東方風天録   作:九郎

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やっぱり、格闘よりか斬り合いだなぁと思った今日この頃。




では、本編をどうぞ


新聞の理解者に

特にすることもないので青年は、背中の大剣を振っていた。

 

ダメだ……全然だめだ、自分が振り回されている……

 

脇差を振ってた時のようにヒュッ!!と振れない……

 

それに何も聞こえてこない、どうやって振れば良いのか、コイツがどこに行きたいのか……

 

聞こえるというのは語弊があるかな?

 

ただ、なんとなく……なんとなく分かるっていうか、その〜う〜ん……普通聞こえないのに聞こえるっていうか……

 

なんとなくなんだよね、なんとなく分かるんだ。

 

これこそが言葉にできない何かなのだろう

 

確かなことはそれだけだ。

 

脇差のときはちゃんと教えてくれたのになぁ

 

チッ……と青年は舌打ちして大剣を背の鞘に収めた。

 

使いこなせる訳がないよこんなの……

 

 

「よぉ、底辺野郎……」

 

背後から声を掛けられた。

振り返ってみるとニヤニヤ笑っている白い犬耳つけた男が立っていた。

 

「貴方は?」

 

青年は、首を傾げて問う

 

「教える必要もないだろ?お前はこれから死ぬんだ、この面汚しが……」

 

ああなるほど、青年は色々と理解した。

 

「いや〜本当にすいませんでした。組織の一員として扱われてるのにあんな真似してしまって……ホント、命だけは勘弁して貰えませんかね?土下座した時だって命の危険を感じましてね?命乞いしてたんですよ〜」

 

青年は、ペコペコと頭を下げて謝る。

それを見て白狼天狗はクククククと笑った。

 

嬉しいのだろう、自分より下の存在がいる。

安心したのだろう、自分以上に虐げられる存在がいる事に。

 

「はぁ?それが人に物を頼む態度かよ……」

 

ゴミを見るような目で白狼天狗は青年を見た。

 

すると青年は、再び土下座の体制を取った。

 

「ホントに申し訳ありませんでした!!どうか許して下さい!!」

 

殺したいなぁ〜と思ったけど、そんな事したら文に怒られるし、組織にまた迷惑を掛けるんじゃないだろうか?

 

それなら幾らでも頭を下げよう。

 

今、オレが頭を下げているのは、このクソ白犬じゃない……

 

組織に頭を下げているんだ。

 

組織に属するということは、きっとそういう事だ。

 

ムカつく奴にも頭を下げる、上からの命令には従う。

分かる、分かるよそれは、オレだって体験してるんだから……

 

「ハッ、無様だねぇ〜なんで文様は、こんな奴を庇ったかねぇ〜分からないことだらけだぜ……新聞大会でもいつもランク外のクソみたいな新聞を性懲りもなく書き続けて……」

 

ア"?

 

今何て言った?このクソ天狗……

 

 

ニヤニヤ笑って白狼天狗は続ける。

 

「長年ずっと書き続けてるのに一度も陽の目を見ない……さっさと諦めれば良いのに、才能ないのに記者なんか気取ってさぁ……身分だけは上だからオレも従ってるけどさぁ〜本当にバカだよなぁ、あんな新聞、便所の紙にした方がまだ有効活用できてるわww」

 

 

「……………………」

 

オレは好きだぜ……

めちゃくちゃ好きだぜ?

あの新聞のおかげで霖之助や霊夢さん……みんなに知り合えた。

だから、ムカついた。

腸が煮えくりかえった。

 

お前……あの子がどれだけ真剣に……

だめだ、こいつには分かるわけがない。

 

オレだって全部知ってる訳じゃない。

 

でもムカつく

 

黙ってオレをボロクソに言えば良いのに……

あの子は関係ないのに!!

クソが!!

 

こんなに腹が立つのは、やっぱりあの子の事が好きなのだからだと思う。

 

大好きなんだろうな……だから、

 

「オイ、なんだよその目は……睨んでんのか?ああ?ハッ、お前と変わらねぇよ、あの新聞は底辺だ……クソ以下だね……文様も好い加減分からないかなぁ、誰にも読まれてない時点で察しろよ、燃えるゴミ書いてる事をさぁ?」

 

プツン…………

 

青年の中で何かが切れた。

 

 

もう限界だった。

 

惚れた女の悪口を散々に言われたら……そりゃムカつくわ 誰だってそうだ!!

