私は、飽きてますけど……
では、本編です。
妖怪の山山頂付近の屋敷にて
老いた男2人が話していた。
「老けたなチビ……」
「ちゃんと名前を呼ばんか無二斎!!背もそこまで小さくないぞ!!」
「ふっ、妖忌、お前は変わらないな……昔を思い出してよ……からかいたくなった……」
遠い目をして無二斎は妖忌を見つめている。
妖忌は、チビと言われたのが癪に障ったのかムスッとして腕を組んで無二斎を睨んだ。
「わざわざ特別に許可まで出して何故私を呼んだのだ?」
「ん?そ〜だな、剣術においてこの世界での天下無双……オレかお前のどちらかだと思ったわけだ」
「ほぅ……」
「お前は、昔からオレを斬ろうと付け狙ってきたよなぁ……ハハハッ、お前ならオレを殺せるかなって思ってたのによぉ……」
「思ってただと?」
ピクッと妖忌は眉を動かす。
「そう、思ってたんだ……お前ならと思ってたんだ……」
無二斎の言葉を聞き妖忌は、腰の刀を抜いて無二斎に突きつける。
しかし、無二斎は、眉一つ動かさない
「殺すぞ?」
無慈悲に妖忌は、言い放った。
しかし……
妖忌が気付かない間に
無二斎は、腰の刀を二本抜き、妖忌の喉元と、腹に突きつけていた。
「死んでるぞ?」
不敵な笑みを浮かべて無二斎は、妖忌を見た。
「なっ……」
妖忌の額を冷たい汗が伝った。
「老いって嫌だな……それに、天狗と半人半霊じゃあ差があり過ぎる……それなのにお前は、オレをずっと斬ろうとしてたろ?お前になら斬られても良かったのに……」
「クッ……待て!!無二斎、正々堂々とちゃんとした場で立ち会え!!」
妖忌は、ムキになって無二斎に言った。
老人らしくない振る舞いを見て、無二斎はフフッと笑う
昔を思い出すな……オレがお前をからかったら、お前は怒ってオレを斬ろうとする。
そして、いつもオレはお前にこうするんだ……
無二斎は、妖忌の額を人差し指でツンと突いて言う。
『また今度な……』
「…………年甲斐にもなく取り乱してしまったな、孫に見られたらなんと思うか……」
「いいじゃねぇかよ……昔を懐かしむのも一興だぜ?昔みたいにオレは斬り合いたかったんだけどな、老いとは嫌なものだ……オレは寂しい……」
悲しそうに無二斎は、空を仰ぐ
そこにはポツリと小さな雲が浮かんでいた。
「そういえば、お前の隣にいつもいた天狗の娘はどうした?」
首を傾げて妖忌は無二斎を見た。
てっきり、祝言でもあげて一緒になっとるもんだと思ったがなぁ……
それに、ワシが若い頃に見た奴のように、活力に満ちていないというか……悲しい目をしておる……
「死んだよ……鬼に殺されたらしい、沢山酷い事されたってよ……」
「…………」
唇を噛み締めながら話す無二斎を見て、妖忌は何も言う事ができなかった。
「あの時はワシも我を忘れて殺しまくったな……若い天狗どもはワシを生ける伝説だと言う、フッ、くだらねぇや……寂しいよ、オレもさっさとそっちへ行きたい……お前ならそれができると思ってたのに……」
「お前の方が強いのは分かった……ワシにはお前は斬れん、だがなぁ……仮に斬れたとしても、今のお前は斬りたくない」
斬りたくない
妖忌は、色々な意味を込めて言ったつもりである。
しかしながら、無二斎は殺す価値がないと受け取ったようだ。
「ハッ、情けないだろ?何とでも言えよ」
「ワシは老いた……昔のようにお前をボロクソにいってやりたいがそれもできん……ワシは帰るぞ、隠居しとる身なのでな……もう当分会うこともないじゃろう……」
妖忌は、悲しい目で無二斎を見つめて去っていった。
「オレだけだ……オレだけがあの日から時間が止まって取り残された……妖忌よぉ、オレは独りだ……独りなんだよ……強くなったのに……何も無い……オレの手元には何も無い、虚しい……なぁ、
無二斎は、壁を殴るがガンッという音が虚しくこだまするだけであった。
里から妖怪の山までの道のりにて……
「ハァ……ハァ……」
身体から血を流して逃げる少年が一人
背中に大きな爪痕があり、そこからドクドクと血が流れ出ている。
「グルルァァァ!!」
それを大きなクマの妖怪が追っていた。
「うわっ!!」
少年は、つまづいてズザーと転けてしまった。
クマの妖怪は、あっという間に追い付く。
「ふふっ……アハハ……」
少年は不敵にも笑いだした。
その目は暗い、深い深い闇のように暗かった。
「グルァ!!」
クマの妖怪は、少年に右手の鉤爪で止めを刺そうと右手を大きく振り上げた。
その瞬間……
ターン!!
銃声が鳴り響きクマの妖怪の眉間に風穴が空く。
ドスンと音を立て、クマは骸となった。
「ハハハ、ざまぁ見ろ!!クソ妖怪が!!死ねっ死ねっ死ねよ!!!!!」
ガスッガスッガスッと少年は、骸となったクマの妖怪を踏み躙る。
その間にも傷跡から大量の血が流れ出ている。
「お前……何やってんだよ……」
少年の後ろから青年が声を掛けた。
大嫌いな銃声を聞いて飛んできたようだ。
「あっ!!クロさん!!僕……殺したよ!!悪い妖怪をぶっ殺したんだ!!ざまぁ見ろ、僕の妹を返せ!!このっこのっこのっ!!!死ねよ死ねよ死ねよ!!!!!」
ニコッと城太郎は、青年に微笑み骸を踏みにじった。
「やめろ城太郎!!お前……酷い怪我だ、死ぬぞ!!血を流し過ぎてる!!」
「クロさんはもっと血を流してたじゃないか……こんなのへっちゃらだよ、僕は……僕はね、クロさんみたいに悪い妖怪をやっつけるのさ!!アハハ、殺してやる!!殺してやるんだ、みんなみんな殺すんだよ!!!」
興奮状態で自分がどれだけ危険な状態なのか分かっていないのだろう、城太郎は狂ったように骸を踏みにじっている。
城太郎……青年は、何も言えなかった。
自分の責任だ……オレが守れなかったから……
妹ちゃんも……そして、城太郎の心も……
何もかも守れず、憎いという心に任せて奴を殺したんだ。
満たされないな……失ってばかりだ。
自責の念で一杯だったが、それでもなお一歩踏み出さなければならない……
だから、青年は、ギュッと城太郎を抱きしめた。
「そんな事しなくていい……お前は、優しい子なんだ……そんな事しちゃいけないよ……憎しみじゃあ……何も解決しないんだよ、オレだって後悔してる、でも、そうするしかなかったんだ……オレみたいになるな……絶対になるな!!」
「アハハ、何言ってんのクロさん?悪者は殺さなきゃダメなんだよ……駆逐しなく…………ちゃ……」
身体に限界がきたのだろう、城太郎は意識を失う。
「ごめん、城太郎……ごめんな……」
青年は、城太郎を抱えて里まで運んだ。
いつの間にか城太郎の深い傷は消えている。
しかし、代わりに青年の顔色が悪くなった。
ダルい……ヤバいな……身体が重いぞ……