まだ張り足りないから、もう少し付き合ってほしいですね。
回収できる気がしないけれど……
意識が途切れかける中、大男は心の底から安堵していた。
良かった……コイツに殺されなくて済んだ。
まだ、生きていられる……
闇雲に暴力を振るうのは今日でやめよう……
チンピラや、ヤクザ紛いの事もやめよう……
そんな事を続けていたらいつか、コイツみたいな奴に殺される。
コイツみたいな頭のネジの吹っ飛んだ様な奴に殺される……
死にたくない、オレはまだ生きていたいんだ!!
オレは、お前とは違う……お前みたいに、生きることを放棄したような人間には、オレはなりたくねぇ。
これからは、マジメに働くんだ……
ちゃんと、生きるんだ!!
「お休み……」
ガクッと意識を失った大男に青年は、優しく言った。
暴力はいけない、でも、貴方がこの幼い子ども達に暴力を振るうのならば……
オレは鬼にでも悪魔にでもなるよ……
その為に培ってきた力だもの……
「あっ、あの……大丈夫?お兄ちゃん……」
恐る恐る男の子は青年に声を掛けた。
「ん?気を失ってるだけだから何の問題もないよ!!優しく締めてあげたから、直ぐに起きるはずだ。」
少しでも緊張を解してあげたかったから、ニッコリ笑って答えてみた。怖い顔……してないよな? 大丈夫かな?不気味に笑ってたりしねぇよな?
物凄く不安だった。
「ちっ、違うよ!!お兄ちゃんの方だよ……血が……」
「気にすんな……悪りぃな、血なんて……子どもに見せるもんじゃねぇのに、んじゃオレ消えるから〜さいなら」
「ちょっ、ちょっと待ってよ、お兄ちゃん、名前は?」
「…………クロ。」
この子達に血を見せたくないので背を向けて答えた。
「あっ、ありがとうクロさん、助けてくれて、ホラッお前も」
男の子は、泣き止んだ妹を見た。
「あっ、ありがとうクロにぃちゃ」
ニッコリ妹ちゃんが笑うものだからトロけそうになった。
可愛いなぁ……オレ、保育士も悪くないかなって思ってた頃があるんだよなぁ。
あ〜天使だわマジ天使……
「おう、どういたしまして、なんか困ったらオレを呼んでくれよ、力になれるならば力になるから……」
オレは、背を向けてヒラヒラと手を振りその場を去った。
子どもが大好きだから頭を撫でたりしたかったけど、すごく恥ずかしくって……どんな顔すれば良いのか、よく分からないんだ……
泣かれたりしたら……嫌だし……
「かっ、かっこいい!!」
男の子は、目を輝かせて青年を見送っていた。
さて、帰るかな……博麗神社に行きたいな。
また、霊夢さんに会いたい。
変だな……ここ最近、誰かに会いたいなんて思わなかったのに……
考え事しながら歩いていたら、急に視界が真っ黒になった。
「だ〜れだ?」
聴き覚えのある声だ。
「意地悪で性根の腐った最悪最低のクソビッチのバカラス天狗」
ガスッと背中を蹴られた。
下駄履いて蹴るなよめっちゃ痛いわ……
「酷いです!!わっ私ビッチじゃないし!!男の人とお付き合いなんて……したこと無いから……」
顔を真っ赤にしてポカポカと背中を叩く射命丸を見て、なんだか落ち着いた気持ちになった。
「あ〜ハイハイ、てか、お前よくもこの前……」
「見てたんですよ先程のクロ君を、言いたいこと沢山ありますよ!!めちくちゃ怒りたいですもん私!!でも、一番気になるのは……貴方何者なんですか?さっきの、明らかに訓練を受けたような動きをしてました。」
オレの言葉を遮って射命丸は問いかけた。
真剣な目をしていたので、ふざける訳にはいかないと思った。
「元 正義の味方……さっきの動き?あれか、CQC(近距離格闘術)ってのかな?一応さ、弱い訳にはいかないんだよ……悪い奴を相手にする訳だから……1年間訓練を受けただけだけどな……一般人よりか強いって程度だよ……」
「なっ、成る程!!これはネタになるな……おっと、それは置いといて…………クロ君!!相手が刀出してるのになんで自分も出さないんですか!!しかも自分から相手の刀を自分の急所に当てがうし……本当に死んでしまいますよ!!なにがバカラス天狗よ、クロ君の方がずっとバカじゃない……バーカバーカバーカ!!」
やべ、またお説教になる……
適当に流せそうもないな……はぁ〜嫌だなぁ〜
「子どもが見てるなかで斬り合いなんざできるかよ……それに、一応、正当防衛にしたかった、過剰防衛はいかんからな!!あと、相手の刀を急所に当てた件だけど、アイツには刺す度胸がないのが分かってたから……」
「なるほど……最初のは納得です。でも、クロ君……最後のは嘘つきましたね?」
「………………」
「記者を舐めないで下さいよ!!分かるんですからクロ君が嘘ついてる事くらい!!」
「反省してま〜す。ってイテッ!!」
適当にはぐらかそうとしたらバコッと下駄で殴られた……
痛い……
「本当に……どうしようもないバカですよ……ホラッ、手当てするからこっち来て!!」
射命丸は、オレの手を引いて下げていた鞄から薬と包帯を取り出した。
「痛ッ!!痛いつーの!!」
消毒液が滲みる……痛い……
「ほーら男の子でしょ?我慢しなさい、ハイ、包帯巻いたんで傷口が開かないように気をつけて下さいね」
「よっ余計なお世話だバーカ」
「もっと、自分を大切にして下さいよ……見てられないです、なんでそんな悲しい目をしてるんですか……笑って下さい……クロ君は、幸せになるべきです……」
俯いて射命丸は言った。
「………………オレにそんな資格は無い」
青年は、遠い目をして呟いた。