オレは幸せじゃない……
ずっとずっとそうだったと思う。
幸せって何か?
分かってるつもりだよ。
大切な人と何気なく過ごす毎日の事だ。
よく本にはそう書いてある。
嘘だ。
そんなの嘘だ……
じゃあなんでオレはこんなにも苦しいんだ?
こんなにも満たされないんだ?
こんなにも虚しいのだ!?
幸せなんかじゃない。
オレは幸せなんかじゃないんだ。
なってもいけないし、それだからこそ……オレは人を幸せになんてできない……
だから、人の幸せを守ろうと思ってたのにな……
何のために生きてきたんだよオレは……
クソッ……クソッ、クソッ!!!!!
青年はもう一発壁を思い切り叩いた。
さっきよりも大きな音がこだました。
「クロく〜ん」
ニコッと笑いながら少女が飛んできて窓から青年の病室に入る。
「ウゼェ……」
一人で考えて居たいのに邪魔が入った。
いや、居てくれた方が落ち着くけれど……
ごめん、文、イライラしてたのぶつけてしまった……
「ウザくて結構です、それが記者ですから〜」
ニヤッとして戯ける少女を見て、少し青年の表情が和らいだ。
「ねぇ……」
「ん?なんですか?」
少女は、首を傾げた。
この子はなんでオレと話してる時にニコッと笑ってるんだろう……
オレと居て楽しいの?
オレは……楽しいけど……常にニコニコ笑えないよ。
「幸せって何?」
「難しい質問ですね……強いて言うなら……ニコニコ笑っていられる時が幸せな時なんじゃないですかね?」
「ふぅん……じゃあ、どうやったら他人をニコニコ笑わせられるんだろう?」
「貴方が笑えば良いんじゃないですか?」
「オレが?」
「クロ君はかなり進歩してると思いますよ?私と会ったばかりの頃なんて死体みたいな表情だったのに……今では、生き生きしてますよ?意地悪そうに笑ったり、チルノさんと遊んでる時なんて本当に穏やかな微笑みを浮かべます……でも、いつもは何処か悲しげです……思い詰めたような表情してます、暗いんですよね〜まだ……だからもっと笑顔を増やせば良いんじゃないですか?」
「難しいよ……笑顔は苦手だ……」
青年がそう答えると、すかさず少女は青年の両頬を摘んでクイッと上に押し上げた。
「ホラッ、笑顔の練習!!」
ニコニコ少女は、笑って言った。
ほっぺた痛んだけど……
と青年は、思ったが、思いの外楽しいと思ってしまった。
「フフフッ……」
「クロ君は、辛い事ばっかり背負いこんでます……だから笑うのが苦手な気持ちも分かります……そうだ!!じゃ、今度私と遊んで下さい!!」
「はぁ?遊ぶだって?ままごとでもすんのかよ?」
あたかも嫌そうに青年は少女を見た。
それを見て少女は、ムッとしたが直ぐに笑顔に戻った。
「デートというヤツです、今度はちゃんとしましょう?もう置いていったりしませんから……」
「ばぁか……そう言うのは本当に大事な人ができてから行けよ、アホタレ……」
「………………」
青年の物凄く嫌そうな反応を見て暫く少女は、俯いて黙り込んでしまった。
青年は、少女を見て焦る。
いっ……行きたいけどさ?
いや、駄目だよオレとなんか……
そっ、そんな顔すんなよ……ごめん言い過ぎだってば!!
あああああああ〜 〜
内心青年は、パニック状態だった。
「でも……悪くないかもな……息抜きって大事だよね?いやさ……オレ……女の子とその、デートなんてした事ないんだよ、だから……どうすれば良いのか分からないし……何事も経験かな?」
青年の言葉を聞いて少女は、パァッと表情を明るくした。
「じゃっ、じゃあ行ってくれるんですね!!」
あやややや、このまま泣いて泣き落とししようと思ってたんですけど……けっこうチョロいなぁクロくんって……
ニヤッと少女は、口角を吊り上げた。
「うっ、うん……」
「あははは、この恥ずかしがり屋さんめぇ〜顔赤いですよ〜このこの〜」
ここから先は彼女のペースに嵌められてしまった。
からかわれてはオレが否定して……そしてまたからかわれる。
ウザい……クッッソウザい!!!
でも……嫌いじゃない……
「じゃあ約束ですよ!!その時になったら私がクロ君の所へ行きますから!!あっ、そうだ……近いうちに博麗神社で宴会あるらしいですよ?」
「宴会?」
「ハイ、そんなに大規模な宴会はしないと思うんですけど……クロ君、暇なら行ってみたらどうです?クロ君が行くなら私も行こうかな〜なんて……あははは……」
「オレ、酒弱いんだよね……」
困った顔で青年は言った。
それを見て少女は、ニッコリ笑う。
「何事も挑戦ですよ!!目の前に楽しそうな事があるんです!!それに飛び込まないなんて損ですよ!!」
「うっ……うんそうだね!!行こうかな」
「そう、それで良いんです!!」
少女は青年の返答を聞いてニッコリと笑う。
しかし、内面では……
へぇ〜クロくんお酒弱いのかぁ〜
良い事を聞いたぞぉ〜うしししし
酔い潰して色々とちょっかいかけまくって遊ぼうっと
楽しみだなぁ〜どんな面白い反応が見れるのかなぁ〜?
と黒い笑みを隠している。
そんな少女の思惑などつゆとも知らずに、青年は、宴会が少し楽しみだなぁと思っていたのだった。