ほのぼのしたように書けるかはさて置いて……
又八さん……容姿のイメージとしては、PLUTOに出てくるヘラクレスかな?
それをイメージして頂きたい。ブランドとどちらが良いか迷ったんですけどね……
では、本編です。
少し時間は遡る。
コヒュー…………コヒュー……
全身を血塗れにした男がもう一人
「何で死なないの?さっさと死ねよ!!!なんでそんな目ができるんだよ……気持ち悪い……気持ち悪い気持ち悪い!!!!!」
錯乱した綺羅は血塗れの又八を見ていた。
何度も何度もぶった斬った。
彼の経験論では普通は死んでいると思う。
おかしい……おかしいおかしいおかしい!!!
綺羅は軽くパニック状態だった。
「大丈夫だぜ……何があっても……オレはお前を守るから、もう……二度と離したりしない……だからホラッ、こっちにおいで……」
虚ろな目の又八は微笑んで言った。
綺羅に向けて放った言葉ではない。
それは明白である。
瀕死の状態で彼は、誰を見ているのか?
「死ねよ!!!死ねよ死ねよ!!!!なんでそんな優しい顔してるんだよ!!ふざけるなよ!!気持ち悪いんだよ!!」
ガリガリガリガリガリガリガリガリ
と綺羅は頭を掻き毟る。
いつもの飄々とした綺羅はどこへやら……
「お前に会えてオレは良かった……毎日がよ……輝いてたんだ……キラキラ……キラキラ、もっとさ……美味いもん食わせてやればよかったかな……夢見てたんだ、お前が誰かと結婚してよ、式でオレはお前の晴れ姿を見てボロボロ泣くんだ……悲しいから泣くんじゃないぜ?嬉し泣きだぜ?あっ、悪い……ちょっと……悲しいかな?」
「さっきからブツブツブツブツ何言ってんだよ!!!死ねよ!!!」
ズバァっと綺羅は又八の右手を斬り落とした。
「………………」
これ程瀕死の状態では、痛みすら感じなくなるのだろうか?
又八は、表情一つ変えない……
ただ、優しく微笑んでいるのだ。
いつも、ヤクザのように怖い顔をして、人に暴力を振るうような男が……ここまで優しい表情が果たしてできるのだろうか?
それほどまでに、穏やかに……そして愛に満ちた表情である。
「あはははは!!!これで僕の事殴れないね〜どう?痛い?悔しい?悲しい?ざまーみろ!!!」
綺羅は狂ったように笑う
…………が。
すぐにその笑みも凍りついた。
「そうだな……お前も殴って欲しいか……クロみたいな奴と一緒になったら良かったのにな……お前ならアイツを……ははっ……アイツは他に想い人がいそうだけどな……オレは父親失格だな……綺羅と付き合い出した時……正直オレは、大賛成だったんだ……顔が良くて剣術の腕も一級品だ、だからお前を幸せにできる!!間違いない!!そう思った。本来なら誰がお前なんぞに娘を渡すか!!!って怒った方が父親らしかったのかな?オレはな…………オレは……お前に幸せになって欲しかったんだ……自分が寂しくなっても良いさ……心の何処かに……お前がいてくれる……それだけで生きていける……それだけで……」
「気持ち悪い……ふざけんな……何でだよ!!!その顔やめろよ!!!さっさと死ねよ!!!アアアア"ア"ア"!!!」
綺羅は頭を抱え込んだ
ガリガリガリガリと両手で頭を掻き毟る。
相当に錯乱しているようだ。
「うん、うん……なんだ、お前知ってたのか……恥ずかしいな……そうだな……一発で良いさ……一発、オレの拳骨を喰らわせる……それで十分だ、オレは沢山の人をこれで傷付けてきた……だからこれで最後にしよう……最後の一発だ……もうオレは……誰も殴らない、オレの手で、お前を抱きしめてやる、もう離さない……もう……」
ズバァ!!
又八の左手も地面にボトっと落ちた。
又八は両手を失ったのである。
血が吹き出る、失血死するのもあと数秒ほどか?
