東方風天録   作:九郎

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いつも泣かされる射命丸の逆襲です。

あんがい仲が良かったけど、そろそろクロ君を真っ逆さまに落とさなくっちゃ……奈落の底まで。


人間の壊れてゆくところ
亀裂


「はぁ……疲れた……」

ふぅと肩を落とす青年

 

「ク〜ロ君!!凄いですね〜私以上の動体視力ですよ!!今ので確信しました、やっぱり貴方は私達の仲間です!!それも、戦闘に特化した方の……さっ、大天狗様の所に行きましょう正式に私達の仲間に……」

 

 

「黙れよ……」

 

「えっ……」

嬉しかったのだろうか?

軽くスキップしながら青年の背を叩いた少女の表情が凍りついた。

 

「オレは人間だ……人間で沢山だ……」

 

「まだ人間ってだけでしょう?」

暗い顔をして少女は言った。

 

「まだ……か……オレは多分、人間が好きなんだ、守りたいと心から思ってる……だから……人間でありたいし、どうしてもオレは自分がお前らの仲間だとは思えない……ただ、一般人よりか少し強い程度じゃないか?」

 

 

「なんで、あんな奴らがそんなに好きなんですかね〜理解に苦しむなぁ〜平気で殺しあうし、平気で傷つけ合うし、平気で騙し合う奴らじゃないですか?それはクロ君が一番よく知ってそうですけど?」

 

ムッとした表情で射命丸は、青年に言った。

 

 

「それでも、人間は綺麗な所だってあるでしょ?誰かを愛するって……その人の汚い部分も全部引っ括めて好きになるってことじゃないかな?よく……分からないけれど……」

 

 

「ハッ……ほんの数十年しか生きてない癖に知ったような口を利くんですね……滑稽極まりない……」

憎悪に満ちた表情で少女は、青年を嘲笑った。

もう、彼女の優しい表情は欠片もない。

 

「何千年も生きてるのにお前は、何も見えちゃいないんだな……滑稽極まりない……」

青年もカチンときたのだろう、思わず思った事を口走ってしまった。

 

「………………」

 

お互いに険悪な雰囲気が漂う

 

 

「まぁ、勝手に人間のフリでもしてれば?人間モドキ君……」

 

 

「うん、そうさせてもらうわ……」

これ以上、彼女と言い争いたくなかったので、青年は素っ気なく答えて去ろうとした。しかし、少女は、そんな青年の前に回り込んで立ちはだかった。

 

「…………クロ君は、妖夢さんや霊夢さん、永遠亭の人達には優しいのに、私にだけ凄く冷たいですね……いつもいつも、素っ気ない態度とって、クロ君があの人達に見せる表情と私に見せる表情って全然違いますよね?まぁ、どーでもいいけど……あんまり、女性に対して綺麗だ〜とか言うの……どうかと思いますよ?」

 

遠い目をして少女は言う、自分でも何を言っているのかよく分からない……ただ、物凄くイライラする……私がずっと貴方を見てるのに……クロ君は私を見てもくれない、いつも突き放す……

そんなに私が気に入らないですか?

私は、貴方に幸せになって欲しいとねがってるのに……

そんな態度取るんですか?

 

あんまりじゃないですか……

いつもいつも……いつもクロ君は、私を拒絶する……

いい加減にしてよ……

少し優しくなったかな?って思ってたらこれだもん……

 

 

少女の彼に対する不満が爆発しつつあった。

 

 

 

「ん?綺麗だったから素直に言っただけじゃん?もっと素直になれ〜みたいな事言ったの……お前じゃなかったっけ?お前に対して見せる表情が違う?何言ってんだよ……一緒だよ、いや、少し違う所が……あるかもしれないけど……それは……どういう感情なのかオレにもよく分からない……」

 

 

 

「あははは!!天性の女たらしですね〜クロ君って……サイテーです」

大笑いしながら青年を罵る少女、もう限界だったのだろう

ドカンと音を立てて少女の中の不満が爆発した。

 

「ッ!!まぁ、誤解されないように言ってるつもりなんだけどな……」

 

 

「どこがですか?やっぱりクロ君はアホですね……」

 

 

「はぁ?どうでも良いんじゃなかったの?なんでそんな事までオレはとやかく言われないといけないの?お前はオレのなに?友達?恋人?違うよね?お互い嫌い合ってる同士でしょ?」

青年は、自分が彼女にしてきた事を理解している……自分の過去故に人と向き合えなかったことを、しかしながら、青年も頭にきていた。

 

 

