて見えたから。

 

この光景を……忘れてはいけない気がした。

 

「少し……泣くわ……カッコ悪いと思うけど、情けないと思うけど、それでも、泣くわ……だから、少しの間でいいから、こうしてて欲しい……」

 

「ハイ……」

静かに少女は答えた。

 

ボロボロと青年の大剣は崩れ去り、その場には少女と青年の2人だけ……何かを傷つける物は何も存在しなかった。

 

 


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