元々死なないのがおかしいのだ……立っていることなどあり得ない。
それでも、又八は立っている。
何が彼を振るい立たせるのか?
又八には見えていた。
愛娘が倒れないように、そっと自分に寄り添って背中を支えてくれているのを……
沢山話をした。 沢山謝った。
でも、この子はずっと微笑んでいる。
だから……まだ立っていられる。
神様……どうかあと一発……殴るだけの力をオレに下さい。
それで最後にしますから……だから……あと一発だけ!!
この子の為に……
ドスッ……
綺羅の凶刃が又八の胸を貫いた。
綺羅が体ごと思い切り又八の胸目掛けて突進したのである。
「こっ、これなら死んだよね……心臓を一突きさ……」
ズボォッと音を立てて……綺羅は根元まで入った刃を又八から抜き取った。
ピクッピクッと又八は動いている。
「なんだよ……死ねったら!!」
ちょん…………
又八の斬られた腕が綺羅の頬に当たった。
「ヒッ……うわぁ!!!」
綺羅は驚いて飛び退き又八との距離を取る。
又八は、殴ったあとキッと綺羅を睨みつけて動かない。
動かない……
「なっ、なんで立ってんだよ……アンタ、死んでも死なないのかよ……気持ち悪い……」
暫く綺羅は又八の様子を伺っていた。
死んでも死なないのが恐ろしくて堪らない。
確実に殺したのに……死なない……怖い……怖い怖い怖い!!!
又八はずっと立っている。
「ん?」
不審に思って綺羅は又八に近付いた。
「死んでる……」
ガリガリガリガリガリガリガリガリ
と再び綺羅は頭を掻き毟った。
「なに?立ち往生?気持ち悪い……気持ち悪いなぁ!!!」
綺羅は、ガッと又八を蹴り倒し、何度も何度も刀を突き刺した。
「死ねよ死ねよ死ねよ!!さっさと死ねったら!!!!」
暫く綺羅は又八を刺し続けた。
「ハァ……ハァ……気持ち悪い……吐きそうだ……」
そう言って綺羅は去って行った。
『やった……やったぜ……思い切りブン殴ってやった……なぁ、これで……良いよな?えっ……クロが!?うん、うん、分かったごめんな……すぐに戻ってくるから……アイツに喝を入れてやんねぇと……本当にクソ雑魚になっちまう……ああ、すぐ行くよ、待ってろよ……クロ……」
ポツリとニコニコ笑った女が又八の帰りを待っている。
暫く経ってから……
『もぉ〜待たせすぎだよ……お父さん……』
『悪いな……アイツが心配でよ、でも、アイツなら大丈夫さ……アイツがオレに生きる力を少しだけ……分けてくれたんだ、アイツにその気は無かったかも知れないけどな……ああ、幸せになれば良いんだ……アイツにはそれが必要だ……オレは今、最高に幸せだぜ?ありがとうな……クロ……』
ギュッと又八は、愛娘を抱きしめた、強く強く……強く!!!!
『たとえ世界が終わっても……オレはお前を離さないぞ……』
二度と、彼らは離れる事など無いだろう……
もう二度と……
数日後……
「愛娘と一緒の墓に入れてやったぜ?もう……離れないね……」
目を真っ赤にした青年が、墓の前に立っている。
娘さんの墓が思ったよりも豪華な墓だった……
オレ……そんな大金アンタにあげたんだ……
いや、それもあるだろうけど……アンタだな……全財産はたいたんだろ?
だって、アンタの家に言ったけど家財道具一式無かったもんな……後先考えずに売りやがって……ハハッ馬鹿じゃねぇの?
ばーかばーかばーか……本当に親バカなんだな……
最高の親バカだよ……アンタ……
うん、分かってる……分かってるよ……
あとはオレに任せて……
でも、少しだけ待っててよ……
少しだけ……少しだけ、あの子の側に居たいんだ……
これくらいのわがまま……聞いてくれるでしょ?
ねぇ……又八さん……
ツゥーと頬から雫を垂らして青年は空を見上げていた。
快晴である。
雨は…………止んだようだ。