「そ〜でしたね〜いや〜、なんであの時クロ君を後ろから抱き締めてあんな事言いかけたんだろうなぁ〜自分に吐き気がしますよ〜あっ、止めてくれてありがとうございます。一生後悔するところでした!!あ〜汚らわしいなぁ……」

 

 

「それ……言っちゃうんだ……」

頭にきていた青年の表情が一気に曇った……悲しいような虚しいような、複雑な心境になったせいか青年は、俯いた。

 

「ハイ、言っちゃいますよ〜この人間モドキめ……出来損ないの分際でなに私に楯突いてるんです?私は天狗ですよ?仮に貴方が私達の仲間だったとして……貴方は私の足元にも及ばない下っ端の雑魚天狗です……身の振り方いい加減考えたら?」

 

 

「へぇ……そんな事まで言うの……」

 

 

 

「なんですか?またクール装ってカッコつけてるのかな?それとも本気で傷ついた?でも、大丈夫ですよクロく〜ん、霊夢さんや永遠亭の人達や妖夢さんが慰めてくれますよ〜?ん?今から回れ右して永遠亭に戻れば?」

 

 

「酷いな……」

 

 

 

「なに言ってるんです?貴方がいつも私にする事じゃないですか〜あははは、頭の中まで出来損ないなんです?まだ分からないんですか?貴方は人間じゃあない……傷の治りだって異常に速いし、あの反射神経だって異常でしょ?見て見ぬふりして逃げてるだけじゃないですか……貴方は人の皮を被ったバケモノです!!バ・ケ・モ・ノ!!人間ごっこは楽しいですか?大好きな人間達とおしゃべりできて楽しかったですか〜?」

 

 

「バカみたいだなぁ、なんでオレ……お前に……。」

 

 

 

「ん?バカなのは今に始まったことじゃないでしょ?バカどころかキチガイじゃないですか?それで?クロ君……どうやって食べる気なんです?」

 

 

 

「何を?」

 

 

 

「だ〜いすきな……人間の肉です……」

アレ……おかしいな……こんな事言うつもり全然無かったのに……

止まらない……何でかなぁ?止まってよ私の口……

これ以上言ったら本当に戻れなくなる……

止まってよ……

 

「………………もう、喋るな。」

もう青年は、限界だった……

ショックが大き過ぎた。

 

 

「いつか喜んで食べるようになるんですよ……だって貴方はバケモノ……貴方は人間じゃない……出来損ないの人間モドキ……それがら貴方の正体です」

 

 

「お願いだから消えてくれないかな、これ以上聴きたくない……」

 

 

「あっそうそう、ずっと言ってなかったですけど……クロ君、もし、クロ君が私達の組織に都合の悪いことしたら、私が貴方を始末する手筈になってるんですよ〜だから今まで監視してた訳です。 でもそれは……」

 

ガッと少女は、青年の首を掴んだ。

 

青年は、避ける気力すら無くなっていた。

結局、上手くこの子と向き合えなかったオレの身から出た錆だ……

オレはこの子にこんな事を言われるべきなんだ……

酷いこと沢山したし、沢山言った。

 

オレが悪いんだ…… そう思っていた。

 

「今、此処で殺っテモ……イインデスヨ?」

少女の目は、獣の様だった。

青年は、もう少女の目を見ていられない……

正直、泣いてしまいたかった。

胸がいたい……苦しい……

 

まぁ、君が相手なら……それも悪くないのかもしれない……

 

「ごめんな……」

 

 

「無様ですね、命乞いですか?」

 

 

「いいや、お前に対して、思うことが沢山あったから……」

 

 

 

「土下座して命乞いすれば許してあげなくもないですけど?」

 

 

「それは断る……さぁ、殺れよ……」

 

 

 

「フン、貴方なんて何時でも殺れますからね〜大体、人間にも妖怪にもなれない出来損ないなんて私の手で殺すのは嫌だなぁ……汚らわしい、なんで私貴方と話をしてるんだろ……貴方みたいな下等生物いや、人間の皮を被ったバケモノなんかに構ってるほど暇じゃないや」

 

 

ペッと唾を吐いて少女は飛んでゆく

青年は、ただ立ち尽くしていた。

熱い物が頬を伝った。

今ならこれが出る理由が、よく分かった。

 

なんだかんだオレ……感謝してた……いや、感謝してるんだけどな……それだけじゃあない、オレはあの子の事……

 

 

ははは、全部ちゃんと向き合えなかったオレの弱さが招いたものだ……

オレがバケモノ……か……認めたくないよ……オレは人でいたいよ。

 

 

まぁ良いや……これで軽くなった。

もう何も背負わなくても良いや……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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