モチベーションもあまり上がらなくて……申し訳ないです。
妖怪の山の麓あたりに位置する山道を青年達はテクテクと歩いていた。
「悪いね、飛んで行けばすぐなんだけど、目立つと色々と面倒なんだ……」
ハハハと青年は、少し申し訳なさそうにキタザワに笑いかけた。
「別に気にしないで下さい、それにしても、クロさんはどこに僕を連れて行くつもりなんですか?」
「オレの大切な場所……かな?そろそろ着くから、もう少しこうしてお話しながら歩こうか?」
パタパタとお子様ランチの旗を振りながら青年は、答えた。
やっぱり、どこか悲しそうだ……
とキタザワは、思った。
青年から少しお話しようと言ってきた癖に、青年は、どこか遠い所を見つめて、物思いに耽っていた。
キタザワは、その様子を見て気不味い空気だなぁ……
と感じ、何か話題を出してみようと思考を巡らせた。
「そっ、そういえば、クロは、射命丸さんとどう言った関係なんですか?」
「ん?オレはただの、あの子の助手だよ?」
キョトンとした表情で青年は、答えた。
しかし、キタザワは、青年が目を逸らしていた事を見逃さない。
「クロさん……今、嘘つきましたね」
鋭い目でキタザワは、青年を見つめた。
青年は、その目を直視できずに少し嫌そうな顔をしながら
「そだね」
と一言、素っ気なく答えた。
「なんで嘘ついたんですか?」
怪訝な顔でキタザワは、更に青年を問い詰めるも、青年は、先程の、いやそうな表情から、ヘラヘラした笑い顔に変わっていた。
「恥ずかしいからさ……」
遠い目をして青年は、答えた。
「なんで恥ずかしがるんです?」
なるほど、そうやって誤魔化すのか……
自分に不都合な問いをされるとそうやってヘラヘラ笑って、ふざけて、最終的に有耶無耶にして逃げる……
クロさん……あなた、常習犯ですね。
キタザワは、内心イラついた。
「意地が悪いね……キタザワくん」
苦笑いしながら青年は、答えた。
「ちょっとした仕返しですよ」
ニッと意地悪な笑みをキタザワは、青年に見せる。
すると青年も、ニヤッと笑う。
「ちょっと悔しいから教えてやんない」
ピーヒョローと口笛を吹いて青年は、そっぽを向いて答えた。
「そうやって逃げるんです?」
キタザワは、微笑みながら鋭い言葉を青年に投げかける。
ピクッと青年の眉が動いた。
「別に逃げてなんか……」
「クロさん……貴方は僕に心を開いてる様に見せかけてるだけで本当はちっとも開いてなんかない……掴めないんですよ、貴方のこと全然……」
「…………」
青年は、フゥと息を吐き、ポケットから煙草を出して火を付けた。
「怖いんだよ……キタザワくんに、オレの色んな事知られるのがさ……だって、初めての外来人の友達だぜ?それに、霖之助以外で初めてできた友達……それに……」
途中で青年は、言葉を止めて、そして、フゥと白い煙を吐き出しながら続けた。
「ごめんね、怖がらせたくないから言いたくなかったんだけど、正直に言うとね……オレ、キタザワくんを殺さないといけないかもしれないんだ……だって、この世界に害を及ぼす可能性がある者を消すのがオレの仕事だから……」
「やっとクロさんの本当の言葉を聞けた気がします……初めて話した時の殺気もそういう事だったんですね……色々と合点がいきました、ずっとぎこちない感じがしてたんですよ……クロさん、僕と仲良くなりたいみたいな事を言ってる癖に、何か迷いがあるというか……ずっとぎこちなかったですもん!!」
「恐ろしいなぁ、キタザワくんは……」
「恐ろしいのは、貴方の方です……わざと馬鹿なフリするし、わざと幼稚なフリをする……貴方は一体なんなんですか?」
「あ〜、その件は理由があるといいますか……その〜うん、とりあえず着いたから、一旦その話、後にしてもらってもいいかな?大丈夫だよ、キタザワくん、全然害も無さそうだし、殺す気なんてサラサラない、寧ろ、殺せと言われたら……どうにかしてあげるからさ?約束する……信じてくれ……」
困り顔で青年は、キタザワに微笑みかけた。
キタザワは、これも作り笑いか何かなのだろうか?
誤魔化してるだけなんだろうか?
と青年に対する疑念が一層大きくなった。
しかし、時折見せる青年の哀しそうな表情に、答えがあるような気がした。
「キタザワくん……もし、オレの事……みんな分かったとして……キタザワくんは、オレの友達で居てくれるかい?」
顔色を伺うように青年は、キタザワに問うた。
どうやら本当に不安だったらしく、青年は、今まで見た中で一番真剣な表情をしていた。
「なるほど、その様子を見るに、物凄く不安だったんですね?クロさんから感じたぎこちなさの正体が分かった気がします……大丈夫ですよ、僕を助けてくれた時のクロさんの真っ直ぐな瞳……クロさんは絶対悪い人じゃない……僕がクロさんの事を知っても、きっと友達でいますよ」
キタザワの返答に青年は、安心した様子で。
「そっか……」
とにっこり笑って返した。
そして、
「ご覧よ……」
と目の前を指差す。
キタザワの目の前には一面の花畑が広がっていた。
「うわぁ……」
無意識に声が出ていた。
そして、その中心に小さな石とその隣には剣の柄が差してあるのが見える。
「墓石?」
小さくキタザワは、呟いた。
「うん……」
遠い目をして青年は、墓石の前までゆっくりと歩き、プスッと手に持っているお子様ランチの旗を地面に突き刺す。
キタザワは、ハッとする。
花に目がいっていたが、花畑と同じくらいの量で辺り一面にお子様ランチの旗が広がっていたからだ。
気付かなかったなぁ……
でも、なんで……
キタザワが思考を巡らせている間に、青年は、墓石に話しかけていた。
「久しぶり、かっこ悪いお父さんだよ〜……あははは、ごめんね、ずっと呼んでるの聞こえるよ?今だって聞こえてる……でも、まだ行ってあげられないんだ……きっと寂しい思いをさせていると思うけれど……我慢して欲しい……ごめんね……」
「お子さんのお墓……ですか?」
「うん……血の繋がりはないけどね、でも、誰が何と言おうがオレの子どもだよ……若過ぎて良い父親にはなれなかったけどね……」
「愛してたんですね……」
静かにキタザワは、青年を見た。
青年は、うーんと頭をかきながら、 「違う」と呟く。
「愛しているんだよ……」
「???」
キタザワは、青年の言っている意味が分からなかった。
何が違うと言うのだろうか?
そして、青年は、再び墓石に話しかけてる。
最近のこと、新聞作りのこと、射命丸さんの愚痴……
なんで、そんな哀しそうな顔をするんだろう?
分からない……
そうだ……僕の能力でこの花や近くの石や、生き物の記憶を覗いたら何か分かるかもしれない。
クロさん、色々隠してるみたいだから……少しくらい知ったってバチは当たらないだろう。
悪く思わないで下さいね……クロさん。
キタザワは、鎖を広げ墓石付近の花や、石や、虫や鳥といった生き物達の記憶を覗き見た。
頭の中に様々な情景が駆け巡る。
幼子と青年の楽しかった日々……
傷だらけで幼子を守る青年……
幼子を抱き締める青年……そして、
最期の瞬間……
ツゥー……と気付いたら両目から涙が伝っていた。