 

何言ってくれてんの?

何がクソだ、燃えるゴミだぁ?

 

好い加減にしろよこのクソ野郎が……

 

「……まれよ……」

 

「あっ、なんか言ったか?」

 

 

「黙レヨ……オレの事を言えよ……なんで、アイツの事を言うんだ……」

 

「なんだよその態度……殺されたいのか?」

スッと白狼天狗は腰の刀を抜いた。

 

 

「こっちの台詞だ……殺サレタイノカ?」

 

青年は土下座の体制から思い切り地面を蹴り白狼天狗に飛び掛かる。

 

「………………」

一瞬の出来事なので白狼天狗は認識すらできていなかった。

 

青年は、そのまま白狼天狗の顎目掛けて左拳を思い切り振る。

 

フックとアッパーの間

 

いわゆるスマッシュという奴だ。

 

オレが『組織』に属していた時に訓練していた格闘術

逮捕術だ。

 

徒手では有効打突が顎と胴である。

 

オレは徒手が大の苦手だった、何度失神しかけたことか……

顎へのアッパーカットは危険なので禁止なのだ。

どうやって勝つか必死に考えた結果、相手に胴を意識させて顎をうち抜こうと思った。アッパーカットをアッパーカットに見せないように……フックに見えるように……

それでいて一撃必殺の技…… 重い一撃。

 

思案した結果がこれである。

 

禁止スレスレなので何度か試合では指導を食らった。

 

でも、これくらいしないと勝てなかった、みんな強かったしなぁ

オレみたいなヒョロもやしが勝てるわけねぇしww

 

「オゴォ……」

顎を撃ち抜かれて白狼天狗は膝を折りかけた。

 

だが、青年は容赦しなかった。

 

「おいおい、まだ終わってねぇぞ……」

 

青年はもう一発溜めを作ってスマッシュを放とうとする。

 

「ヒッ!!」

相当効いたのだろう、白狼天狗は反射的に刀を捨て、両手で顎を守る。

 

「やると思ったよ……」

 

ドゴォッと鈍い音を立て青年の拳は白狼天狗の右脇腹にめり込む。

 

リバーブローである。

 

「ガッハァ……」

激痛に白狼天狗の顔を歪ませる、そこへさらに青年の拳が当たる。

 

 

「アッ……アア……」

もはや、白狼天狗の意識は飛びかけている。 グロッキーだ。

膝が折れて地面に倒れそうになる。

しかし、それを青年ほ許さない。

 

「おいおいおいおい、お寝んねはまだだぜ?」

 

最後の一撃、渾身のストレートを白狼天狗の顔面に当ててやった。

 

「天狗の鼻をへし折るって、楽しいね〜」

 

拳についた血をパッパッと払いながら青年は、ピクピクと動く白狼天狗を見下ろしていた。

 

 

数分後……

 

文を呼んでこのクソ天狗を彼の所属まで運んで貰った。

手当てはしてやった。殴られる痛みは人より知ってる。

暴力はいけないのも知っている。でも、殴らずにはいられなかった……許せなかった。

 

あの子を馬鹿にした事がどうしても許せなかった。

「貴方という人は!!!私がアレだけ言ったのに!!!」

ガミガミガミガミ……

 

「ハイ、ハイ、ハイすいませんでした。」

 

ガミガミガミガミとめちゃくちゃ怒られた……

 

ごめん……耐えられなかったんだ。

 

オレは知ってるよ?

 

君がどれだけ頑張ってるか、どれだけ真剣に新聞を書くことと向き合ってるのか。

 

読んだだけでも伝わってきたんだから……

 

オレの見ないところでもっともっと頑張ってるんでしょう?

 

凄いな……カッコいいよ、お前……

 

願わくば、君の新聞がちゃんと評価されて大会で優勝できれば良いと思う。

 

報われるべきだよ、君は……

 

この世界の全員がこの新聞をクソだと言ったとする。

 

それでも、オレはこの新聞は素晴らしいと胸を張って言い続けてやるよ

 

オレだけはこの新聞の理解者になってやる。

 

オレはそれくらい君の書いたこの新聞が好きだ!!

 

 

いや、新聞じゃあないのかもしれない

 

 

本当は君の事が……

 

フフッ、これは胸にしまっておこう……

 

 

 


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