この小さな命をオレは守っていけるだろうか?
いや、守ってみせるさ……
「オレが、君を守……」
恐ろしい事に気がついた。
この子、痩せ細って骨と皮だけだ……
息も……虫の息……
それでもこの子は、懸命にミャーと鳴いている。
生きようと叫んでいる。
君ってやつは……
ビュン!!
と強い風が吹いたので反射的に目を閉じた。
目を開くと目の前に射命丸が立っている。
「そんなところで何してるのよ?」
まだ怒ってるんだろうな……口調からしてそんな気がした。
「別に……」
目を合わせずに答えた。
「あやや、可愛らしい猫ですね!!」
射命丸は明るい表情になった。
なるほど、女の子らしいや……
ふと気がついた。
手の中が冷たい。
小さな命の灯火が消えた。
「死んだ……死んだよ……」
物凄く寂しい気持ちになった。
死というものは直ぐそばにあるもので
みんなそれに気付かず生きている。
目を背けて生きている。
みんなが、アホに思えた。
が、生きることに目を背けているオレはもっとアホに思えた……
「悲しいですか?」
静かに射命丸は語りかけた。
「さぁね……」
彼女と目を合わせたくなかった。
なのでぶっきら棒に答えた。
この黒猫親子のお墓を作ろう……
そう思って素手で穴を掘った。
射命丸は、ただジッとそれを見つめていた。
黒猫親子のお墓が完成したころ、また彼女が話しかけてきた。
「優しいんですね……」
「は?」
「だって、この黒猫の親子を見つめているクロ君の目は、とっても優しかったです。」
「だから何?」
「…………ちょっと見直したってことですよ」
ムスッとして射命丸は言った。
「何の用?用がないならこれ以上……」
「関わるなっていうんでしょう?お生憎様、私は貴方を監視しないといけないんです!!私だって貴方みたいな死んだ魚みたいな表情の男を相手するなんて最悪だわ……」
機嫌が悪そうにオレを睨んで射命丸は言う。
まぁ、好んでこのイカれの相手なんか誰もしたくないわな……
「要件を言え要件を……」
いかにも面倒くさそうにオレは頭を掻きながら答えてやった。
正直、この子と関わっていたくない……
いや、元来オレは女性とあまり関わろうとしなかった。
いや、関わり方が全くもって分からないんだ……
分からないから怖いんだ。
向こうから来ることはあったが全て拒絶して、学生の頃は鉄壁やら、超ストイックやら言われてたな……あの頃は、自分の目標に向かって突っ走ってたし邪魔でしかなかったんだ……
「ハイハイ、貴方の住むところですけど、ここの近くに小さな小屋があります、昔は哨戒に使っていたものですが現在は使われていません、そこに住むと良いですよ、あと、これ」
チッ、と舌打ちをして射命丸はオレに脇差しとジャリジャリ音の鳴る袋を渡してきた。
なるほど、これがこの世界のお金か……
「流石に丸腰で妖怪の山をうろつくのは危ないです、あと、お金が無いと生活できないでしょう?あっ、受け取らないって選択肢は貴方にありませんよ?これは、組織から支給されたものです、貴方は受け取る権利がある。」
至れり尽くせりだな……
「ありがとう……」
「勘違いしないで下さい、上からの命令ですから、私は貴方に生きて欲しいなんて微塵も思っていないですから、じゃ、精々苦しんで野垂れ死んで下さいな」
ヘッと嘲笑し射命丸は飛び去る。
嫌な女……
ふと、蜂やトカゲ、黒猫親子の事を思い出して
少しだけ泣いた。