では、本編です。
永遠亭に帰る頃にはもう夜が更けていた。
人喰い妖怪に出くわしたら一発でアウトだ。
喰われる。
帰ってから永遠亭のみんなにえらく怒られてしまった。
2時間くらい説教を喰らった。
みんな心配してくれている様なのでそれが嬉しくって、ちょっぴりニヤけてしまった。
翌日……
「貴方って人は!!!聞きましたよ!!そんな身体で里まで出歩いて!!」
朝っぱらから少女は、青年を叱っている。
青年の額は赤くなっている。
額目掛けて新聞をぶつけられたのだ。
この子、本当にコントロール良いなぁ。 ピッチャーやらせたら上手いかも……
と青年は、怒られながらもくだらないことを考えていた。
「貴方は私の助手でしょ!?死んで貰っては困るんです!!分かってるんですか!?」
「分かってる、分かってるさ、どうしても行かなきゃならなかったんだよ」
シュンとして青年は、少女を見た。
「何をする気だったんです?」
フンッと腕を組んで少女は、青年に問う。
しかし、青年は答えたくなかったので露骨に嫌そうな顔をした。
「べっ、別に何でもいいじゃないか」
「何ですかそれ!!言ってくれてもいいでしょう?命掛けてまで行く必要があった理由なんでしょう?」
青年の答えに少女は怒った。
それもそうだろう、彼に死んで欲しくなかったし、彼はもう彼女の助手なのだ。
たった1人の新聞の理解者、もはや、彼女の理解者と言った方が正しいのかもしれない。
「言いたくない……」
青年は葛藤していた。もし、言ってしまったらどうなるのだろうか?
オレを撃った子に会ってたって。
大体、心臓目掛けて鉛の弾を撃ち込まれて死にかけた事実だってこの子は知らないのだ。
言って心配かけたくない、それに、オレを撃った城太郎に対して、この子はどんな感情を抱くだろう?
もし、オレが死んだ時……
君は城太郎にどんな感情を抱くんだろう?
いや、 人間にどんな感情を抱くんだろう?
そんな考えが青年の頭を駆け巡る。
「…………なんで言ってくれないんですか?貴方は私の助手なんじゃないんですか!?それとも、口だけなんですか?」
俯いて少女は言った。
「違う!!」
すぐさま青年は否定する。
しかし、少女は俯いたままだった。
「だったら話してくれても良いでしょう!?私はこんなに心配してるのに……貴方は無茶ばかりして!!本当は助手の仕事なんてどうでも良いんでしょう?」
金切り声に近いような声で少女は言った。
目に涙を浮かべている。
それを見て青年はグサリと心臓に刃を突き刺されたような衝撃を覚えた。
「ちっ……違うって」
困惑しながら言う言葉も少女の耳には届かない。
「私……嬉しかったんですよ?貴方が助手になってくれるって言った時……本当に、本当に嬉しくって夜もドキドキして眠れない程に……」
「あっ、あのっ、文!!」
「さよなら……」
少女は窓から飛び去った。
青年は待って欲しくて伸ばした手を暫く見つめ、グッと握り締めた。
「オレは阿呆だ……」
誰も居ない病室に青年の声が響いた。
「本当に不器用な人ね、貴方は」
スキマから紫が現れた。
青年はボーッと紫を見つめた後に、フッと微笑んで言う。
「ペンと紙を……貰えませんか?」
「ん?」
思いの外落ち込んでいない様子の青年を紫は訝しそうに眺め、無言でペンと紙を手渡した。
「ありがとうございます」
「かっこ悪いわよ、遺書を書くつもりなんでしょう?」
少し青年に対して失望しながら紫は言った。
しかし、紫の言葉を聞いて青年はケラケラ笑った。
「あははは、違いますよ、あの子には悪い事をしてしまいました、泣かせちゃいました、それでも、ちゃんと理由があるって事を分かってくれてる筈です。あの子は賢いから……まっ、それとは別で、手紙を書こうと思いまして。」
ニッと青年は笑ったので紫はピンときた。
「ラブレターね」
クスッと笑って言う。
「なんか、響きが嫌いだなぁ、恋文という奴です」
ニカッと青年は笑って答えたのだった。