東方風天録   作:九郎

6 / 213
妖怪の山の麓にて……

さて、これからどうしたものか……

オレは、特に考えもなくトボトボと歩き妖怪の山の麓まで降りてきていた。

取り敢えず今日のところは野宿しようかな

季節は夏だろうから凍えることもないだろう。

 

杉の木はないだろうか?

杉の木の根元は暖かい野宿するにはもってこいだ

山で修行する山伏の知恵である。

 

探してみると簡単に見つかったので根元に腰を下ろして一休みすることにしよう。

 

ふと、地面を見つめてみた。

 

すると、スズメバチだろうか?

 

大きな蜂の死骸が蟻にたかられている。

足を腹の下にぴったりくっつけて、触覚はだらしなく顔へ垂れ下がっている。

ブゥーンと羽音がした。

 

近くに巣でも有るのだろうか?

数匹蜂が飛んでいる。

忙しなく飛び回る蜂達を見つめて彼らはいかにも生きているものという感じがした。

 

「悲しいね……」

 

ポツリと呟いた。

 

きっと女王のため、いや、他の蜂の為に君は一生懸命に働いたんだろう?

 

それなのに何一つ気にせず飛び回る蜂達が、とても冷淡に思えた。

 

 

溜息をついてボケ〜っと山の木々を見る。

すると、遠くの木にトカゲが一匹へばりついている。

 

意地悪してやりたい気持ちになった。

 

なので、手元にあった石ころを投げた。

 

驚かしてやりたかった。

ビックリして動き回る様を見つめていたかった。

 

なのにその石は、トカゲの頭に命中し、トカゲはビクンと尻尾を天に立て、静かに下ろして動かなくなった。

 

死んだ。

 

わざとじゃない 本当だ。

 

何だか悪い事をした気持ちになったので

 

「ごめんよ……」

と呟いて土に埋めて墓を作った。

 

トカゲにとっては全く不意な死だ。

こんなつまらん事で死ぬこたぁねぇのにな……こいつは、今まで何の為に生きてきたのだろう?

こんな死に方する為に生きてきたのか?

 

最低な事をしたような気がする。

目頭が熱くなった。

とても寂しくなった。

 

 

遠くでガサガサと茂みが動いた。

 

気になったのでそこへ行ってみた。

 

すると、ズタボロになった黒猫がいた。

 

何かを守ってるのだろうか?

 

唐突に現れたオレに、彼はフシッ、フシュッと毛を逆立てて威嚇する。

 

「大丈夫だよ……心配ない、オレは君の味方だ……」

 

言葉が通じないのは分かりきっているのに、自然とそんな言葉が出た。

 

こいつ……目が……

 

失明するまで彼は何かを守る為に戦ったのだ、いや、もう息も絶え絶えである。

 

彼の腹の下を見てみると産まれたばかりだろうか?

目も開いていない仔猫が一匹いた。

 

耳を澄ましてみると微かにミャーと鳴いているのが分かった。

 

なるほど、この子を守る為に彼は戦ったのか……

命を賭して。

 

「終わらないでくれ……」

正直カッコいいと思った。

何かの為に命を賭して戦った戦士にオレは敬意を表したい。

 

「直ぐに手当てしてあげるよ」

 

手を差し伸べた。

しかし、彼は渾身の力でオレの手に噛み付いた。

「痛ッ!!!」

 

食い千切られるかと思った。

しかし、だんだんと噛む力が弱くなっていった。

彼の逆立った毛も静かに下りてゆく。

 

 

猫は死んだ。

 

「お見事……」

 

彼は美しかった。

勇敢だった。

 

また目頭が、熱くなった。

 

「お休み……この子の事は心配ないよ!!オレが面倒をみるから!!オレがこの子を守るから!!」

 

死骸になった黒猫の腹から小さな小さな命をオレは抱えた。

 

重いや……

 

重い筈はない、産まれたての仔猫だ500gくらいかな?

具体的な重さが分からないけど、数字で見れば重い訳がない

それが、酷く重く手にのしかかってきた気がした。

 

「命って……重いね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。